落語「饅頭恐い」の舞台を行く 二代目桂枝雀の噺、「饅頭恐い・上方版」(まんじゅうこわい)より
■この上方版の「饅頭恐い」は、東京版・「饅頭恐い」に身投げ噺が入って、その怖さを引き立てています。前作、「好きと恐い」のストーリーとそっくりで、その噺に最後、饅頭を投げ入れるところが付けば、この「上方版・饅頭恐い」になります。言い方を変えれば、「上方版・饅頭恐い」の前編と言われるところです。
■「好きと恐い」にある狸に騙されて、馬の尻の穴を覗く噺は、今回は時間の都合で枝雀はカットしていますが、米朝はしっかりと演じています。その、米朝の噺の狐は・・・、
親類のオバハンが大和に住んでんねん。そこへ行った時に、だいぶ前のこっちゃがな。『兄ぃ、日が暮れこの辺あんまりウロウロせん方がえぇで。このごろ狐が出て来て、よぉ人が騙されるんや』。あるんやて『山の麓には罠が仕掛けてあるさかい、そっちの方には行かんよぉに・・・』、行くなと言われたら行きとなるのが人情やがな。あぁこれが狐の罠やなと思て覗いたら太ぉい尾が見えたぁんねん。罠に狐がかかっとぉんねや。えぇ値に売れるでと思てな、この狐をとりあえず殺したらなどんならんさかいと思て、大きな石を持って来てこぉやると、中で狐が『どぉぞ命ばかりはお助けを。その代わり命を助けてもろたら、生涯あんたが見ることのでけんもんを見せたげる』ちゅうさかい『何を見せてくれるねん?』ちゅうたら『狐や狸は、人を化かすところは決して見せんもんやけど、あんたには特別に見せたげる』ちゅうねん。『手拍子三つ打ってくれ』ちゅうさかい、よいよいポンッと打ったってん。歳の頃なら二十三四、色の抜けるほど白いえぇ女御やで、鼻筋がツ~ッと通ってな、口元がしまって、髪は艶々とカラスの濡れ羽色や、目ぇだけはちょっと吊ったぁるけどな、えぇ女御に化けよったがな。思わず見とれて『まぁ、おきっつぁん、えぇ女御に化けたなぁ。ちょっと後ろ姿見してぇな』ちゅうたら、狐、『まぁ、兄さんのお口のうまいこと。わたしらが何でそないえぇ女御になりますかいな、後ろ姿見て笑おや思て』ちゅうて、ス~ッと後ろを向きよった、その色気のあること。後ろ姿もえぇねやけど、帯のあいだから太い尾がダラ~ッと下がってんねや『おきっつぁん、後ろ姿もえぇけど尾ぉが見えてるがな』ちゅうたら、狐が手ぇでその尾をス~ッと隠して『お~、恥ずかし』」、「嘘つけ、お前。狐がそんなことシャレ言ぅたりするかいな」。
*以下解説が続きますが、東京版・「饅頭恐い」に詳しく有りますから、そちらもご覧になって下さい。
■ボタ餅(ぼたもち);もち米とうるち米を混ぜたものを(または単にもち米を)蒸すあるいは炊き、米粒が残る程度に軽く搗いて丸めたものに餡をまぶした食べ物。米を半分潰すことから「はんごろし」と呼ばれることもある。同様の食べ物に「おはぎ」(御萩)あるいは「はぎのもち」(萩の餅)と呼ばれる食べ物がある。
■浅草海苔(あさくさのり);徳川家康が江戸入りした頃の浅草寺門前で獲れたアサクサノリを和紙の技法で板海苔としたものを『浅草海苔』と呼ぶようになった。当時は焼かずにいたが、その後に焼き海苔として使用するようになった。浅草は紙の産地としても知られ、享保年間には紙抄きの技術を取り入れた抄き海苔が生産されるようになった。
■濃口の醤油(こいくち しょうゆ);
全国的には「こいくち醤油」が圧倒的に多いが、「うすくち醤油」は関西でよく使われている。
こいくち醤油は国内生産量のうちおよそ8割を占める、最も一般的なしょうゆ。こいくち醤油の用途は、つけ、かけ用としての卓上調味料をはじめ、煮物、焼物、だし、たれなど調理用しょうゆとしてもほぼオールマイティ。料理番組などで醤油大さじ1杯というのは、すべてこいくち醤油のこと。薄口しょうゆは濃口より色が薄いので塩分が少なそうに見えますが、実際は逆で多い。
■おぼろ月夜;はっきりしないさま。ほのかなさま。薄く曇るさま。ぼんやり。ほんのり。
■乳ボーロ;大阪前田 乳ボーロ。原材料、ばれいしょでん粉、砂糖、鶏卵、ぶどう糖、麦芽糖水飴、寒梅粉、脱脂粉乳、卵殻カルシウム、等で作られた一口菓子。
■百足(むかで);ムカデ綱の節足動物の総称。体は扁平で細長く、体長5~150mm。多数の環節から成る。各節に1対ずつの歩脚があり、数は種により異なる。頭部に1対の触角と大顎とを持ち、顎肢の毒爪から毒液を注射して小昆虫を捕えて食う。ジムカデ・トビズムカデ・オオムカデ・イシムカデなど、日本に百種以上。地表・土中にすみ、人に有害なものもあるが、客足がつく、おあしが入るなどといって縁起がよい動物とされる。古来、神の使い、また怪異なものとされ、藤原秀郷(俵藤太)の伝説は有名。
■南農人町御祓筋(みなみのぉにんちょう おはらいすじ);大阪市中央区にある東横堀川に架かる中央大通平面道路の橋の東詰付近の町名。もとは農人橋詰町・両替町1~2丁目・農人橋1~2丁目・南農人町1~2丁目という町名だったが、平成元年(1989)に農人橋1~3丁目に改編された。
■本町の曲がり(ほんちょうのまがり);東横堀は農人橋の北側でクランク状に曲がって流れている。戦略上見通しを悪くするためとも、浄国寺というお寺があったのをよけるためにカーブさせたのだとも言われる。複雑な水流と人通りの少なさから、身投げが多かったという。現在は中央大通の高架道路および阪神高速13号東大阪線を挟んで二つの橋が架かっている。下流側(南側)の橋がもとからあった農人橋にあたり、橋の真上には阪神高速1号環状線が交差する東船場JCTがあります。
■農人橋(のうにんばし);落語「雨夜の傘」に出てくるお絹さんが三次に殺され、ここに捨てられます。
■安堂寺町(あんどうじまち);農人橋、及びその南側の農人橋(町)のさらに南に松屋町筋を進むと、松屋町交差点が有ります。その手前に安堂寺町が現れます。
■末期の水(まつごのみず);人の死のうとする時、その口中にふくませる水。
■薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう);すりおろした薯蕷(ナガイモ)の粘りを利用して米粉(薯蕷粉、上新粉)を練り上げ、その生地で餡等を包んでしっとりと蒸し上げた饅頭。上用饅頭とも言い、紅白饅頭や織部まんじゅうなどがこれにあたる。使われる薯蕷にはつくね芋(京都地方)、大和芋(関東)、伊勢芋(中部地方)などがある。茶席で使われる主菓子(おもがし)のひとつ。奈良の林浄因(りんじょういん)が作ったという言い伝えから、その子孫のお店の名前をとって「塩瀬饅頭」とも呼ばれる。落語東京版・「饅頭恐い」より、写真も有ります。
■栗饅頭(くりまんじゅう);栗餡を包んだ小判形の饅頭。皮の上に卵黄を塗って艶よく焼いたもの。また、その両方を兼ね備えた饅頭。くりまん。
■ヘソ饅頭;中心部を凹ませ、クルミなどを入れて焼き上げた饅頭。日本各地に有ります。
■キンツバ;現在よく見られるのは、寒天を用いて粒餡を四角く固めたものの各面に、小麦粉を水でゆるく溶いた生地を付けながら、熱した銅板上で一面ずつ焼いてつくる「角きんつば」であるが、本来のきんつばは、小麦粉を水でこねて薄く伸ばした生地で餡を包み、その名の通り日本刀のつばのように円く平らな円型に形を整え、油を引いた平鍋で両面と側面を焼いたもの。
■大和(やまと);現・奈良県。
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