落語「按摩の炬燵」の舞台を行く 八代目桂文楽の噺、「按摩の炬燵」(あんまのこたつ)より
■原話は古く、寛文12年(1672)刊の笑話本「つれづれ御伽草」中の「船中の火焼」です。これは、大坂の豪商・鴻池が仕立てた、江戸へ伊丹の酒を運ぶ、二百石積の大型廻船の船中での出来事となっていて、乗船している鴻池の手代が、冬の海上であまり寒いので、大酒のみの水夫を頼んでぐでんぐでんに酔わせ、その男に抱きついて寝ることになります。
■藪入り(やぶいり);草深い田舎に帰る意から、正月と盆の16日前後に奉公人が主人から休暇をもらって、親もとなどに帰ること。また、その時期。特に正月のものをいい、盆のものは「後(のち)の藪入り」ともいう。宿入り。宿さがり。宿おり。「藪入りの寝るやひとりの親の側(そば)」 炭 太祇(たん たいぎ)。
落語「藪入り」に詳しい。「藪入りや何にも言わず泣き笑い」。
■按摩(あんま);身体をもんで筋肉を調整し、血液の循環をよくする療法。もみりょうじ。マッサージ。また、それを業とする人。(あんまが盲人の業だったことから)
俗に、盲人。
■米市(よねいち);盲目で按摩を生業としていた。座頭では、市の名を付けていた。座頭市など。
惣録屋敷(そうろくやしき);江戸時代、江戸にあって関八州とその周辺の座頭を支配した、検校の座順の最古参の者。執行機関として惣録役所が置かれた。関東総録(惣録)と言いその屋敷。元禄5年(1692)本所一つ目に土地を拝領、杉山和一(すぎやま わいち)検校が取り仕切った。下図;明治東京名所図会より「一つ目弁天」
杉山和一の献身的な施術に感心した徳川綱吉から「和一の欲しい物は何か」と問われた時、「一つでよいから目が欲しい」と答え、その答え通り(?)に同地(本所一つ目)を拝領した。綱吉のお付きの者のウイットに富んだ対応が見事。
■揉み療治(もみりょうじ);按摩の基本手技。按摩の基本手技は以下に分類される。
軽擦法(按撫法)=術手を患部に密着させ、同一圧で同一速度で同一方向に遠心性で「なで」「さする」手技。作用としては弱い軽擦法は知覚神経の刺激による反射作用を起こし、爽快な感覚を起こさせる。強い軽擦法の場合は循環系の流通を良くし新陳代謝を盛んにし、また鎮静効果を期待する。
揉捏法(揉撚法)=術手を患部へ密着させ、垂直に圧をかけ、その圧を抜かずに筋組織を動かす手技。作用としては主として筋肉に作用を及ぼし、組織の新陳代謝を盛んにする。また腹部におこなう時は、胃腸の蠕動機能を高め、便通をよくする。
叩打法=身体の表面を術者の手指ですばやく打ち、叩く方法。力が深部に達するような叩き方は避け、関節を滑らかに動かして弾力をつけて左右の手で交互に叩く。作用としては断続刺激がリズミカルに作用するので筋、神経の興奮性を高め、血行をよくし、機能を亢進させる。
圧迫法=圧がある頂点に達したらそれを減圧する方法である。圧を漸増、漸減に施す。漸増、漸減であるから急激に力を加えてはならない。作用としては機能の抑制である。神経痛などの痛みを鎮め、痙攣を押さえるなどの効果がある。
振せん法=
施術部へ術手を密着させ術手を固定し、肘関節を少し屈曲し、前腕伸筋屈筋、上腕伸筋屈筋を同時に収縮させアイソメトリックを起こし振動させ、その振動を患部へ伝える。作用としては細かい断続的刺激により神経、筋の興奮性を高め、また快い感覚を覚えさせる。
運動法=患者の関節を十分弛緩させて術者がこれを動かす方法である。各関節の運動方向及び生理的可動域に注意する。作用としては関節内の血行を良くし、関節滑液の分泌を促し、関節運動を円滑にして関節の拘縮などを予防する。
■奉公(ほうこう);他人の家に雇われて、その家事・家業に従事すること。元来は、朝廷・国家のために一身をささげて尽くすこと。
江戸時代から昭和の初めまでは、年少の子供が商売人や職人に預けられて、仕事のことやしつけ、常識などを身につけたと言います。それが「丁稚奉公」です。「丁稚奉公」の「丁」は働き盛りの青年、「稚」は十分に成長していない、「奉公」は他人に召し使われて勤める、という意味です。
つまり「丁稚奉公」とは、まだ働き盛りに達しない、十分に成長していない子供が、他人に仕えて勤めるという意味で、年齢は10歳前後から対象となった、と言われています。
具体的には、年少の頃から親元を離れ、商人や職人の家に住み込み、商売のノウハウや職人の技を教えてもらいながら、その店舗や家のために働く、という状況です。
丁稚と小僧:年少の雇い人のことを上方では丁稚、江戸では小僧と言っていました。
■目も鼻も無い(めもはなもない);目がない=夢中になって、思慮分別をなくすほど好きである。「日本酒には―・い」。按摩さんが言うには、最上級として目だけではなく、鼻も無いと言ったのです。めちゃめちゃ好き。
■消し炭(けしずみ);まきや炭の火を途中で消して作った軟質の炭。火つきがよいので火種に用いる。
■炭団(たどん);炭(木炭、竹炭、石炭)の粉末をフノリなどの結着剤と混ぜ団子状に整形し乾燥した燃料。右写真。
■備長炭(びっちょうたん);紀伊国田辺の商人備中屋長左衛門(びっちゅうや ちょうざえもん)が、ウバメガシを材料に作り販売を始めたことから、その名をとって「備長炭」の名がついた。狭義にはウバメガシの炭のみを備長炭と呼ぶが、広義において樫全般、青樫等を使用した炭を指す場合もある。
■米市が湯飲みに指をいれる;燗をされた酒を湯呑みに注がれて、「温度を調べて…」と言ってますが本心ではちゃんと口一杯まで注いでくれているか心配して確かめているんですね。眼が悪い友人が言うのには、そうして量を確認することがあります。文楽師匠は、さすが芸が細かい。
■ハゼの佃煮(はぜのつくだに);ハゼはほぼ年中漁獲されるが、旬は秋から冬にかけてとされる。美味な白身魚で、天ぷら、唐揚げ、刺身、吸い物の椀種、煮付け、甘露煮などいろいろな料理で食べられる。仙台など一部の地方では、ハゼの焼き干しは伝統的な雑煮の出汁として、なくてはならないものである。
米市が酒をご馳走になっているとき、番頭さんからハゼの佃煮をもらいます。手づかみでハゼをもらい、美味しそうに口に運んで、その濡れた手を首の後ろで拭く動作が何とも粋で、「ここに布巾があるんです」とは心憎い台詞です。
■歯ぎしり(はぎしり);小児期から始り、主として睡眠中に起る。咬合(こうごう)の異常習癖の一つで、歯を強くこすり合わせて断続音を出すもの。睡眠中にみられる上下の歯を強くすり合わせて、特有のきしり音を生ずるタイプは、一般に睡眠の浅いときに多いといわれる。昼間無意識に行われる場合は、かみしめたり、くいしばったり、上下の歯をカチカチさせる癖となる。睡眠中に用いるナイトガードもあるが、暗示療法や咬合調整で治療できることもある。
■寝言(ねごと);睡眠中の無意識状態で発する言葉を指し、言葉を発している本人には意識が無いことから、記憶に残らない場合がほとんどである。
寝言は一般的に夢を見ているレム睡眠の際に発せられると考えられており、当人が見ていた夢の内容に影響される傾向が強い。夢を見ている際に無意識に体が動く反射運動の一種とされる。当人に明確な意識が無いため、その内容はとりとめが無く、時に珍妙な発言が聞かれることも多い。
動物でもある程度の知能があるものは夢を見ることが知られているが、その夢に影響されるのか、寝ながら鳴く個体も見られる。
■寝小便(ねしょうべん);夜尿症の定義 =5歳以降で月1回以上のおねしょが3か月以上続く場合。
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