落語「乙女饅頭」の舞台を行く
春風亭柳昇の噺、「乙女饅頭」(おとめまんじゅう)より
■新作落語で江戸時代の吉原を舞台にした噺。廓からの脱出を望む花魁が、金物問屋の奉公人と恋に落ちる。柳昇のヒューマニズムと日本古来の稲荷信仰が融合した人情噺。
■吉原(よしわら);廓と言えば江戸では吉原を指します。新吉原(浅草に移った後の吉原)は、江戸の北にあったところから北州、北里とも呼ばれました。俗にお歯黒ドブに囲まれた土地で、総坪数二万七百六十坪有りました。ドブには跳ね橋が九カ所有りましたが、通常は上げられていて大門が唯一の出入り口でした。大門から水戸尻まで一直線の道路を仲の町と言い、その両側には引き手茶屋が並んでいました。
■棟梁(とうりょう);江戸訛りで”とうりゅう”と言いました。特に、大工のかしら。鳶のリーダーは頭(かしら)と言います。また、左官のリーダーは親方と言います。
■番頭(ばんとう);商家の雇人の頭で、店の万事を預かる者。手代の上位。会社で言うオーナーは旦那で、実務一切を取り仕切るのが社長の番頭で、その下に社員に当たる、手代や小僧がいます。
■切り込みが出来る;大工仕事で家を一軒建てるときは、深川で材木を吟味して、それを柱や梁に長さを揃え、組み込めるように穴開け加工をします。その穴開け加工が明日出来るので、明後日から仕事場に入ると棟梁は言っています。
■花魁(おいらん);吉原の娼妓。岡場所では女郎(飯盛り女)。
語源;妹分の女郎や禿(かむろ)などが姉女郎をさして「おいら(己等)が」といって呼んだのに基づくという。
江戸吉原の遊郭で、姉女郎の称。転じて一般に、上位の遊女の称。
■身請け(みうけ);花魁を吉原から正式に自分のものにするには、二つの方法があります。年季明けと言って、年期が来るのを待つ方法と、身請けという方法も有るが、費用が安い店でも4~50両、高いのになると千両も掛かるという。野球のトレードでも実力があればそれなりの費用が掛かります。
■年期・年季(ねん。ねんき);奉公人などをやとう約束の年限。1年を1季とする。吉原の遊女では、通常10年とされ、十八で見世に出て二十八で、証文を巻いて貰う。おぬいさんは年季が後3年だと言っていますので、現在は二十五になっています。
■聖天(しょうでん)様;”しょうてん”と書いて”しょうでん”と読ませます。
■足抜け(あしぬけ);吉原から遊女が無断で逃げ出すこと。逃げ出した大部分は捕まって、年期が延びるか、下級の見世にトレードに出されてしまう。その対策として、お歯黒ドブが有り、大門の所には四郎兵衛会所と門番所が有り、通行人の監視をしていた。また、町奉行隠密回りの与力同心が詰めていた。
足抜け法、二題。二階の屋根伝いに逃げる二人。 廓の外に出てほっとする二人。『江戸吉原図聚』 三谷一馬画より
■九郎助稲荷(くろうすけいなり);九郎助稲荷に毎日灯明を上げてお願いしているの。去年の秋に嵐で社が飛んだときも、自分のお金で直したの。(おぬいさんの話から)
正一位九郎助稲荷大明神、縁結びの神として祭式が行われていた。絵の鳥居の額は其角の筆で『蒼稲魂』と書いてあった。行灯の奥の玄関は社務所で、女郎が願掛けをしています。下図:九郎助稲荷の縁日の様子。
■大門(おおもん);吉原に入るための唯一の出入り口。大門(だいもん)というと、芝増上寺の大門のことを言います。京風の読み方をして”おおもん”と言います。江戸から明治の初めまでは黒塗りの「冠木門(かぶきもん)」が有ったが、これに屋根を付けた形をしていた。何回かの焼失後、明治14年4月火事にも強くと時代の先端、鉄製の門柱が建った。ガス灯が上に乗っていたが、その後アーチ型の上に弁天様の様な姿の像が乗った形の門になった。これも明治44年4月9日吉原大火でアーチ部分が焼け落ちて左右の門柱だけが残った。それも大正12年9月1日震災で焼け落ち、それ以後、門は無くなった。
左、冠木門の大門。「北廊月の夜桜」香蝶楼国貞画 右、鉄柱にガス灯が乗った大門。 どちらも春先で仲の町に桜が植えられています。
■吉原の火事;新吉原になってから江戸時代20回の火災が有った。
安政2年(1855)10月安政江戸大地震による吉原遊廓の被災 藤岡屋日記より
安政の大地震は江戸市街に壊滅的被害を与え、郊外まで含めると家屋倒壊14000戸、死者は7千とも1万とも数えるに至った。水戸藩士で漢詩人としても有名な藤田東湖もこの地震で隅田川の水戸藩下屋敷で圧死した。
■餅菓子屋(もちがしや);浅草聖天町で米の饅頭を作って評判になった。それまでは麦粉で作られていた。
■使い姫の狐(つかいひめの きつね);お稲荷様の使い姫(眷属)は狐です。豊川稲荷も狐です。
■お礼参り(おれいまいり);神仏などにかけた願(ガン)が叶った礼に参詣すること。
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