落語「いたりきたり」の舞台を行く
   

 

 桂枝雀の噺、「いたりきたり」より


 

 一人で住んでいると動物を飼いたくなります。動物に話しかけていると心がほぐれると言います。

 「何か飼ってるの?」、「家に居るのは、『いたりきたり』1匹と、もう1匹は、『でたりはいったり』」、「ペットショップで買ったの」、「郊外の竹藪のあるところに家を建てたので、そこに穴があって、出たり入ったりしていたのが、『いたりきたり』だったんだ。翌日そこを通ると行ったり来たりしていたのが、『でたりはいったり』で、イタチに似ているんだ」、「何を食べるの?」、「『とったりみたり』」、「どんな動物?」、「イタチよりズ~ット小さく、食べるときに、2匹とも取ったり見たりしているんだ。でも元気が無くなって、おかしいなと思って考えた。籠の中に、穴を開けた仕切りを入れたら、そこを行ったり来たりして元気になった。出たり入ったりしていた『いたりきたり』は細長い駕籠にしたら、その中を出たり入ったりしてして元気になった」。
 「その他に何か飼っているのか?」、「『いたりきたり』や、『でたりはいったり』より下等動物で、ナマコみたいなんだ。2匹とも空いていた金魚鉢で飼っているんだ。名前は、『のらりくらり』と『ねたりおきたり』なんだ。ナマコより小さく白くファ~ファ~してるんだ」、「生きているんだから何か食べるんだろう?」、「当然で、餌の名前は、『くうたりくわなんだり』なんだ。2匹とも同じ餌なんだが、食うたり食わなんだりしているんだ」、「何か良い事有るのか?」、「人間大らかになるよ」、「こっちはイライラしてくるよ」。

 「『いたりきたり』でも、サラリーマンが新幹線のひかりで東京まで行って、その日の内に帰って来たら、『いたりきたり』じゃないか。『のらりくらり』と『ねたりおきたり』だって、普通箸で押されたら押し返すが、これらは押されたら押されっぱなし、引っ張られたら引かれ放しなんだ。悪口言われたら反発するが、本当に悪かったら直せば良いし、悪口言った方が間違えていたら恥ずかしい事になる。何も反論する事無いじゃ無いか。心が軽くなるよ」。

 「それを聞いていたら何か飼いたくなったな」、「そうか、1匹譲ってもいいのが居るんだ」、「それは良かった。その名前は?」、「『ねごたりかのたり』(願ったり叶ったり)」。

 



ことば

名前の付け方;この噺では『でたりはいったり』と『いたりきたり』。区別するのに頭の中がこんがらがって、私は、話中の友人と同じようにイライラしてきます。犬と猫を飼っている人が、名前を付けるのに、犬には『ねこ』、猫には『いぬ』と付けて楽しんでいたという。落語のマクラで笑わせる小咄があります。マクラのような小咄なら笑っている間に本題に入っていきますから好いのですが、この噺は本題がこれですから、混乱が解けきれません。桂枝雀はよく間違わずに演じきったと思います。お客さんが整理しきれずにいるところを、次に進んでしまい、演者はお客さんがモタモタしているのを楽しんでいます。

ペットショップ;犬、猫、小動物(ウサギ、モルモット、ネズミ、小鳥など)を販売する店舗。

イタチ(鼬、鼬鼠);ネコ目(食肉目) イヌ亜目 クマ下目 イタチ科 イタチ属 Mustela に含まれる哺乳類の総称である。オコジョ、イイズナ、ミンク、ニホンイタチなどがイタチ属に分類される。ペットとして人気のあるフェレットもイタチ属である。 なお、「イタチ」の語は元来、日本に広く棲息するニホンイタチ Mustela itatsi を特に指す語であり、現在も、形態や生態のよく似た近縁のチョウセンイタチ M. sibirica coreana を含みながら、この狭い意味で用いられることが多い。
 右写真、イタチ。
 イタチ属の動物は、しなやかで細長い胴体に短い四肢をもち、鼻先がとがった顔には丸く小さな耳がある。多くの種が体重2kg以下、メスのニホンイタチではオスの3分の1である。 小柄な体格ながら、非常に凶暴な肉食獣であり、小型の齧歯類や鳥類はもとより、自分よりも大きなニワトリやウサギなども単独で捕食する。反対にイタチを捕食する天敵は鷲・鷹・フクロウと言った猛禽類とキツネである。 水辺を好み、泳ぐのも上手い。
 キツネやタヌキと同様に化けるともいわれ、東北地方や中部地方に伝わる妖怪・入道坊主はイタチの化けたものとされているほか、大入道や小坊主に化けるという。 鳥山石燕の画集『画図百鬼夜行』にも「鼬」と題した絵が描かれているが、読みは「いたち」ではなく「てん」であり、イタチが数百歳を経て魔力を持つ妖怪となったものがテンとされている。別説ではイタチが数百歳を経ると狢になるともいう。

下等動物(かとうどうぶつ);体制の簡単な動物のやや俗な総称。 対語、高等動物。広辞苑
 ① 発生学、比較解剖学、系統学などから進化の程度が低いと考えられる動物。脊椎動物では、爬虫類、両生類、魚類など。 ※面白半分(1917)〈宮武外骨〉人類の最大発明は直立直行「直立直行は啻(ただ)に外見に於て人を下等動物(カトウドウブツ)と果らしむるのみならず」
 ② 考え方や性質などがいやしい人。 ※破垣(1901)〈内田魯庵〉二「妾手掛や芸娼妓を芥のやうに罵って〈略〉世の中に彼様な卑しいものになりたがる下等動物のあるを慷慨して」
 出典 精選版 日本国語大辞典

 下等生物は、例えば単細胞生物のように極めて単純な体構造をしているため、多細胞生物で、かつ複雑な進化の過程を経てきたヒトにとっては、自分の体と比較して極めて単純であるということをもって「下等」と表現される。
 こういった価値観は、古典生物学の、まだ生物進化の系譜や遺伝子の仕組みなどはほとんど解明されていなかった時代には、人類(人間)こそは最も進歩した生物だという視点とともに学術用語としても使われることがあった。

ナマコ(海鼠、英: sea cucumber);棘皮動物門のグループの一つで、ナマコ綱 Holothuroidea に分類される。体が細長く口が水平に向くなどの特徴を共有する一群である。世界に約1500種、日本にはそのうち200種ほどが分布する。食用になるのはマナマコなど約30種類。寿命は約5-10年。
 ナマコ綱は、棘皮動物門に属する動物の一群である。この門の他の群(ウニ、ヒトデ、クモヒトデ、ウミユリ)は体軸を基盤面に垂直にした体をもつのに対して、ナマコ類は体が前後に細長く、腹面と背面の区別がある。見かけ上は左右相称であるが、体の基本構造は棘皮動物に共通した五放射相称となっている。体表が刺や硬い殻ではなく、比較的柔軟な体壁に覆われることもナマコの特徴である。骨格の発達は悪く、細かな骨片として体壁に散らばっている。雌雄異体であるが、外観から区別することは困難である。すべてが海産であり、淡水・汽水域には生息しない。潮間帯から深海まで分布範囲は海洋全域に及ぶ。
  食材としてのナマコの旬は初冬とされ、日本では酢の物として食べることが多く、味よりはコリコリとした独特の食感を楽しむ食べ方をされる。腸などの内臓を塩辛にしたものはこのわたと呼ばれ、ウニ・からすみ(ボラの卵の塩漬け)と並んで日本三大珍味のひとつとされる。905年編纂の『延喜式』にも記述があり、ナマコの利用法としては1000年以上の歴史を持つ。 生食が中心の日本に対し、中国では乾燥させた干しナマコとして利用するのが一般的である。

新幹線;「ひかり」は、東海道・山陽新幹線で「のぞみ」「みずほ」に次いで速い列車で、「準速達列車」の位置づけです。おもに東京−新大阪・岡山間で運行されていて、一部列車が岡山−博多間も走ります。ただし系統は分断されていて、東京−博多間を通しで走る「ひかり」はありません。 山陽新幹線の準速達列車としては「さくら」もあります。九州新幹線に直通するのが「さくら」、山陽新幹線のみ(博多まで)が「ひかり」です。岡山より西では、「ひかり」はあまり走っていません。東京−新大阪間の所要時間はのぞみ2時間45分程度(名古屋・新大阪行き以外)・ひかり3時間15分程度(岡山・広島ゆき)。

 「のぞみ」は最速の列車で、東京・品川・名古屋・京都・新大阪・新神戸(以下略)の駅のみ停車します。ひかりは列車によって他の駅(静岡など)にも停車します。つまり、ひかりの方が停車駅が少し多いということで若干トータル時間がかかります。またのぞみはひかりより座席指定券は500円高くなります。 東海道新幹線は、300系・700系・N700系の3種類の車両を使っていますが、のぞみはN700系と700系が優先的に利用されます。ひかりは700系が多いでしょうか。ただ、専用という訳ではありませんので、臨時ののぞみで300系ということもあります。そのため、のぞみとひかりで座席が違うということはありません。東京から新神戸までは3時間を少し切る程度の時間になります。 のぞみとひかりは、停車駅を絞り込んで早く目的地にたどり着けるかどうかの違いなので、乗った楽しみでの違いはほとんどありません。

 富士山の麓を走る新幹線。

願ったり叶ったり(ねがったり かなったり);願い望んでいたとおりに事の叶うこと。「願ったり叶ったりの好条件」。



                                                            2020年11月記

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