落語「万病円」の舞台を行く 三代目三遊亭金馬の噺、「万病円」(まんびょうえん)より
■三代目 三遊亭金馬(さんゆうていきんば);(1894年10月25日 - 1964年11月8日)は東京市本所(現・東京都墨田区本所)生まれ。家業は洋傘屋であった。大正・昭和時代に活躍した名人の一人。本名は加藤 専太郎(かとう・せんたろう)。出囃子は「本調子カッコ」。
初代三遊亭圓歌の門下だが、名人と呼ばれた初代柳家小せんや、橋本川柳(後の三代目三遊亭圓馬)にも多くを学んだ。読書家で博学。持ちネタの幅が広く、発音や人物の描き別けが明瞭で、だれにでもわかりやすい落語に定評がある。
当初は落語協会に所属、のちに東宝に所属したが、実質的にフリーであった。
■万病円(まんびょうえん);江戸時代にあった、万病に効果があるという丸薬。
■五両中判(5りょうちゅうばん);五両判(ごりょうばん)とは天保8年(1837)8月に鋳造開始され、同年11月末に発行された五両としての額面を持つ小判型の金貨。発行が天保年間のみであったことから天保五両判(てんぽうごりょうばん)あるいは中判(ちゅうばん)とも呼ばれる。
■湯屋(ゆや);上方では風呂屋、江戸では湯屋と銭湯のことを言いました。昔の風呂は水蒸気を満たした、今のサウナ形式が一般的で、江戸期になって湯を入れた「水風呂(すいふろ)」が生まれた。江戸の町は井戸がほとんどなく、水不足のため、湯を入れた風呂は贅沢(ぜいたく)だった。水蒸気を満たした風呂では、熱くなった蒸気が逃げるので、入口は低く作り、出入りの人はかがんで通らなければならなかった。ここを「石榴口(ざくろぐち)」というのは、昔の金属の鏡を磨くのに石榴が必需品だったので、この入り口にも「鏡要る(かがみ入る)」という洒落だと言う。
左:柘榴口の奥の湯船。 右:洗い場で湯が切れたのでしょうか並んで待っています。腎禺湊銭湯新話より。
落語「浮世風呂」より。ここで細かく湯屋について解説しています。
■三幅・三布(みの);並幅(ナミハバ)の布を3枚縫い合せた幅。 「みのぶとん」の略。
■四幅蒲団(よのぶとん); 表裏ともおのおの4幅(4布)の布で作ったふとん。よの。
■衣の紋(ころものもん);僧侶の着る衣服。法服。僧衣。僧衣には家紋は付けない。そんな僧衣は元々無い。
■反魂丹(はんごんたん);食傷・腹痛等に特効のある懐中丸薬。江戸時代、富山の薬売りが全国に売り広めた。江戸では、芝田町(タマチ)のさかいや長兵衛売出しのものが「田町の反魂丹」として名高い。
■疝気(せんき);漢方で腰腹部の疼痛の総称。特に大小腸・生殖器などの下腹部内臓の病気で、発作的に劇痛を来し反復する状態。あたはら。しらたみ。疝病。
■百日咳(ひゃくにちぜき);百日咳菌により、主として幼児に起る伝染病。痙攣(ケイレン)性の咳を発し、咳の最後に笛のような声を発して深く息を吸いこむ。この発作が日に数十回に及び、夜間に多い。ワクチン注射による予防が有効。一度かかれば、終生免疫を得る。
■瘡(かさ);皮膚病の総称。できもの。また、梅毒(バイドク)の俗称。この噺の流れからすると梅毒でしょう。
■腸満(ちょうまん);腹腔内に液体またはガスがたまって腹部の膨満する病症。多くは腹膜炎・腸閉塞・肝硬変症・卵巣嚢腫などによる。
■ウグイス餅(うぐいすもち);餅または求肥(ギユウヒ)に餡を包み、青黄粉(アオキナコ)をまぶした菓子。色・形を鶯に似せる。右図、広辞苑
■4文(しもん);物の値段。江戸時代は4文の倍数で商われることが多かった。今の100円均一ではありませんが、4文で団子や餅、酒のつまみなどを商っていた。また、8文、16文など多く使われ、有名な蕎麦の値段は16文でした。1文貨の上に4文貨の貨幣が発行されていたので、使いやすかったのでしょう。
■唐饅頭(とうまんじゅう);小麦粉に砂糖・鶏卵をまぜてこねた皮種を、方形・円形・小判形・三味線胴形などの焼き型に流し込んで中に餡を入れ、両面から焼き上げた菓子。下図、広辞苑
■大福(だいふく);中に餡(アン)を包んだ餅菓子の一種。大福餅。
左、唐饅頭。 中、大福。 右、蕎麦饅頭。 広辞苑
■蕎麦饅頭(そばまんじゅう);上皮を蕎麦粉で造った饅頭。
■キンツバ;金鍔焼。水でこねた小麦粉を薄くのばして小豆餡(アズキアン)を包み、刀の鍔のように円く平たくし、油をひいた金属板の上で焼いた菓子。文化・文政(1804~1830)の頃江戸で流行。今は、四角く切った餡を、小麦粉を薄く溶いた液につけ、平鍋で焼く。きんつば。
■腰高饅頭(こしだかまんじゅう);丈高にふっくら作ってある饅頭。
■町役(ちょうやく);町役人。江戸幕府直轄都市および城下町などで、町奉行の支配下に、各町々の民政に当る町人。通常、家持ち・名主・家主(大家)などが務める。微妙に職務は違うが、名主・月行事、町年寄・町代、検断・肝煎(キモイリ)など都市により呼び名を異にする。
■奉行所(ぶぎょうしょ);武家の職名。政務を分掌して一部局を担当する者。鎌倉・室町時代では評定衆・引付衆の称、安土桃山時代では大老の下の参政の職、江戸時代では勘定奉行・寺社奉行・町奉行など。
江戸の町奉行所には、北町奉行所と南町奉行所がありました。
■綿入れの蚊帳(わたいれのかや);着物に綿入れを使うのは冬の寒い時期です。蚊帳は夏の物。季節が違いますから、そんな品物は元々ありません。
■袷の綿入れ(あわせのわたいれ);表裏を合せて作った衣服で、裏地つきの着物が袷です。裏をつけて中に綿を入れた防寒用の衣服が綿入れで、それは別々の着物です。古着屋さんが言う、「袖口、裾回しに綿が入って、胴は袷になっています」は、誠に上手い表現です。
■2分2朱と200(2ぶ2しゅと200);1両の半分が2分。1分の半分が2朱です。200とは200文のこと。
■古着屋(ふるぎや);江戸ではリサイクルが浸透していて、古い物は壊れるまで使い、壊れたら修理をしてまた使った。着物は反物で買い、それを仕立てて貰い初めて着物になった。その着物が何らかの事情で着なくなると古着屋に出して、次の顧客がそれを買い求めた。古着屋は古着だけではなく、仕立て下ろしの新品の着物も扱っていた(今の既製品の衣料品)。その着物が古くなって着られなくなると、オシメにしたり、雑巾にしたり、コヨリにしたり、下駄の鼻緒にしたり、火を移す素材にして、最後の最後まで使い込まれた。
上図:「柳原」歌麿画 吾妻遊び「上巻」 寛政2年(1790) 落語「鼻利き源兵衛」より孫引き。
■漉き返し(すきがえし);本来は、供養の目的で故人の書状をすきかえして作った紙。のち、反故(ホゴ)紙などをすきかえして作ったものをいう。宿紙(シユクシ)。還魂紙。浅草の北側に漉き返しの紙製造屋が多く有った。その為、この再生紙(落とし紙)を淺草紙とも言われた。
■四百四病(しひゃくしびょう);人間の病気はすべて合わせて404あるとする説で、疾病の総称。仏説に、人身は地・水・火・風の四大(シダイ)から成り、四大調和を得なければ、地大から黄病、水大から痰病、火大から熱病、風大から風病が各101、計404病起るという。これら404病のうち、風大、水大によって起こる202病を冷病に、地大、火大による202病を熱病に二大別することもある。
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