落語「カラオケ病院」の舞台を行く
   

 

 大越光洋作
 春風亭柳昇の噺、「カラオケ病院」(からおけびょういん)より


 

 「大きいことを言うようですが、今や春風亭柳昇といえば・・・、わが国では私1人」(お決まりのマクラ)

 「院長先生、どうしてこの病院は患者が減ってしまったんでしょう?」、「ホットクと潰れるので、緊急会議を開きたい。で、皆集まったかな」、「急なもので4人が欠席になります」、「急だからしょうが無いが、誰だい」、「内科の内藤先生は、朝から成田に行っています」、「外国の人を迎えに行ったのかぃ?」、「いえ、成田不動で、持病の腰痛の祈願に行かれています」、「医者が神頼みかい。他の先生は?」、「外科の外山先生で、週二回学校に行っていますので、出られません」、「偉いねこの年で勉強だなんて」、「お料理の勉強です」、「なんで?」、「このままでは、この病院は潰れるから、調理師になるため板前の修業をしています」。
 「他は」、「外科の桐野先生で、今、寝ています。手術をするのに麻酔が効きませんで、自分に試したら効いてしまい夜8時にならないと起きてきません」、「しょうがないな。患者は?」、「患者は時間が有るからと、近くの飲み屋に行っています」。「他は」、「耳鼻咽喉科の耳野先生で、息子さんが盲腸になったので駅前の病院に入院させて、付き添いで行っています」、「ウチだって病院だよ。なんでなの?」、「大事な一人息子だからと・・・」。

 「患者が減ってしまった、その原因に心当たりがある方は・・・」、「夏に81人という食中毒を出したのがダメージとなっているのでは・・・」、「あれはいけなかったね。病院から患者を出してはいけないね。病院は患者が来るところだからね」、「原因は焼き海苔で、その上をネズミが歩いたんです」、「それでチュー毒か」。
 「他には、病院の前に駐車違反の車が止まるので『ここではチュウシャはできません』という看板を出したんです。そしたらガタッと患者が減りました」。
 「他になにか良いアイデアは有りませんか」、「もっと室内を豪華にして、厚い絨毯を敷いて、シャンデリアを下げて、看護婦も今の服装を止めて、網タイツのバニーガール風にしたらどうでしょう。患者にもウイスキーの水割りを無料で配ります」、「患者がほろ酔いなら、医者だって飲んで、ほろ酔いになって・・・」。
 「他には」、「治らなかったら、お金は要らない。と言うのはどうでしょう」、「ユニークで良いのですが、ウチにそんなイイ医者はいるかね」、「治りそうな患者だけ診て、治りそうも無い患者は帰って貰う。元気な人だけ診て、病人は診ない」、「ここは病院だよ。他にないかね」。「国民は豪華なものをよくしています。手術など1等・2等・3等または松竹梅とランク付けします。1等は手術料3倍、その替わり麻酔薬は3倍。手術は麻酔が切れると痛いので、完治するまで麻酔が切れないように寝かせておく。無痛病院です」、「2等は?」、「局部麻酔で、手術をモニターで見る事が出来る。切り開くところや、血がドクドクと出るところが見られる」、「3等は?」、「麻酔無し。痛いでしょうが他人の身体ですから・・・」。
 「それは乱暴だ。他には」、「ミス病人を選んだら。1等に選ばれたらヨーロッパ旅行」、「費用が掛かるだろう」、「全額患者持ちで、私らが無料で随行」。

 「もっと現実的な案は無いでしょうか」、「カラオケ道場を院内に開いて、患者さんに歌ってもらう」。と言う事で、院内を改装してカラオケ道場がオープン。目論見はあたり、カラオケ大会が開かれた。

 「1番。風邪。『星影のワルツ』。♪熱の有るのは辛いけ~ど 寒気のするのはなお辛い 薬を飲んでも少しも効かぬ あんなに丈夫な私なのに~ あんなに丈夫な私なのに~ 裸で寝たのがマズかった~」、「お腹を冷やしてはいけません。歌は上手くなかったが熱が有った」、「そうでしょう風邪なんですから」。
 「2番。胃腸病。『北国の春』。♪飲み過ぎ~食べ過ぎ~二日酔ぉい~ 吐き気して苦しい飲み過ぎの ああ、食べ過ぎのぉ~朝 胸はムカムカ頭は痛い ど~して夕べはあんなに飲んだのか もう、酒飲むの止めよかな~ 止めようかな~」、「お酒はなかなか止められない。昔兵隊さんが頑張って禁酒したら勲章を貰った。金鵄勲章(きんしくんしょう=禁酒勲章)」。
 「3番。水虫、『昴』。♪目を閉じて寝ていれば 水虫が痒くなり ガマンできなぬかゆさに~ 薬を塗ぅ~れば ああ~、しみぃ~て しみぃ~て痛いよ~ なぜぇ水虫~ 我を泣かすか 我~の足は水虫で痒いから わ~れの足、誰か掻いてくれ」、「足ぐらい自分で掻きなさい」。
 「4番。妻のぎっくり腰。『夫婦春秋』。♪付~いて来いとは 言わぬのに 黙って後から付いてきた ぎっくり腰で~、歩けぬ女房~ 仕方がないからおぶったら~ お尻の目方~でぇ~ 汗かいた~ おもい~」、「奥さん喜んだでしょう」。
 「5番。痔。『お久しぶりね』。♪お久しぶりねぇ~ いぼ痔が出るなんて~ あ~れから治ったと思っていたが いぼ痔は ちっとも治っていない 薬を塗ったが、やっぱりダメだ~ 痔ぃ~は薬では治りません 早く入院したうえで、切ってもらえと医者は言う 何だか恐い~ もう一度 もう一度診察受けて 痛いから切らないで治して欲しいの~」、「しかし、痔は切った方が治りますから、早く切りましょう」、「お金ならいくらでも出しますから、切らないで欲しいんです。100万円、500万円、1000万円、1億円でも出しますから・・・」、「貴方、随分お金持っているんですね。商売はなんですか」、「地上げ屋です」。

 



ことば

登場する元歌
星影のワルツ(千昌夫):作詞 白鳥園枝  作曲 遠藤 実
  別れることは つらいけど
  仕方がないんだ 君のため
  別れに星影の ワルツをうたおう
  冷たい心じゃ ないんだよ
  冷たい心じゃ ないんだよ
  今でも好きだ 死ぬ程に

北国の春(千昌夫):作詞:いではく  作曲:遠藤 実
  白樺(しらかば) 青空 南風(みなみかぜ)
  こぶし咲く あの丘 北国の ああ 北国の春
  季節が都会では わからないだろと
  届いたおふくろの 小さな包み
  あの故郷へ 帰ろかな 帰ろかな

(谷村新司):谷村新司作詞・作曲
  目を閉じて 何も見えず
  哀しくて 目を開ければ
  荒野に 向かう道より
  他(ほか)に 見えるものはなし
  嗚呼(ああ) 砕け散る 運命(さだめ)の星たちよ
  せめて密(ひそ)やかに この身を照らせよ
  我は行く 蒼白き頬のままで
  我は行く さらば昴よ

夫婦春秋(村田英雄):関沢新一 作詞 市川昭介 作曲
  ついて来いとは 言わぬのに
  だまってあとから ついて来た
  俺が二十で お前が十九
  さげた手鍋の その中にゃ
  明日の飯さえ なかったなァ お前

お久しぶりね(小柳ルミ子):作詞・作曲:杉本真人
  お久しぶりね あなたに会うなんて あれから何年経たのかしら
  少しは私も大人になたでしょう あなたはいい人できたでしょうね
  お茶だけのつもりが時のたつのも忘れさせ
  別れづらくなりそうで なんだかこわい
  それじゃさよなら元気でと 冷たく背中を向けたけど
  今でもほんとは好きなのと つぶやいてみる
  もう一度 もう一度生まれ変わって
  もう一度 もう一度めぐり逢いたいね

カラオケ;「空」の「オケ(オーケストラ)」の演奏で歌えるという意味。本来歌手が自分の歌のカラオケを持ち歩き、オーケストラの準備のない所でも歌えるようにしたもの。
  やがて素人向けのものが一般化すると、昭和の間は演歌が常に上位を占めていた。平成に入ると、カラオケボックスという、仲間うちだけで歌って聞くという店が出来、ヒットソングをいかに他の人より早く歌うかが勝負となり、ポップス系の曲が常に上位を占めるようになった。実際には昭和の頃からこちらが上位にあったはずであるが、統計に入れられなかったためだという。

金鵄勲章(きんし‐くんしょう);武功抜群の陸海軍軍人に下賜された勲章。功一級から功七級まで。明治23年(1890)制定。年金または一時金の支給を伴う。1947年廃止。
「金鵄」という名前の由来は、神武天皇の東征の際に、神武の弓の弭にとまった黄金色のトビ(鵄)が光り輝き、長髄彦の軍を眩ませたという日本神話の伝説に基づく。

  

左:功二級金鵄勲章 (功一級金鵄勲章副章)。右:功五級金鵄勲章

(すばる);プレアデス星団というのは、和名で「すばる」、中国では「昴(ぼう)」と呼ばれるおうし座の散開星団のこと。
 肉眼でも輝く5–7個の星の集まりを見ることができる。双眼鏡で観測すると数十個の青白い星が集まっているのが見える。比較的近距離にある散開星団であるため狭い範囲に小さな星が密集した特異な景観を呈しており、このため昔から多くの記録に登場し、各民族で星座神話が作られてきた。 約6千万-1億歳と若い年齢の青白い(高温の)星の集団である。核融合の反応速度が速いため寿命は比較的短いと予想されている。星団を構成する星の周囲に広がるガスが青白く輝いているのは、星々とは元々関係のない星間ガスが星団の光を反射しているためである。

 

 日本での唯一の和名スバル(SUBARU)は、富士重工業が展開する自動車製造部門のブランド名である。 

病院経営(びょういん_けいえい);一般企業と同じように色々な苦悩を内に秘めています。
 厚生労働省は医療施設経営安定化推進事業を推し進めています。中小病院を取り巻く環境は今後ますます厳しくなることが予想される中、これまで以上に自院の強み、地域における役割やポジショニングを明確化し、さまざまな要素を総合的に判断した上で、中長期戦略の決定や経営改善に取り組むことが求められる。
 日本病院会と全国公私病院連盟は、2014
年の「病院運営実態分析調査の概要」を発表しました。それによりますと、病院全体での平均在院日数は同年6月時点で15.55日(前年同月比0.8日減)、病床利用率は72.51%(同0.48ポイント減)、100床当たりの収入金額は1億7637万6000円(同2.6%増)、同じく費用額は1億9051万円(同4.7%増)などという状況で赤字病院が77.8%(同7.7ポイント増)となったことが分かりました。
 カラオケぐらいでは、傾いた病院はなかなか立ち直れないようです。

病院(びょういん);病人を診察・治療する施設。医療法では20人以上の入院設備を備えるものをいう。
 なお、診療所(しんりょうしょ。クリニック)とは、医師または歯科医師が開設する診察並びに治療の設備を備えた施設で、医療法上は入院設備を持たないか、または19人以下の入院設備を持つものをいう。
 他に、医院があり、病院または診療所でないものは医院その他の病院または診療所に紛らわしい名称を付けてはならないとあるが(第3条第1項)、医院には医療法上の正式な定義はなく、病院または診療所が医院を名乗るのは、床数等にかかわらず自由である。

内科(ないか);主に身体の臓器(内臓)を対象とし、一般に手術によらない方法での診療とその研究を行う医学の一分野。医学において古代よりその基礎中心ともいえる領域。 日本の代表的内科学書、朝倉書店刊「内科学」によれば「内科学は疾病の本態と原因を明らかにし、疾病を発見し、対処して、患者の社会生活を可能な限りに健康的に維持するための臨床科学である」としている。
 現代の内科学は、物理学、化学、薬理学とともに発展してきたといえる。電気や放射線といった分野での発展は心電図やX線、ペニシリンの発見、ポリメラーゼ連鎖反応といった技術を生み出し、全てノーベル賞を受賞している。また、化学合成技術の発展は新たな治療薬と薬物を用いた研究による新たな医学上の発見をもたらした。

外科(げか);手術によって創傷および疾患の治癒を目指す臨床医学の一分野である。外科学は外科的手法を用いる全ての分野を包括する基礎となる学問である。
また、脳神経外科学、整形外科学は戦前より外科学の一分野から独立し、それぞれ個々の学問として確立している。その他、眼科学、耳鼻咽喉科学、泌尿器科学、皮膚科学、産科・婦人科学は、歴史的にそれぞれの器官の外科的治療を行う外科学分野として発展してきた経緯があり、医療の専門性が高まったことにより、現在では外科学から完全に独立した診療分野となってきている。

耳鼻咽喉科(じびいんこうか);顔面から頸部までの臓器である耳、鼻腔、副鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、甲状腺等を主に診療研究する医学の一分野。

麻酔(ますい):術前、術中、術後に麻酔の管理を行う麻酔科の医師であり、今日では手術の進行と共に不安定になる患者の容態を医療行為によって生命維持する役割(全身管理)を担う。手術室でのチーム医療(手術チーム)の一員である他、複数の麻酔科医を麻酔チームと呼ぶこともある。全身麻酔手術中は、麻酔と筋弛緩剤によって、呼吸を含む患者の生命維持機能の多くが停止するため、必然的に麻酔のみでなく生命維持全般を受け持つ。術後の意識状態の確認も含み、救急医療での蘇生(心肺蘇生法)との学術的繋がりが深い。

地上げ屋(じあげや);都市における土地は、細切れの状態よりも街区単位でまとまっている方が大規模な建築物が建てられ、面積あたりの利用価値が高くなる。そのため細切れの土地を買い取り区画を大きくして再開発用地等に提供する手法である。 土地の整理分合によって公共用地を生み出し、なおかつ地区全体の土地の価値を高めるという点では、土地区画整理事業や市街地再開発事業などの都市計画事業(面整備)は公的な地上げ行為と言える。 バブル期においては地主や住民を恫喝する等強引に土地を買い漁り、街区単位でまとまった段階で転売して膨大な利益を上げる地上げ屋が台頭していた為、ネガティブなイメージがつくきっかけになった。 しかし本来の地上げは、権利関係の複雑な土地・建物を買収する都市開発の専門業者として存在していたものである。



                                                            2016年9月記

 前の落語の舞台へ    落語のホームページへ戻る    次の落語の舞台へ

 

 

inserted by FC2 system