落語「夢の焼きもち」の舞台を行く
   

 

 桂米丸の噺、「夢の焼きもち」(ゆめのやきもち)より


 

 トロトロッ~と居眠りしているときの気持ち良さ、だったら布団の敷いてあるところでお休みになれば良いようなものですが、それでは眠れないという人が居ます。夜中に3度も起きて睡眠薬を飲んだが効かなかった。朝起きて枕元の薬を見ると減っていない。「あ~、飲んだのは夢だったか」。
 イビキも片道なら良いのですが往復にかく方がいます。でもリズム良くかいていれば良いのですが、リズムがくずれるとビックリします。本人もビックリして目を覚まし「凄いイビキだな~」と、驚きます。
 寝言もお子さんのは可愛いです。「もっとプールの真ん中で泳ごう」、起きてから、やっちゃった。
 大人の寝言は後々余韻を残しますね。奥様以外の女性の名前を言ったばっかりに、奥様に顔を引っ掻かれるようなことが起こります。その時はどうするか・・・。慌てず、冷静に、多くの名前を並べるのが良い。「春子、奈津子、明子、冬子、光子、よつ子、照子、最後に小百合。母ちゃん、やっぱり、この名が一番イイね。と言えば奥さんは安心するもんです」。

 「貴方、なにをニヤニヤしているんですか」、「友達と夢の話が出て、夢の日記を付けているのがいるんだ。慣れてくると、夢の続きが見られるそうだ」、「まぁ~、凄いわね」、「まだ、序の口で、夢の予告編を見るという」、「バカバカしいわね」。
 「夢に色があるか、と言うんだ」、「夢に色なんて無いワよ」、「私も無いと思ったんだ。そしたら『まだ君は色のない夢見ているのか』と言われたんだ。『もう、いい加減にカラーにしたら』と言われてね」、「テレビみたいな事言って・・・」、「田中君なんか総天然色の夢を見るそうだよ」。
 「これは夢だな、と分かっていて見ることがあるんだ」、「それって、よっぽど良い夢なんでしょうね」、「私も見たことがあるんだ。朝、出掛けにお前が玄関に送ってきて、『お小遣い上げるわ』。と、言って一万円札を出し、『使ってきて頂戴』というだろ、その時夢だと分かったんだ。醒めたらいけないと思って目をギュッとつむったんだ。それから会社に行かず、飲みに行ったね」、「夢の中でも飲んでるのね」、「いつまで飲んでも酔わないんだ。それで醒めた」。

 「恐い夢を見ているときは、胸に手を乗せているんだ。恐いな」、「こないだもうなされていたわね。どうしたの」、「てくてく橋を歩いていると、うら若い女性が欄干に手をかけ手を合わせているから、身投げだと思い後ろから抱き止めた。乙女の胸のふくらみを感じ、もうチョッとこのままで・・・。どうしたんですかと聞いたら『お金が無いもので・・・』、どのぐらい有れば間に合うのですか、千円も有れば足りますか。『お金がなければ、黙っていて下さい』、そんな言い方は・・・。と思っていたら、川に飛び込んじゃった。泳げないし、歩き始めたら、『今、助けてやろうとおっしゃった方~』。振り向いたら、全身ずぶ濡れ、頭はザンバラ髪、ほつれ毛が額に掛かり、額はザクロのように切れて、血が滴っている。『今、助けてやろうとおっしゃった方~』と言われ、足がつって動かなくなった。三段跳びのスローモーションみたいにしか動けない、その後ろに娘の手が伸びてきた。電話ボックスに飛び込んだが、昔のだから扉の取っ手が丸く穴が空いているんだ、そこから手がチョロチョロ入るんだ。首筋にポタリポタリと水が垂れてきた。ボックスの上を見たらガラスが割れて、女の顔が入って来た。わっ~。途端に目が覚めた。枕元の花瓶が倒れ、水がこぼれていた」。

 「夢占いもあるだろ。富士山の夢は良い。死んだ人の夢を見ると、その人は長生きするという」、「じゃぁ~、貴方は長生きするわね~。怒らなければ言うけれど、夕べ貴方が死んだ夢見たの。私一人がポツンと部屋にいて、チッとも悲しくないの。そこに貴方の友達の太田さんが来ているのよ。あのイイ男の太田さん」、「あいつは女にモテて、人気があった。社長のお嬢さんに見初められ、大阪の支社長になったんだ」、「そうなの。私が一人で居ると、『私も妻を亡くしまして、お互い寂しい身ですな~』というの」、「面白くないこと言うじゃないか」、「二人で街を散歩しているのよ。映画を観ようと貴方と観たかった『いつでも許すわ』なの。二人で観たの。もう出ましょうと外に出たら、明るくて目が覚めたの。貴方がカーテン開けてたの。それでお終い」。
 「誰か来たみたいよ。あらッ、太田さんよ。ウワサをすれば何とやら・・・」、「清水君は元気ですか」、「ははは、元気です。元気で悪かったな」、「大阪から久しぶりに戻ってきたんだ。銀ブラして映画観たんだ」、「なんていう映画?」、「『いつでも許すわ』」。

 



ことば

■似た噺があって、落語「夢の酒」です。夢の酒に出てくる、焼きもち焼の奥様は、新婚間もない可愛い嫁さんで、この噺の夫婦とは大違い。まだまだ、焼きもちを焼いている内が華です。大いに焼いて焼かれましょう。歳取ってからでは志ん生曰く「宮戸川」の伯父さん夫婦の会話、「焼きもち焼くような歳では無いだろう。自分を焼くような歳だろう」と言われたら身も蓋もありません。

 焼きもちの噺は落語には多く有って、直接相手が居るわけではありませんが、亭主が信じられなくて兄さんの所に別れたいと相談に来る「厩火事」。死んでも惚れた亭主が後添いを貰うのがガマンできずに、独身で過ごすとの一言で納得する「三年目」。お菊さんは幸太郎の後妻が来るのに嫉妬して成仏できない「もろこし女房」。
 奥様とお妾さんのお馴染み焼きもちでは、死んでも火の玉同士がぶつかり合う「悋気の火の玉」。お妾さん宅から小僧が貰ってきた独楽で、今晩の旦那のお泊まり先を占う「悋気の独楽」。亭主が出掛けるのを怪しいと見て後を着けさすが、旦那に買収された権助はアリバイ工作で、網取り魚を買う「権助魚」。権助さん一晩中提灯持ってお妾さんとご新造さんの間を行ったり来たり「権助提灯」。間に入った権助が迷惑千番「一つ穴」。

 片一方が相手側に想いが伝わらず、ヤケを起こしかける「おせつ徳三郎・下」(刀屋)。惚れた男に会えなくなって、幽霊になって出て来た「怪談於三の森」。「怪談牡丹灯籠」も同じような噺です。越後から出てきた縮売りの新助は芸者・美代吉にだまされて焼きもちどころか刀を振り回すはめになる「名月八幡祭り」。同じような「大丸屋騒動」。怪談「真景累ケ淵」では、死んでも七代祟るという根津七軒町の豊志賀。焼きもちを通り越して怪談じみてドロドロの人生が待っています。

 焼きもちが元で、亭主が出歩かないように呪文を教えて貰う「洒落小町」。幇間の奥様も勉強を始めると素晴らしい奥様になる「無筆の女房」。

 凄いですね~。こんなにも焼きもち=悋気の噺が有るんですね。ホントはまだ有るんですが、キリが無いので・・・、この辺で。

(ゆめ);睡眠中あたかも現実の経験であるかのように感じる、一連の観念や心像のこと。睡眠中にもつ幻覚のこと。視覚像として現れることが多いものの、聴覚・触覚・味覚・運動感覚などを伴うこともある。通常、睡眠中はそれが夢だとは意識しておらず、目覚めた後に自分が感じていたことが夢だったと意識されるようになる。
 夢とは何なのか?ということについては、古代からある信仰者の理解、20世紀の心理学者の理解、現代の神経生理学者の理解、それぞれ大きく異なっている。
 夢分析の古典としてはジークムント・フロイトの研究、あるいはカール・ユングの研究が広く知られている。
 普段の生活から興味がある現象について夢を見やすいといわれている。具体的には色に興味がある人は色が付いた夢を見る、などである。
 覚醒時に考えていた(悩んでいた)事が影響するケースも多く、考えていたテーマに新しい着想を夢の中より得た事例もある。ブラム・ストーカーは、カニを食べ過ぎて悪夢を見て、これを元に恐怖小説『ドラキュラ』を書き上げている。 この他にも、重要な発見や発明、芸術作品など、夢で得たイメージを元としている事例は多い。
 通常、夢を見ているときには自分で夢を見ていると自覚できないことがほとんどであり、覚醒するまでは夢であることが分からない。これに対し、夢の中でも自覚している現象を明晰夢(めいせきむ)と呼び、その場合には夢の内容をコントロールすることも可能であると言われる。このため、望むままに夢が変化することも多いため、願望を(現実ではないが)叶えることができるとされる。  
ウイキペディアよりピックアップ

 この伝でいくと、カラーについて興味がある人や画家、ペンキ職人達はカラーの夢は観ることが出来ます。私も七色の虹や海のブルーが変わっていくグラデーションを見ることがあります。

 夢の続きも、アッ、この夢の世界に居たいと想って目をつぶったら、続きを見たことを思い出しました。また、4~5日続けて、同じ場面の中にいることもありました。

 この摩訶不思議な世界ですから、「夢占い」が発生します。火事の夢は?ヘビの夢は?一富士二鷹三茄子のような夢は?と、考え始めたら際限が無くなります。どんな夢も楽しい方向に意味づけすれば、その占いは正解となります。と私は思います。

恐い夢;ここに描かれた身投げの女の噺は、上方落語の「饅頭恐い」の中に出て来ます。皆で恐い話をしているのですが、一人食べ物でなく、恐い話を。女が橋の上から止めるのを聞かず身投げをしますが、同じように『今、助けてやろうとおっしゃった方~』と後を女が付けてきます。恐くなって夜道を逃げるのですが・・・。上方で演じられる饅頭恐いは、怪談話になって、仲間連中(お客も)を恐怖の中に突き落とします。枝雀の噺は落語と言うより、この部分は怖さで引きつけます。

何処までが夢?;落語にも「宮戸川」で、後半の部分、お花・半七は仲良く暮らしていたが、悪者が三人してお花をさらって行き、手込めにして殺害する。遂に行方不明のまま一周忌の法事を済ませた。その帰途、半七は山谷堀から舟で両国まで戻ると、船頭の二人が三人組の片割れで、半七はその口からお花殺しを聞き、お花の仇を討つ。この部分はそっくり夢物語になっています。
 「ねずみ穴」でも、弟・竹次郎は兄に負けづに頑張って深川に蔵を持つまでになります。後半にその蔵が燃えて全財産は無くなるが、その時の兄の対応が・・・。
 「天狗裁き」では全段夢の世界です。その他にも「芝浜」、「水神」、「羽団扇」、等があります。

いびき;(鼾)睡眠中に呼吸にともなって鼻・口から出る雑音。
 様々な病気や器質的な異常・障害、その他一時的な疲れやアルコールの影響などにより、軟口蓋(なんこうがい=喉の奥の方)や舌根が上気道をふさいで上気道が狭くなることがある。この状態で呼吸をすると、出入りする空気が塞いだ物を振動させて音が出る。 その音を称していびきと言い、通常は「いびきをかく」と表現する。
 睡眠時にいびきを生ずる場合、自身は気付かないことが多く、同居人などの睡眠の障害となる。しかしながら、本人の睡眠レベルや音の大きさなどにより、自身が驚いて目が覚めてしまうこともある。場合によっては睡眠が浅くなることがある。静かなものから激しいものまで様々であり、速やかな治療が推奨されるものもある。 いびきは呼吸のリズムと同期して起こるため、それが途切れることが一定レベル以上起こると、睡眠時無呼吸症候群の発見の手がかりとなる。軟口蓋などが気道を塞ぐために呼吸が途切れる。これが起こると一般に睡眠レベルが浅くなり、いわゆる熟睡ができないため、昼間の活動に支障をきたす。これが疑われる場合、まずは家族に自分のいびきの様子などをチェックしてもらうと良い。無呼吸とまではいかない場合、睡眠時低呼吸症となる。
 いびきは、他人に多大な迷惑をかけることや、羞恥心のため、団体旅行を避けるようになるなど、様々なリスクを背負う。
ウイキペディアより

 最大のリスク(?)は、寄席や観劇、映画などで、本人は気持ちいいのでしょうが、イビキをかかれ台無しになる事があります。寄席でもイビキをかかれると噺がメチャメチャになってしまいます。デキた師匠は噺がリズミカルでお客さんを安心させて夢の世界に誘うからだと言いますが・・・。ま、デキすぎた解釈です。

 私の母親が、昼寝の最中にイビキをかき始め、うるさいな~と思っていたら、往復になって音量が上がりました。すかさず、「ウルサいな~。寝ていられないワ」ときたもんです。自分のイビキでも、驚いて目を覚ますもんですね。

■古い電話ボックス;公衆電話が町々の角に有った初期型のボックスで、頭が赤い色をしていたので丹頂型と呼ばれていました。扉の取っ手部分は、丸い穴が空いていて、そこに手を入れて扉を開けた。その穴に女の手が入ってきたら、それは恐い。
右写真:丹頂型電話ボックス

ウワサをすれば何とやら;「噂をすれば影がさす」。噂をしていると、噂をされている当人が現れることがある、という意味。人の噂や悪口はほどほどにするべきだという戒めの意も含む。 「噂をすれば影」、「言えば影がさす」ともいう。
 私たち会話の中で「ウワサをしたらダメだよ。ほら、本人が来た」とか「本人に早く来て貰いたかったら、もっとウワサしないと・・・」などと使っています。



                                                            2016年12月記

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