落語「たぬき」の舞台を行く 五代目古今亭志ん生の噺、「たぬき」より
■狸の恩返しの噺は色々あって、どの噺も助けた子狸がやって来て、博打のサイコロになる「狸賽」(たぬさい)。同じく助けた狸がやって来て、ハガキをお金に換えて食事の用意をし、やって来た掛け取りを札に化けて退散させる「狸の札」(たぬきのさつ)。狸が鯉になって、兄貴分の出産祝いに祝儀として持ち込まれる、この噺の「たぬき」等が有ります。どの噺のベースも助けた小狸がやって来ていろいろな方法で恩返しをするものです。他の恩返しの題材になるのに「狸寝入り」、「狸の遊び」、「狸の茶釜」等が有ります。どの噺と組んでも良く、何処で切っても楽しい噺です。志ん生は狸の札と狸の鯉をつなげて演じています。
民話風落語では「まめだ」のように悪さをするが、貝に入った薬を枯れ葉のお金で買いに来たが、使用法が解らず死んでしまう、狸の哀れを噺にしたものや、「霜夜狸」のように山里の老人と狸の心温まる交流を描いたものも有ります。また「権兵衛狸」のように悪さをして背中と頭をはさみで刈られてしまったが、懲りずにまたやって来た狸も居ます。どの狸も、どこかユーモラスで愛嬌があるのが狸の噺です。
■狸(たぬき);イヌ科の哺乳類。頭胴長50~60cm、尾長15cm。山地・草原に穴を作って巣とし、家族で生活する。毛色は普通は茶褐色で、四肢は黒。毛皮を防寒用・鞴(フイゴ)用とし、毛は毛筆に用いる。雑食性。アナグマと混同され両者ともにムジナといわれる。化けて人をだまし、また、腹鼓を打つとされる。たのき。
民間伝承では、タヌキの化けるという能力はキツネほどではないとされている。ただ、一説には「狐の七化け狸の八化け」といって化ける能力はキツネよりも一枚上手とされることもある。実際伝承の中でキツネは人間の女性に化けることがほとんどだが、タヌキは人間のほかにも物や建物、妖怪、他の動物等に化けることが多い。また、キツネと勝負して勝ったタヌキの話もあり、佐渡島の団三郎狸などは自身の領地にキツネを寄せ付けなかったともされている。また、犬が天敵であり人は騙せても犬は騙せないという。
狸汁(たぬきじる);狸の肉に大根・牛蒡(ゴボウ)などを入れて味噌で煮た汁。狸の肉の代わりに、こんにゃくと野菜を一緒にごま油でいため、味噌で煮た汁。
■狸寝入り(たぬきねいり);眠っているふりをすること。そらね。たぬきね。たぬきねむり。
■火鉢の引き出し(ひばちのひきだし);長火鉢に付随する引き出し。長火鉢は、火鉢部分の右横に猫板とよばれるスペースがある。猫板の下に2~3段の引出しが付き、火鉢の下にも横に2つ引出しが並ぶのが一般的。引出しは乾燥するので茶筒、煎餅や海苔など湿気を嫌うものを入れる事が多い。引き出し面の反対側に客人を座らせることから、関東火鉢は引き出し面の反対側を表側とする。表面にはその時最も良いとされる杢目の板を使うのが江戸指物師の心意気。
「長火鉢」 深川江戸資料館。 長火鉢は右側に猫板という小さな台が付いていて、その下に小引き出しが付いています。その中にハガキが入っていたのでしょう。
■越後から縮み屋(えちごから ちじみや);越後縮と言って、越後国(新潟県)小千谷地方から出す縮。苧(カラムシ)で織った夏着尺。おぢやちぢみ。越後布。
■出産祝いに鯉(しゅっさんいわいに こい);日本では古くから女性が健康(体力作り)のために鯉を食したと言う伝説や伝承があり、妊婦が鯉を食べて健康になり、無事、安産できたと言う伝説もある。また、お産の後に鯉を食べると母乳がよく出ると言う伝承も見られる。こうした話は東西を問わず内陸地には多い伝承です。
■岡持ち(おかもち);食物を戸外へ持ち運ぶのに用いる桶(おけ)の一種。手桶のように桶の2か所の取っ手に横木を渡し、手で持ち歩けるようにしているが、岡持ちは普通、手桶よりも広く浅くつくり、その上に蓋(ふた)をつけたもの。江戸時代、物見遊山などには、塗り物のものが用いられたが、多くのものは白木づくりで、また、形には円形、楕円(だえん)形、角形などがある。一般には、さかな屋、すし屋、うなぎ屋などの出前に使用されてきたが、現在はステンレスでけんどん式の岡持ちが使われ、あまりみられなくなった。
■出世魚(しゅっせうお);稚魚から成魚までの成長段階において異なる名称を持つ魚。江戸時代までは武士や学者には元服および出世などに際し改名する慣習があった。その慣習になぞらえ「成長に伴って出世するように名称が変わる魚」を出世魚(しゅっせうお)と呼ぶ。「縁起が良い魚」と解釈されて門出を祝う席など祝宴の料理に好んで使われる。ブリ・スズキ・ボラなどが代表的。
■鯉コク(こいこく);輪切り(筒切り)にした鯉を、味噌汁で煮た味噌煮込み料理。鯉こくのこくとは、濃漿(こくしょう)という、味噌を用いた汁物のことであり、鯉こくはこの濃漿の一種。江戸時代には、「鯉汁」、「胃入り汁」、「わた煎鯉」とも呼ばれていた。江戸時代以降は濃漿はほぼ廃れてしまい、鯉を材料とした鯉こくのみが生き永らえて現在に至っている。 鯉こくは、出産後の母乳の出を良くすると言われている。この噺でも、出産祝いに持ち込まれ、亭主は母乳の出が良くなると喜んでいます。
■温かい鯉(あたかいこい);鯉だけで無く、川魚は水温と同じ体温なので、ほ乳類のように温かくはありません。
■出刃でこすると(でばでこすると);鯉は往生際の良い魚で、「俎板の鯉」と言われるように静かになってしまいます。震えるような事はありません。でも、実際にはバタバタ暴れますが、横腹の縦に一本走る側線は非常に敏感な器官で、出刃包丁でこすると、失神して動かなくなるのです。
■鯉の薪(滝)上り(こいのたきのぼり);中国の伝説では黄河上流にある竜門の滝を上れた鯉は化して龍になるという言い伝えがあるところから「鯉の滝登り」のたとえになった。
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