落語「家見舞い」の舞台を行く 柳家権太楼 の噺、「家見舞い」(いえみまい)より
■この噺「家見舞い」は、原題を「こいがめ」と言い、題名が汚らしいというので「祝いの瓶」、「新築祝い」、「家見舞い」と、言い替えています。上方噺の「雪隠壺(せんちつぼ=上方訛り)」、「雪隠(せんち)」は元々上方の言葉です。東京では明治期に三代目小さんが東京に移植、改作しました。
八代目春風亭柳枝を経て、五代目小さんが十八番にしていました。
上方のやり方は、東京ものとはかなり異なり、 家相を見てもらって、ここに雪隠を立てて、 肥壺(肥がめ)は一回だけ使えとアドバイスされた男がもったいないと、使用後道具屋に売る場面が前に付きます。 それを水がめ用に買っていった男が、新築祝いにしますが、 宴会でバアサン芸者が浮かれたので、 「ババ(=糞)も浮くわけや。雪隠壺へ水張った」 と、汚いサゲになります。
■水瓶と肥瓶(みずがめと こいがめ);水瓶は、明治の31年(1898)淀橋浄水場が完成し、近代的な水道が敷設され始めてからも、その普及がなかなか進まなかったため、昭和に入るまでは家庭の必需品でした。特に長屋では、共同井戸から汲んでくるにしても水道の溜枡からにしても、水を溜めておく容器としては欠かせません。素焼きの陶磁器で、二回火といって二度焼きしてある頑丈なものは、値が張りました。 噺に最初に出てくる28円の物がそれで、備前焼です。
左、水瓶。深川江戸資料館 右、肥瓶をメダカの水槽に転用しています。大観記念館
■○荷入り(かいり);水壺の容量単位。水屋が一人で担げる量(振り荷い前後2桶)を一荷とした。約60リットル。落語「水屋の富」参照。
■見ぬもの清し;見なければ、きたない物事も気にならない。(三省堂 大辞林) 「見ぬ事清し」ともいう。
■備前焼(びぜんやき);岡山県備前市周辺を産地とする炻器(せつき)。日本六古窯の一つに数えられる。備前市伊部地区で盛んであることから「伊部焼(いんべやき)」との別名も持つ。備前産陶器の総称。多くは赤褐色で無釉。変化に富んだ器肌が特色。
■断っている;断ち物、神仏などに願をかけている間、或る飲食物をとらないこと。また、その飲食物。茶断ち・塩断ち、酒断ちなど。古今亭志ん朝は鰻断ちをしていたが、願が叶わず亡くなってしまった。
■覚弥(かくや)の香香(こうこう);(江戸時代初め、徳川家康の料理人・岩下覚弥が始めたと言い、また、高野山で隔夜堂を守る老僧のために始めたものともいう。「隔夜」とも書く) 種々の香の物の古漬を塩出しして細かく刻み醤油などで調味したもの。広辞苑。
■焼き海苔(やきのり);海苔を火であぶったもの。アサクサノリなどを漉きかわかした乾海苔(ホシノリ)を、火にあぶって食する。
左、浅草海苔。 右、『名所江戸百景』 南品川鮫洲海岸 広重画 (現在の東大井一丁目付近。かつては海だった)。遠浅の海に海苔ヒビを立てて、海苔を養殖した。遠景に筑波山が見える。
■澱(おり);液体の底に沈んだ滓(カス)。おどみ。アク。
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