落語「運転手募集」の舞台を行く
   

 

 四代目柳亭痴楽の噺、「運転手募集」(うんてんしゅぼしゅう)より


 

 お笑いの時間でありまして、笑う門にはラッキーカムカムと言いますから十分お笑い下さい。

痴楽綴方狂室より恋の山手線です(後述)。

 この間お医者さんが、”交通事故は近代病のひとつである”と言いましたが、そうかも知れません。交通関係が増えてきて、交通事故も増えてきました。出歩く人間が増えたから交通が増えたのか、交通が増えたから人が出歩くのか、どっちなのでしょうか、分からなくなります。

 自動車が増えれば、交通事故も増えます。自動車に引かれそうになった人に向かって、運転手が怒鳴っています、「バカヤロウ、気を付けろッ」、「ヘッポコ運転手」、「何だと、25年も、運転手しているんだ」、「こっちは40年も歩いているんだ」。
 今はスピード時代と言って、自動車がペチャンコになってきました。この調子で10年もすると、寝ながら運転するのでは無いかと思います。こうなると居眠り運転ではなく、熟睡運転になるのでは・・・。

 「最初の方は斎藤哲吉さんだな。斎藤さ~ん、どうぞ・・・」、「はい、私が斎藤哲吉です」、「ご苦労さん。ま、お座りください。ところで、斎藤さんは事故を起こしたことは有りませんか」、「事故、へへへへ。ま、良いでしょう」、「良いことはありません。これは運転手の採用試験なんですから。それが一番肝心なんですから」、「考えますね・・・。有りました。やっと思い出しました。つまらない、お恥ずかしいような、小さな事故なんです」、「どんな事故だったんですか」、「それは去年のことでした。星の綺麗な夜でした。道の中に犬がひょろひょろと出て来ました。ハンドルを左に切って見事に避けました」、「良かったですな~」、「それが良くなかったんです。避けたら『ドスン、ガラ、ガッチャン、ガッチャン』って瀬戸物屋に飛び込んじゃったんです」、「店を壊したぐらいで済んだんですか」、「それが、瀬戸物の間に人間が二人いて、死んでしまったんです」、「それはダメだ。結構です。向こうに行って」。

 「二番目は、月形始、だな。月形さ~ん、どうぞ」、「こんつわぁ~。月形です」、「事故の方はどうです?」、「”ずこ”は無いが、面白い話は有ります」、「聞きましょう」、「村一番のべっぴんのお花坊が、トラックの運転手をしている私に惚れちゃったんだな。雨が降れば傘を持ってきて『月さん雨が~』と言うからね~、『春雨だ、濡れて行こう』と・・・」、「汚い半平太だな~ぁ」、「乗せてくれと言うので、助手席に乗せると、ジャラけて股のところをツネルだよ。つねっちゃヤダよというと、脇の下をクスグルだよ」、「おどけちゃいけません」、「『本当にお前が好きなんだよ~』って、首っ玉にかじり付くだ。先が見えなくなって、”ドボ~ン”」、「川にでも落ちたんですか」、「肥溜めに落ちちゃった」、「汚いね。貴方結構です」。

 「3番目は、三度目の正直と言うから・・・。吉田茂、ん?どっかで聞いたような名前だな。吉田さん、吉田さん、どうぞ」、「(声帯模写で)私が吉田茂でございます」、「どうぞお座りください。交通事故など起こしたことは有りませんか」、「(声帯模写で)お答えします」、「変なアクセントが付いてるな」、「(声帯模写で)それは一身上の秘密になって居て、お答えできません」、「それでは困るんです」、「(声帯模写で)それでは私は棄権をします」、「行っちゃったよ」。

 「最後は田中三郎だな。田中さん、田中さ~ん。どうぞ」、「私が田中三郎です。誰が何と言っても田中三郎です」、「貴方は事故を起こしたことが有りますか?」、「”か”と言うのは人を疑ることです。私は有りません」、「では、交通違反などは?」、「それも絶対有りません」、「それは良いですね。今までの内で、一番イイですよ」、「それを言われると面目ない」、「また、おかしいね」、
 「免許証を貰ったのが、昨日なんです」。

 



ことば

痴楽綴方狂室より恋の山手線

 上野を後に池袋、走る電車は内回り、私は近頃外回り、
彼女は奇麗なうぐいす芸者(鶯谷)、にっぽり(日暮里)笑ったあのえくぼ、
田畑(田端)を売っても命懸け、思うはあの娘(コ)の事ばかり。
我が胸の内、こまごめ(駒込)と、愛のすがも(巣鴨)へ伝えたい。
おおつか(大塚)なビックリ、度胸を定め、彼女に会いに行けぶくろ(池袋)、
行けば男がめじろ(目白)押し。
そんな女は駄目だよと、たかたの婆(高田馬場)や新大久保のおじさん達の意見でも、
しんじゅく(新宿)聞いてはいられません。
夜よぎ(代々木)なったら家を出て、腹じゅく(原宿)減ったと、渋や(渋谷)顔。
彼女に会えればエビス(恵比寿)顔。
親父が生きてて目黒い内(目黒)は私もいくらか豪胆だ(五反田)、
おお先(大崎)真っ暗恋の鳥。
彼女に贈るプレゼント、どんなしながわ(品川)良いのやら、
魂ちぃも(田町)宙に踊るよな、色よい返事をはま待つちょう(浜松町)、
そんな事ばかりが心ばし(新橋)で、誰に悩みを言うらくちょう(有楽町)、
思った私が素っ頓狂(東京)。
何だかんだ(神田)の行き違い、彼女はとうに飽きはばら(秋葉原)、
ホントにおかち(御徒町)な事ばかり。
やまて(山手線)は消えゆく恋でした。

 落語「恋の山手線」より

山手線;山手線の読み方について。過去には「やまて線」と「やまのて線」の二通りの読み(言い)方が有りました。やまて線が主流だったように記憶していますが、歴史とか地理的にとかで、今の「やまのて線」に統一されました。この噺の時代背景からして、痴楽も「やまて」と言っています。

 

 上野を出発した内回りの最新山手線。奇麗なうぐいす芸者がいる鶯谷は次です。

柳亭痴楽(りゅうてい ちらく);痴楽さんは1921年、現在の富山市の呉羽で生まれ、幼少時に上京。義太夫から落語に転身し、45年、第2次大戦後で第1号の真打ちになった。落語のまくらに使った「つづり方」では、「柳亭痴楽はいい男 鶴田浩二や錦之助 あれよりグーンといい男」「上野を後に池袋、走る電車は内回り、私は近ごろ外回り」といった節回しが受け、「爆笑王」と呼ばれた。後に人間国宝となった柳家小さんさん(2002年5月死去)らと、若手の花形とされた。
 72年に落語芸術協会の初代理事長になったが、73年、大阪・角座で出演中に脳卒中で倒れ、闘病生活に。
93年、東京・新宿で一時高座に復帰したが、当時の勢いは無かった。同年12月、72歳で亡くなった。

交通事故(こうつうじこ);広義には陸上・海上・航空交通における事故の総称を言います。交通安全の施策や統計などでは道路交通事故のほか、鉄道交通事故、海上交通事故、航空交通事故などを含む広い意味で用いられる場合もあります。一般的には道路における自動車・自転車・歩行者などの間に発生した道路交通事故を指すことが多い。
 

 交通事故による死亡者数
 2016年の24時間以内交通事故死者数は3904人で、これは2016年の国内の自動車保有台数が約8090万台なのと比較して、まだ戦後間もなく自動車保有台数が約38万台程度だった1950年の4202人より少なく、いかに死者が激減しているかを物語っています。また、救急医療の発達によって24時間以上生存しているだけで死者数はあまり減少していないという誤った認識が存在するが、2015年の30日以内死者数は4859人、1年以内死者数は5544人と、どちらも24時間以内死者数と同様に減少している。2016年には年間交通事故による死亡者数が1949年の67年ぶりに3000人レベルにまで減少して、飲酒運転の取り締まりと交通安全文化の普及で交通事故死亡者が最も多かった時期に比べると4分の1の水準に減少した。2016年の65歳以上の高齢者が交通事故の死者数で占める割合は54.8%と過去最多だった。高齢者人口の増加と高齢者の致死率がほかの年代より高いことが要因となっている。2012年の交通事故による人口10万人当たりの1年以内死者数は5人であり、これは他の死亡原因と比較すると、地震の5人(阪神淡路大震災のあった1995年の数値)と同等、火事の1.7人、他殺の0.52人より多いが、自殺の24人よりは少ない。
ウイキペディアより

 痴楽がこの噺を演じている時代は、死者数が多く、交通戦争と言われていた当時で、年間1万人を越える死者数を記録していました。

月形半平太(つきがた はんぺいた);行友李風作の戯曲、4幕。大正8年(1919)沢田正二郎らの新国劇により初演。幕末の京都を背景にした、長州藩士月形半平太を取り巻く恋と剣の物語で、劇中の「春雨じゃ濡れて行こう」の台詞が有名。モデルは武市瑞山(たけちずいざん)(通称、半平太)とされる。

雛菊「月様、雨が…」
月形「春雨じゃ、濡れてまいろう」

という名台詞で広く知られる。

肥溜め(こえだめ);農家その他で出た屎尿を貯蔵し、下肥(しもごえ)にするための穴または、大きめの水瓶。水瓶の方は、素焼きの瓶が多く、土中に埋め使用する。
 発酵熱により高温(70度程度まで上昇する)・低酸素状態となり寄生虫などを死滅させる、発酵プロセスにより分解されていない高分子物やヒト由来のさまざまな酵素類を分解するなどのプロセスを経る。一方で不十分な発酵や高温に耐えられる寄生虫卵があった場合、寄生虫病の原因となることもあった。多く糞尿から感染した赤痢などは、高温発酵中にほぼ死滅する。発酵を行わない屎尿をそのまま堆肥とすると、窒素飢餓による根腐れなどの問題を引き起こす。このため、屎尿は肥溜めなどで十分に発酵することや、使用時に水で薄めることが必要とされた。その後安価で衛生的な化学肥料が普及したことにより、人間の屎尿を使った堆肥は使われなくなった。

吉田茂(よしだ しげる);(1878年(明治11年)9月22日 - 1967年(昭和42年)10月20日)は、日本の外交官、政治家。勲等は大勲位。 外務大臣(第73・74・75・78・79代)、貴族院議員(勅選)、内閣総理大臣(第45・48・49・50・51代)、第一復員大臣(第2代)、第二復員大臣(第2代)、農林水産大臣(第5代)、衆議院議員(当選7回)、皇學館大学総長(初代)、学校法人二松学舎舎長(第5代)などを歴任した。
 東久邇宮内閣や幣原内閣で外務大臣を務めたのち、内閣総理大臣に就任し、1946年5月22日から1947年5月24日、および1948年10月15日から1954年12月10日まで在任した。 優れた政治感覚と強いリーダーシップで戦後の混乱期にあった日本を盛り立て、戦後日本の礎を築いた。ふくよかな風貌と、葉巻をこよなく愛したことから「和製チャーチル」とも呼ばれた。

免許証(めんきょしょう);運転免許証。自動車や原動機付自転車の運転が許可されていること(一般に運転免許とも呼ばれる)を示す公文書である。 日本の制度では道路交通法の規定により、都道府県公安委員会によって発行される運転許可を証明する公文書であり、個人所有の物ではなく許可日が過ぎた運転免許証は、速やかに都道府県公安委員会に返納しなければならない。これらの運転許可証を取得許可を得ずに日本国の公道を自動車等、動力機で走行することを禁じている。また氏名、生年月日、住所、免許条件、証明写真、番号が登録される。
 運転免許証に記載される運転免許は、2017年時点で第一種運転免許があり、第二種運転免許は大型自動車、中型自動車、普通自動車、大型特殊自動車、けん引自動車がある。
 タクシー・ハイヤーを運転できるのは、乗務員(運転手)として、旅客輸送業に従事する旅客車に乗務する為には、第二種運転免許(普通二種、またはその上位免許である中型二種、大型二種免許)が必要である。AT車のみの乗務であれば、AT車限定の普通二種免許で乗務できる。また、東京武三交通圏の場合、タクシー乗務員になるには、普通自動車第一種運転免許証または、準中型自動車運転免許証を取得後、三年経過した者で雇用先が指定する健康診断を通れば、二種免許養成乗務員として入社することができる。
 東京・大阪はタクシーセンターが行う地理試験に合格し、新任研修を経た者が登録乗務員になれる。



                                                            2018年7月記

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