落語「鮑のし」の舞台を行く 古今亭志ん生の噺、「鮑のし」(あわびのし)
■この後にまだ噺が続きます。
『乃し』のサゲが時代とともに少々わかりにくくなったため、五代目志ん生は「クルッと尻をまくってやりたいところだが、事情があって今日はできねぇ」の箇所で終わらせた。
この落ちの意味ですが、続けて書かれた”のし”、とは、のし紙に縦にひらがなで、のしと続けて書かれたもので、リンゴの皮をむいたようにクルクルとまるまっているものです。杖をついている”乃し”、とは、のしを「乃し」と書くもので、乃の字が杖をついている様に見えるためです。
■甚兵衛さんと与太郎さん;江戸落語では、甚兵衛さんの人物設定は人が良くて人にも好かれ好人物ですが、生活力が無いため、いつも女房の尻に引かれています。人が良いんですね。そこいくと、人は良くても与太郎さんは頭のネジが一本緩んでいます。甚兵衛さんは決して与太郎さんのようにネジは緩んでいません。落語家さんは甚兵衛さんと与太郎さんの使い分けがシッカリできていないと、噺はズレてしまい、難しい人物設定の二人です。
■熨斗って:「熨斗」 なんて読むかご存じでしょうか?
答えは「のし」です。
のし紙とか、のし袋の「のし」です。右写真。
のし紙とかのし袋のどこに熨斗があるかというと右肩の長六角形の 真ん中に包まれた黄色い物が熨斗なのです。今はセルロイドや樹脂で出来たものに置き換えられていますが、元の姿は あわびをのした”熨斗あわび”なのです。その熨斗あわびとはどんなものでしょうか。あわびを薄く剥いて乾かし、竹筒など円筒形のもので伸ばしたものを言います。遠い昔から、不老不死の妙薬・寿命を延ばす・商売を伸ばすとして贈る方も贈られる方もこの世に存在する贈り物の中でいちばんの最高級品でした。
熨斗(火熨斗):火熨斗(火で温めたもの)を使って伸ばしていた所もあり、 熨斗で伸ばした鮑を『熨斗鮑』と呼ぶようになりました。 室町の武家社会はせわしく「のしあわび」と呼ぶことを煩わしく簡略して 「ノシ」と呼ぶようになりました。
たとえば、出陣の『三献の儀』出陣前の慌ただしい中で厳かに行われますが 家臣一同揃ったところで大将か軍師が「ノシをもてぃ」と三献の肴 (打ち鮑、勝ち栗、昆布)を賠膳役が運んだのではないでしょうか? 本物のし袋伊勢熨斗は伊勢志摩で海女が素潜りで獲った鮑を薄く剥き乾燥させ熨斗あわびを作り、手漉き檀紙を折った本格派の祝儀袋に付けた。
三献の儀:室町時代より武士は出陣の時、”打ちあわび、勝ち栗、昆布”の三品を肴に酒を三度づつ飲みほす儀式がありました。
これを『三献の儀(さんこんのぎ)』 或いは『式三献(しきさんこん)』と言い、宮中の儀式であったこの三献が武士の出陣・婚礼・式典・接待宴席などで重要な儀式となりました。
■磯の鮑の片思い(いそのあわびのかたおもい);(鮑が片貝であることから)
自分が相手を思うだけで、相手が自分を思わないことにいう。「鮑の片思い」とも。磯の鮑の片思いとは、片思いをしゃれて言うことば。アワビはミミガイ科の巻き貝で、殻が二枚貝の片方だけのように見えることから、「片貝」の「片」と「片思い」の「片」をかけて言ったもの。
『万葉集』に『伊勢の白水郎の朝な夕なかづくてふ鮑の独念(かたおもひ)にして』(伊勢のアマが朝夕ごとに海に潜って取ってくるアワビのように私は片思いばかりしている)。という歌があるように、古くからあることわざ。
■尾頭付(おかしらつき);尾も頭もついたままのさかな。神事・祝事などに用いる。「鯛の尾頭付き」。尾頭付きと言えば鯛にトドメを刺します。イワシの尾頭付きではさまになりませんし、秋刀魚や目刺しでは頭も尾も付いていますが、尾頭付きとは言いません。
■大家さん(おおやさん);大屋、家守(屋主)、家主とも呼ばれた。地主・家持ちの代理人として町屋敷を管理する差配人。一般に城下町においては、城下に居住する町人に土地が与えられた。しかし、このような本人の住居として土地の他に、拝領地・拝借地を与えられることもあった。この、所持地を貸したり、家作を貸したりし、土地の地代・店賃徴収する必要から管理人(差配人)として大屋を置くようになった。大家・家守は通称で、公式の書類には家主と記録されています。ですから大家さんは使用人であって、所有者ではありません。また大家さんになるには、大家の株を買わなければなれませんでした。
■伊勢の海女さん;海女とは、海底に素潜りで入って、貝類や海藻を獲る漁を生業としている女性たちのことを言います。
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