落語「夏泥」の舞台を行く 五代目柳家小さんの噺、「夏泥」(なつどろ)
■寄席では;客席に眼の御不自由な方がいらっしゃると、眼の不自由な噺はいたしません。
■小話から;この噺のマクラで泥棒の小話をしています。
・まずは出典から、『気のくすり』(安永8年・1779)より、
・デモ泥と言って、泥棒にでもなろうという泥棒で、いつも失敗ばかりして一人前になれません。五右衛門の子分で四右衛門、その子分で三右衛門、その子分が二右衛門半と言うよな、中途半端な泥棒が落語の世界は闊歩しています。
・泥棒の中でも技術が立つのが、スリです。冬場、コートの下の背広からボタンを外し、チョッキのボタンを外して内ポケットから財布を取り出し、札束だけ盗んで、財布を戻しボタンを閉めて・・・、と言う凄いのが居ます。
・親分の所に戻ってきた子分達が、今日の戦果報告をしています。みんなが入れたはずの戦果が足りないので聞くと、「そんな事は無いんだがな~。そうすると、この中に手癖の悪いのが居るのかな~」。
・奥に泥棒が入ったみたいなので、奥様が亭主を起こした。「本当に泥棒か?ネズミじゃないのか」、「大きな音がしたよ」、泥棒もしょうが無いので、「チュ~」。「ネズミが鳴いてるよ」、「違うよ、もっと大きな音だったよ」、「じゃ~、猫かな?」、「ニャ~、ニャォ~」、「ホラ猫が鳴いてるよ」。「もっと大きな音だったよ」、「犬かな?」、「ワン、ワンワン」、「犬が鳴いてら~」。「もっと大きな音だったよ」、「だったら馬かな?」、「ヒヒ~ン」、「馬が鳴いてら」。「違うよ。もっと大きな音がしたよ」、「牛かな~?」、「モ~ォ」、「ほら牛だ」。「もっとガタガタ大きな音だったよ」、「ゾウかな?」、泥棒さんゾウでは鳴けません。バタバタと庭に逃げて、塀を越せばよかったが高くて逃げられず、池に飛び込んだ。松の枝先に出ているのが泥棒らしいが良く分からないので、竿竹で頭を突いた。「泥棒か、杭か。泥棒か、杭か」、泥棒さん切なかったと見えて、「クイ~、クイ~」。
■木戸(きど);長屋の入口には木戸が設置されていて、袋小路の長屋だったら、そこしか出入り口が有りません。木戸にはカンヌキがあって、朝6時から夜は10時までしか開放されていません。木戸には潜り戸があって、そこにはカギが掛かっていて大家か月番が持っています。扉の外から声を掛けてカギを開けて貰いますが、借りが一つ出来てしまいます。
右図:長屋の入口。浮世床より
■抜け裏と袋小路(ぬけうらとふくろこうじ); 長屋の中を通過して、裏に出られるのを、抜け裏と言い、裏に抜けられない長屋路地を袋小路と言います。
■ダンビラ;大刀で、刃の幅広いもの。
徒広(ただびろ)が語源で、セリフの「二尺八寸・・・」は
落語・講談・芝居の泥棒の常套句です。二尺八寸は84.84cm。刀の定寸が「二尺三寸」(約70cm)位であるというが、実戦刀ではないので通常の大刀はもう少し短く、60cm台が多い。
上:国宝「相州正宗」(名物 観世正宗)東京国立博物館蔵。刃長64.4cm、もとの茎(なかご)をきり詰めて寸法を短くしている。 能楽の観世家が所持していたことから「観世正宗(かんぜまさむね)」と称される。
■蚊燻し(かいぶし);「蚊遣(かやり)」。蚊帳が無いと蚊に食われ放題になりますから、今の蚊取り線香の代わりに、蚊を追い払うために、煙をくゆらし立てること。その燃やす物は蚊遣りに焚く香で、原料は除虫菊の花・葉・茎などの粉末です。ここの長屋の主はそんな高価な物は焚けないので、枯れ草などを集めて、火を着けています。モウモウと煙が出て、まるで火事のようです。いえ、火事になりそうです。
■火事(かじ);「武士鰹大名小路広小路、茶店紫火消錦絵、火事に喧嘩に中っ腹」。
■鼠小僧(ねずみこぞう);義賊と言われたが、その実、盗んだ金1万2千両は飲む・打つ・買うの道楽につぎ込んで、貧乏人に配った事実は無い。小塚原で処刑され、両国と千住の回向院に墓がある。
■半纏、股引(はんてん、ももひき);股引はパッチとも呼ばれ、職人がはいたズボンのような物。その上に着たのがダボシャツで、寅さんが上着の下に着ていたブカブカの白いシャツ。職人はこの上に、紺色の腹掛けを着けます。この腹掛けには大きな(ドラエモン)ポケットがあり、ドンブリと呼ばれていて小銭をバラで入れていました。この中から小銭を出して使っていたのを、どんぶり勘定と言いました。職人はこの上に半纏を羽織って颯爽と職場に出掛けました。
着物の下に腹掛けを着けています。下半身は股引です。煙草入れを腰に下げている者も居ます。半纏は職人の正装ですから着ていません。江戸東京博物館蔵。「熈代照覧」より”基礎固め中の職人”部分
■煙草入れ(たばこいれ);煙草を入れる携帯袋で、これには煙管(キセル)入れが付いていて、帯に挟んで持ち歩きました。
■ヤニ下がる(やにさがる);煙草を吸うとき通常はキセルの雁首を下に下げて吸います。しかし気取ってキセルを持つと、キセルの雁首゙を上にあげ、脂(ヤニ)が吸口の方へ下がるようなかたちでタバコをふかします。転じて、気どって構える。得意気になって、にやにやする事を指します。
2016年7月記 前の落語の舞台へ 落語のホームページへ戻る 次の落語の舞台へ |