落語「日和違い」の舞台を行く
   

 

 二代目桂枝雀の噺、「日和違い」(ひよりちがい)より


 

 昔は遊びの中で下駄を投げて天気を占った。表が出ると晴、裏が出ると雨、などと楽しんでいた。
 ある時、下駄がないので探していたら、下駄がテレビの天気予報を見ていた。天気予報を見ていたら、気象予報士が下駄を探していた。
 気象庁のソフトボール大会が雨で中止になった。

 「辰っつぁん、10町ばかり行かなならんで、雨降るかいな? 判んなければ誰か判る人おらんかいな」、「それだったら、船頭さんか漁師の人だろうな。命が掛かっているから日和見は上手いだろう」、「何処行けば良い?」、「安治川辺りだろうな。ここから1里半から2里はあるだろうな」、「10町行くだけなのに、そんな遠くに聞きに行くのはどうだろうね」、「だったら、八卦見の先生の所行ってきな」。

 「町内の米(よね)さんか」、「日和を聞きに来たんですが・・・」、「そうか、今日は降るよぉな天気じゃない!」、「アリガトウございます。こんなに雲があっても、ずばり『今日は降るよぉな天気じゃない』と言うのは偉いな。だけど、雲が増えてきたし、雨が降ってきたよ」。そのうち車軸を流すようなすごい雨になって、慌てて軒下に雨宿りをした。「すごい降ってきて、空からバケツをひっくり返しているようだ。このまま降ったら大阪中水浸しになりよるわ。雨水が川のように流れ始めた、ワ~、ワァ~、ワ~」、「うるさい人だな。中に入りなさい」。
 「傘貸してくれませんか?」、「知らない人に貸せません」、「だったら泊めて下さい」、「傘を貸せない人に泊めるのは出来ません」、「わての身体どうしてくれんだ」、「濡れなければ良いのでしょ。うちは米屋ですから、米俵を身体にかぶし、頭はサンダラポッチで笠代わりにすればいい」、「これは便利だ」、外に出たら雨はやんでいた。俵のお化けな様な身なりで歩いていた。「これ、雨が降っているから、蓑笠のようになるのに、晴れてしまったらどうにもならんな」。

 「八卦見の先生に言わないけんな。先生」、「おう、米さんか。天気が悪いと思いよったが、俵が降るとは思わなんだ」、「どぉしてくれるねん、この格好」、「何を怒っていなさる、お前さんお使いに行くのに傘を持って行かなんだのか?」、「先生は、『今日は降るよぉな天気じゃない』と言うから傘持って行かなんだ」、「お前さんは大胆な人だな。わしは『今日は降るよぉな』と言ったんだ。慌て者だから付け加えて『天気じゃない』と言ったんだ」、「どうにもならんな」、この男このまま帰りました。

 ものの十日もいたしまして、おんなじよぉな所へ行かんならん用事ができた。空を見ますと、おんなじよぉな空模様、こないだと同じぐらいの分量の雲が出てる。で、傘を持たずに出掛けた。「八卦見の先生はどちに転んでも良いように言ってるんだ。いっぺん道歩きながら道すがら聞ぃてみよ」。
 「菓子屋さん、こんちゃ。今日は雨かなぁ?」、「これはねぇ飴のよーに見えてますけどね、有平糖(ありへぇとぉ)というて砂糖でこしらえますのでね、どぉぞ間違いのないよーに」、「さよなら。何を言うとんねん、誰が有平糖の講釈聞いてんねん、『今日は雨かな?』言うてんねやないか」。
 「あっ、呉服屋さんや、こんちゃ」、「はいはい」、「今日は降るかなぁ、降るかなぁ?」、「うちはみな新しぃ(サラ)もんばっかりですよ。古着が要るのなら古手屋さんに行きなさい」、「さいなら」。
 「アッ、八百屋さんだ。今日はふりまっか?」、「そうだすな、まっかウリ(振り)でしょろうな」、「なにが・・・」、「ウリでしょうな」、「さいなら」。
 「魚屋さんだ。こんちわ。大振り(大ブリ)はあるかな」、「ブリは無いけれどサワラなら有るよ。切ろうか?」、「さいなら」。
 「みんな間違っておる。どうにもならんな。お爺さん、こんちゃ」、「はいはい」、「今日は天気(元気)かなぁ?」、「はいはい、お蔭さんで達者にしとりますけど・・・」、「日和(みより)はどうかな」、「身寄りはありゃせん」、「いやいや、雲あるけど晴れ(ハゲ)るかなぁ、っちゅうことや」、「はいはい、もぉちょっとしたら分からんけど、(頭をなぜながら)今まだ少しありますけど・・・」、「さいなら」。
 「あっ、外国の人が歩いてはるわ、異人さんに聞いてみよう」、「オー、ア~タ、キョウハ アメ フランス?」、「私は、オランダの人です」。




ことば

桂枝雀;二代目桂 枝雀(かつら しじゃく、本名:前田 達(まえだ とおる)、1939年(昭和14年)8月13日 - 1999年(平成11年)4月19日)は、兵庫県神戸市生まれの落語家。三代目桂米朝に弟子入りして基本を磨き、その後二代目桂枝雀を襲名して頭角を現す。古典落語を踏襲しながらも、超人的努力と空前絶後の天才的センスにより、客を大爆笑させる独特のスタイルを開拓する。出囃子は『昼まま』。師匠米朝と並び、上方落語界を代表する人気噺家となったが、1999年3月に自殺を図り、意識が回復することなく4月19日に心不全のため死去した。59歳没。他、同世代の噺家の中では『東の志ん朝、西の枝雀』とも称されている。
ウイキペディアより

彼についての評価:
・「枝雀は私よりも大きい存在になると、ずっと思っていたからね。自分よりも一皮むけて上に行くことを私は期待していた。」(桂米朝 (3代目)の回想)
・「枝雀がいなくなって、私は荷物が重くなった。ぼつぼつ楽しようと、仕事の半分ぐらいを任せかけていた時だったのに。もう私なんか、ムチ打ってもあきまへんわな。なのに、そうもいかなくなってしまいました。」(枝雀が亡くなった数日後の米朝のコメント)
・ 「死ぬよりほかなかったのかと今は思う。」(米朝の著書「桂米朝 私の履歴書」(日本経済新聞社)の一章「枝雀追悼」より)
・「オーバーアクションといわれるのは(弟子としては)心外。抑えるところは抑えた上で、全部理屈の上でやっているんです。」「僕らはちょっと受けると『それでいい』となるが、師匠は『もっと受けるはずだ』とその先を考えた」(桂南光)
・ 「最高にノッている枝雀寄席はなぜか分からないけど鳥肌が立って泣けてくる。もちろん本人はそんな意図ではやっていないだろうけど。」「芸人は寛美さんや枝雀さんのように常に作品を作っていかなければならない。僕はそういう人になりたいと思う。」(松本人志)
・「小さいときから、なぜかは分からないけど、すごいことをやってる気がしてましたね。(中略)間口を広げて、敷居を下げて、オーバーアクションで落語を演っていて、それも枝雀師匠のサービス精神の表れだと思うんですよ。」「落語が上手な噺家さんはいっぱいいらっしゃるけど、枝雀師匠は“面白い”。ほかの人は一眼レフで撮ってるのに、『写ルンです』ですごくいい写真を撮る、みたいな感じですよね。」「ファミレスなのに高級フレンチ並みの料理を出すような、すごいんだけどお手軽に見せている感じなんですよ。」 (千原ジュニア)

日和(ひより);空模様。天候。特に、よい天候。晴天。また、ある事をするのにふさわしい天候。
日和下駄の略=おもに晴天の日にはく歯の低い下駄。

日和見(ひよりみ);天気模様を見ること。また、事の成行きをみて有利な方につこうと形勢をうかがうこと。

距離(きょり);1里=36町=3.9km 1町=109m 1.5~2里は約6~8km 10町は約1km、時間にして約15分の距離。
 
サンダラボッチ;桟俵法師(さんだわらぼうし)の擬人名。米俵の両端にあてる、わらで編んだ円いふた。神饌(しんせん)の台盤とし、疱瘡の神や流し雛をのせて川に流し、また胞衣(えな)をのせて埋めるなど、神と人との交わりの道具としてさまざまに用いられた。

 右浮世絵:歌川広景(ひろかげ)「江戸名所道外尽 四十六 本郷御守殿前」(太田記念美術館蔵)。一つの傘を三人で差す。その左に俵を被った人が居ます。

安治川(あじかわ);淀川下流の分流。大阪市堂島の南から南西流して大阪湾に入る。貞享(1684~1688)年間河村瑞賢が開削。河口部南側に天保山がある。

八卦見(はっけみ);八卦置。占いをする者。うらないしゃ。はっけみ。

車軸を流すような雨;雨が車軸のような太い雨足で降ること。大雨の形容。「車軸を降らす」とも。

有平糖(ありへいとう);砂糖を煮て作られた飴の一種であり、南蛮菓子の一つである。金平糖と共に、日本に初めて輸入されたハードキャンディとされている。語源にはポルトガル語のアルフェロア(alféloa;糖蜜から作られる茶色の棒状の菓子)とする説とアルフェニン(alfenim;白い砂糖菓子)とする説とがある。
 製法は、原料の砂糖に少量の水飴を加えて煮詰め、火からおろした後に着色や整形を行って完成させる。初期の頃は、クルミのように筋がつけられた丸い形をしていたが、徐々に細工が細かくなり、文化・文政期には有平細工(アルヘイ細工)として最盛期を迎えた。棒状や板状にのばしたり、空気を入れてふくらませたり、型に流し込んだり、といった洋菓子の飴細工にも共通した技法が用いられる。有平糖は茶道の菓子として用いられることが多く、季節ごとに彩色をほどこし、細工をこらしたものが見られる。縁日などで行われている即興的な飴細工とは異なる。 一方、技巧が進化し高価なものとなってしまった有平糖を、見た目よりも味を重視して廉価にしたものとして榮太樓本店の「梅ぼ志飴」や、村岡総本舗の「あるへいと」などがある。

ブリ;【鰤】。アジ科の海産の硬骨魚。体は長い紡錘形。背部は鉄青色、腹部は銀白色で、体側に前後に走る淡黄色の帯がある。全長約1m。日本付近に分布し、養殖もされる。寒鰤といい、冬に美味。いわゆる出世魚で、幼魚から順にワカシ・イナダ・ワラサ・ブリ(東京地方)、またはツバス・ハマチ・メジロ・ブリ(大阪地方)などと呼ばれる。コブリ。オオブリ。

サワラ;【鰆】。サバ科サワラ属の硬骨魚の総称。また、その一種。全長約1m。マグロを細長くした形。体の上部に青緑色の斑紋を密布。南日本に普通で、瀬戸内海では春に来遊、冬に外海へ出る。美味。馬鮫魚。成長するに従ってサゴシ、ナギ、サワラと呼び名が変わる出世魚でもある。他の地方名にはサーラ、ヤナギなどがある。



                                                            2017年3月記

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