落語「三軒長屋」の舞台を行く
   
 


 古今亭志ん生の噺、「三軒長屋」(さんげんながや)


 

 三軒続きの長屋の取っつきは鳶の頭の政五郎の家で、外から怒鳴って入ってくるという気の荒い連中を束ねています。真ん中は質屋の伊勢屋勘右衛門、通称ヤカン頭のイセカンのお妾さんが住んでいて、静かな生活をしている。その奥は剣術の先生で「一刀流指南」の看板を出す楠運平橘正猛(くすのき まさとも)という道場です。

 政五郎の姉御は三十後半、口元が締まったイイ女です。亭主は寄合で出掛けて3日ほど帰ってこない。そこに子分が、仲間の喧嘩の仲裁で、ここの2階を借りたいという。湯屋で2人が喧嘩をして仲裁に3人で入って、早々に仲直りをさせたいので部屋を借りたい。外にみんなを待たしているので。
 お許しが出たので、酒席の用意をみんなで手分けして作った。肴も酒も炭まで持ってきた。用意をしていると外をビックリするようなイイ女が通って、そして隣に入って行った。姉御がイイ女だと言うぐらいだから、男連中が見たらたまらないだろう。姉さんは湯に出掛けた。見たいと思っていたら、女が出てきたが、女中なのでガッカリして2階の連中に声を掛けた。「デブ、走るより転がった方が早いぞ。化け物~。泣いてるぞ、こんちきしょう」。女中さん、泣いて戻ったが、そこに旦那が入ってきて、「俺の頭を指さして、『ヤカンが通る。ヤカンだ、ヤカンだ』と囃し立てていた。そんな連中だ」、「鳶の家は『さあ殺せ』 『殺さねえでどうする』 と物騒な喧嘩騒ぎ。左隣の道場はといえば、このごろは夜稽古まで始め、夜中まで『お面、小手』とやられて眠れない」。と妾は苦情をイセカンに泣きついている。

 頭の二階ではつまらないことで、また喧嘩になっていた。出刃包丁を持ち出して、湯から戻った姉さんが止めるのを振り切って二階に駆け上がり出刃包丁を突き出すと体をかわしたので壁にブスリ。イセカンの方ではビックリ。道場では立ち会いがあって、壁に激しく体をぶつけた、イセカンでは御神酒徳利が落ちてきた。
 妾が再度お願いしたが「引っ越しは簡単だが、それでは負けになる。この長屋は家質(かじち)に取ってあってもうすぐ流れるから、その時きっと追い出してやる」と諫めた。その事を井戸端で女中が口外したから、 頭の姉御が、さあ怒った。
 そこに頭が帰ってきた。「家主ならともかく、何故、伊勢屋風情に店立てされなければいけないんだ!」と亭主に噛みついたが、頭も少し考え、羽織を羽織って道場へ。
 楠先生に弟子達を外に出させて、小声である計画を話した。「暴力を使ったり、家をたたき壊すのは朝飯前だが、そんな方法でなく、チョット耳を貸してください。・・・、分かりましたか」、「イヤ分からない。そちらの耳は聞こえないのだ。他人に物を貸すときは悪い方からと言うから・・・」、内密の相談が出来上がった。

 明くる朝、楠先生は妾の家に出掛けた。「この度、道場が手狭になったので、転居することになったが、転居費用の捻出のため3日に渡って千本試合を催すことになった。真剣勝負もござるゆえ、首が転がってくるかも知れず、半狂乱になった者はお宅に逃げ込むかも知れませんので、裏表戸締まりをして外に出ないようにお願いします。ご挨拶代わりにご注意を致します」。
 イセカンはたまげて、五十両出すからどうか試合は中止してほしいと相手は武士ですから平身低頭。
 次に頭がやって来た。こちらも、「転宅するが、やはり費用が馬鹿にならないので花会を開く、座敷の真ん中にこもかぶりの酒を置き、刺身は出刃を転がしておいて勝手に作ってもらうので、気の荒い鳶連中のこと、斬り合いになって顔の半分無いのが来かも知れません。裏表戸締まりをして外に出ないようにお願いします」。 と言いだしたから、イセカン、うんざりして「金が無いなら50両出して下さいと何で言って来ないんだ」と叱りつけておいてまた五十両。「明日の朝に引っ越します。お会いできませんがよろしく」、「お前となんか会いたくないよ」。
 「今、隣の楠先生も同じようなことを、言っていたが、お前の越す先は何処だい」、「へえ、あっしが先生の所に引っ越して、先生があっしの所へ引っ越して来ます」。

 



ことば

三軒長屋(さんげんながや);三軒長屋というのは、落語によく登場する貧乏裏長屋と異なり、表通りに面した表長屋の二階建てです。鳶頭や大工の棟梁や医者など、社会的信用があり、人の出入りが多い稼業の人間が借りたものでした。棟続きでも実際は一戸建ての借家に近く、それだけ家賃も高かった。裏長屋から表に出るというのは、このことです。落語「芝浜」の魚勝がそうです。
右写真;上野稲荷町の林家彦六が住んでいた三軒長屋。この左側に住んでいたが、解体されて駐車場になってしまった。今は二軒長屋。
下は、下谷の三軒長屋。現代にも洒落たたたずまいを残しています。

鳶頭の女房言葉;ここに登場する鳶頭の女房は、自分を「おれ」と呼ぶなど、男言葉を使い、乱暴な物言いをします。歌舞伎「め組の喧嘩」の、め組の辰五郎女房・お仲も同じです。乱暴者ぞろいの鳶の若い者を牛耳って押さえていくためには、そうしなければならなかったのです。志ん生も、声は女ぽく口調は男、それでいて年増女の色気が出なければいけないので、難しい噺だと語っています。

姉御(あねご);姉(あね)さんとも言います。頭の連れ合い。

(かしら);その組のリーダー。頭(あたま)に立つ者。

(とび);空を飛ぶ猛禽類の鳥ではなく、大工仕事で足場作業や高所作業などをする職人。江戸時代は火消しを兼務していたし、出入りの店(おたな)でトラブルがあれば、真っ先に駆けつけます。

御神酒徳利(おみきどっくり);神棚に上げる御神酒を入れる徳利。御神酒と書いたら『ごしんしゅ』と読んではいけません、かならず『おみき』と読んでください。ある結婚式場で神官が「ごしんしゅ」と何度も言っていましたが、彼はアルバイトではないのか。

家質(かじち);家を抵当に金を貸し質権を設定した物件。返済約束時までに入金がないと流れて質屋の物となります。

店立て(たなだて);借家を追い出されて明け渡すこと。江戸時代は貸し主側の権利が強く、家主(大家)が出て行けというと反論のしようが無く、勘弁してもらうか条件を吞むかしないので、出たら路頭に迷ってしまいます。

花会(はなかい);博徒・職人などが、金銭を集めることを目的に催す催事。(ここでは)博打会。

こもかぶり;酒は木の樽に収められて出荷されます。樽の廻りにコモで巻いて輸送の安全を図りましたが、後年そのコモに商標をすり込んで中身が分かるようにしました。一流の商標が付いていると、それだけで奮発したのが分かります。

もうひとつの三軒長屋の噺;「三軒続きでの長屋で、左側に独り者、真ん中に夫婦者、右側に夫婦と赤ん坊。 真ん中の夫婦は、所帯を持ってもう七、八年になるのに、まだ子供ができない。 「てめえの畑が悪い」 「いや、おまえさんのタネが悪い」 と、口論の末、 隣の子持ちの夫婦は製造法に秘密があるのだろうと、こっそり奥儀を盗もうと見学。
 覗いていると、 女房は子供に乳を与えていたが、亭主が待ちきれず後ろから。で、乳が外れて、目を覚ました赤ん坊に「ほら、オッパイないない」 とあやしながらの大奮闘。これを見ていた隣の夫婦もこれだと始め、亭主がいざという時抜いて、「ほら、オチンチンないない」。これをのぞいていた独り者、ハッと手を離し「おててないない」 」。 普段聞く事は無い露骨な艶笑版。
「増補・落語事典」 東大落語会編 古今亭志ん好の話より



                                                            2015年2月記

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