落語「尻餅」の舞台を行く
■「餅つき」という内容から、年末に演じられることの多い作品。決して転んで尻餅をつくのとは違います。上方では、「おこわにしとくれ」というオチが「白蒸(しろむし)で…」となっている。
おこわや白蒸は、もち米を蒸して、まだ搗いていない状態のもので、『もう叩くな』という意味です。八代目可楽はこの前に『掛取万歳』の前半部を付け、この夫婦の貧乏と能天気を強調しておくやり方を取っていた。上方では笑福亭系の噺で、五代目・六代目松鶴の十八番だった。ちなみに、要となる『餅をつく音』は、丸めた掌をもう一方の掌ではたいて表現しています。
ここだけの内緒話。貧乏長屋の土間(入口の土足で入る場所)は畳半畳の広さしかありません。そこに臼をしつらえて、大の男が杵をふるって餅を搗く余裕はありません。また、その餅をくっつかないようにする相方も必要です。下の図でも分かるように、臼を中心に二人掛かりです。そんな事も忘れて尻餅を搗く二人に笑い転げることになります。
■昔の大晦日は、日付的にも金銭的にも一年の「総決算」だったため、人々の心はかなり殺気立っていた。
大晦日を題として川柳には、どれもただ事ではない雰囲気が漂っている。
図、上:十二月之内 師走 餅つき 歌川国貞画 家族中で手分けして作業している。江戸東京博物館蔵
■白い尻;東京でも上方でも、女房の尻をまくった亭主が「白い尻だなあ」と言うセリフがある。
江戸時代には、床を共にする際の《後ろからのアレ》は問題視されていたため、八は初めて見る女房の尻につい見とれてしまったのだろう。
尻を引っぱたく亭主がだんだんと”過熱”していくなど、どこと無く『艶がかった』内容の噺です。
■梅屋;北海道様似郡様似町本町2丁目115。右写真:冗談で作ったのが当たって今では名物に・・・。
■白蒸し;もち米の蒸したもので、ウラ盆に仏に供える。赤飯に対して、これは色をつけていないので、白蒸しという。
■箱提灯(はこぢょうちん);上と下とに円く平たい蓋があって、たためば全部蓋の中に納まる構造の大形提灯。蓋には蝋燭を出し入れする孔がある。
■弓張り提灯(ゆみはりぢょうちん);鯨のひげや竹を弓のように曲げ、火袋をその上下にひっかけて張り開くように造った提灯。弓のところを持つ。
「東海道五十三次 関」 広重画 本陣から旅立ちで陽が出る前の朝の風景。
上図左の煙草を吸う小者の前に置かれたのが、弓張り提灯。幔幕や提灯の柄は広重の実家「田中家」を図案化したもので、回りを御所車で囲ってあります。
上図正面奥で持っているのが、箱提灯。箱提灯に描かれている図柄は、四角の中にカタカナのヒが描かれ斜めにしたもので、広重の意匠で、遊び心です。
■大晦日(おおみそか); 1年の最終の日。おおつごもり。
■薪屋(まきや);燃料にする木。雑木を適宜の大きさに切り割って乾燥させたもの。たきぎ。わりき。それを売る店。石炭や石油の化石燃料が無い時代に、燃料と言えば炭やたきぎの薪しかなかった。現代で言えば燃料屋さんで、生活に欠かせない商売であった。江戸の周辺地から農閑期の冬に炭を焼いて都市部に出荷されていました。エネルギーの最重要品目でした。その薪も買えない貧乏人が住む長屋を戸無し長屋と落語では言っています。戸も下水の板まで燃やしてしまったのです。
■餅を搗く(もちをつく);多くの蚊が群れて上下しあう。また、男女が交接する。あもつく。
■おこわ(御強);こわめし。赤飯(セキハン)。餅を搗く前の蒸かしただけの飯。臼が悲鳴を上げていますので、搗かないそのままの飯で結構と奥さんは懇願しています。
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