落語「めがね屋」の舞台を行く
   

 

 桂小南の噺、「めがね屋」(ねがねや)。別名「眼鏡屋盗人」、「がみはり」


 

 泥棒でも石川五右衛門の弟子で石川二右衛門半というガリガリするような奴がいたり、鼠小僧の弟子で鼠膝小僧、この弟子で鼠カカトというのがいます。落語の中ではこの位が泥棒です。

 新米が親分の所に連れてこられた。派手な着物をちんどん屋から借りてきて、本日泥棒の開業祝をすると言った途端親分に叱られた。
 今日の仕事は、この街のことについて、住んでいるから新米が一番よく知っていると連れてきた。
 「この町内で一番懐が温かいのは何処だ」と聞かれたので「角の焼き芋屋です。朝から晩まで火を使って懐はポッカポカ」、「馬鹿野郎。おサツが一杯有る家だ」、「やはり焼き芋屋です。裏の物置におサツがいっぱい」、「そのおサツでは無く、金目の物があるところだ」、「それでしたら田中屋さん。店中金物だらけ。ヤカンに金だらいにお鍋に鉄瓶に・・・」、「金物屋ではなく、銭を一番持っているところだ」、「それだったら、大黒屋で、この近所の借家はみんなそこの物です。家族は店の者を足して15~6人程です」、「馬鹿野郎。そんな大人数では捕まってしまう。もっと家族が少ない所だ」、「谷田さんは親子3人で金貯めたと評判です。商売はプロレスの選手です」、「馬鹿野郎。そんなとこ入れるか。もっと弱いとこだ」、「それだったら、この突き当たりで、老夫婦がいるだけです」、「そこは金持っているか」、「兄弟みんなで金出し合って暮らしてます。金が唸っている所だったら、日本銀行」、「そんなとこ入れるか」。
 「親分、こんな新米の話なんか聞かないで、昼間下見した所行きましょうよ」、「筋向こうの”めがね屋”だ」、そこなら金もありそうだし、新米に「ガンを張ってこい」と言い付けたが、まだ良く分かっていないようでおたおたしている。「ガンを張るとは仲間内の符丁で中の様子をうかがってこいと言うことだ。大戸に節穴が開いているだろう。あすこから店の中を覗け」、兄貴分は心配で「お前ではダメだから、俺のような者が見てくる。よく見ていろ」。
 店の中では小僧さん一人が起きていて、手習いをしています。表でゴチャゴチャ、ガチャガチャ、「あれ~、何しているんだろう。節穴からこっちを見ている。泥棒だ。ご主人も寝てしまったし恐いな」、店にあった将門眼鏡を節穴の前の桟に乗せますと、7~8つに像が見えます。小僧さん又墨を擦り始めました。「ガンを張るとはこの様に見るのだ。あれれれ、学校かな、同じように墨を擦って、7~8人いるぞ。同じに墨を擦って、おそろいの着物着て、みんな鼻の頭に墨付けて。同じように子供の脇にネコがいるぞ。ここは学校だ」。今度は新米が覗くと、拡大レンズの前に猫を連れてきてアップで見せた。「わぁ~、虎だ。親分、ここは動物園です」、親分がブツブツ言いながら覗きます。小僧さん望遠鏡を持ってきて伸ばすと、遠くの物が近くに見えますが、逆にするとより遠くに見えます。「お~お~ぉ! 今何時だ」、「丁度2時頃です」、「2時か、今晩この家では仕事にならん」、「どうしてですか」、「台所に行くまでに日が明けてしまうわ」。

 



ことば

石川五右衛門(いしかわごえもん);安土桃山時代の伝説的な盗賊。1594年、三条河原で子供と共に釜煎(い)りの刑(釜ゆでと言われるが、水も湯も入っていず、から煎りにされたという)に処せられたという。浄瑠璃「釜淵双級巴(かまがふちふたつどもえ)」、歌舞伎「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」など多くの作品の題材とされた。  

鼠小僧(ねずみこぞう);鼠小僧次郎吉(1797~1832)。盗んだ金を貧乏人たちに施す「義賊」と呼ばれた大泥棒。実際は違っていて、武家屋敷に侵入して金銀を盗み、遊興費に使い果たした。処刑され、両国の回向院に墓がある。その墓を削って持っていると、賭け事に勝てるという俗信がある。

ちんどん屋;締太鼓と鉦(当たり鉦)を組み合わせたチンドン太鼓などの演奏、および諸芸や奇抜な衣装・仮装によって街を廻りながら、依頼者の指定した地域・店舗へ人を呼び込む。 また集客した上で宣伝の口上やビラまきなどで商品の購入を促す。21世紀の現在では存在そのものが珍しくなったため、自治体主催の祭り会場に招かれることも多い。写真:区民祭でのちんどん屋。

がんを張る(がんをはる);泥棒仲間内の符丁で中の様子をうかがうこと。

将門メガネ(まさかどめがね);八角眼鏡、タコタコ眼鏡とも言われる。複眼鏡の一つ。板に据えられたレンズがトンボの目のように多面にカットされ被写体が複数重なって見える。江戸末期には子供達にこれを覗かせる大道芸もあった。
 現在はカメラのレンズにフイルターとして装着し、3面や5面の多重映像を記録できる物もある。

  

 どれも将門眼鏡ですが、左から、紅毛百眼鏡。羽子板にはめ込まれたもの。単体の物で、赤いのは最近のものでプラスティックで出来ています。「おもちゃ博物館17」 多田敏捷編 京都書院発行より(千代田区図書館蔵)

 左:大道芸でタコタコ眼鏡で覗く子供達。中・右:その映像

 

 「おもちゃ博物館17」より。どの図もクリックすると大きくなります。

望遠鏡(ぼうえんきょう);古くは「遠眼鏡(とおめがね)」とも呼ばれた。口径の大きな対物レンズ(反射式においては反射鏡)と口径が小さい接眼レンズに分かれる。対物レンズは凸レンズであり、接眼レンズが凹レンズであれば正立像が得られる(ガリレオ型望遠鏡)。これは一眼レフ方式のカメラのファインダーと同じ構造である。望遠レンズのように焦点距離が長い対物レンズを使うと、大きな像が得られる。接眼レンズを凸レンズにすれば倒立像となる(ケプラー型望遠鏡)が、さらに大きな倍率が容易に得られる。これをそのまま天体に向ければ天体望遠鏡となる。又逆から覗くとその倍率だけ小さな像が見られる。
右写真:「おもちゃ博物館17」より、大正期のオモチャの望遠鏡。

拡大鏡(かくだいきょう);レンズで物体を拡大して観察する光学機器。凸レンズ(虫眼鏡のしくみ)か、フレネルレンズが使われる。

眼鏡屋看板


 江戸東京博物館蔵。


                                                            2015年2月記

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