落語「町内の若い衆」の舞台を行く
   

 

 柳家権太楼の噺、「町内の若い衆」(ちょうないのわかいしゅう。ちょうないのわかいし)


 

 大将(親分)の自宅に寄ってみたがあいにく組合の用事で留守にしていた。お茶をいただきながら聞こえてきたのが、奥の方で大工仕事をしている様子。聞けば「茶の間が古くなったので、建て増しをしているの。でも、一ヶ所触れば他もやるようになると思うんだけどね」、「偉いですね。この不景気な折、木口の高い時期によく茶の間の建て増しをされる。大将は働き者ですね」、「な~に、言ってるの。ウチの働きじゃ無いのよ。町内の若い衆さんがよってたかって作ってくれた様なものです」。その謙遜振りと若い衆を持ち上げるのが上手く、感心して外に出た。

 大将のおかみさんの奥ゆかしい態度に感心し、反対に、女らしさを失った自分の妻と比較して情けなくなった。のべつ鉢巻きしてあぐらをかいてタバコを吸って、鼻から煙を出している。まるで箱根山の雲助だ。自宅に帰ると、陸に上がったトドのようなおかみさんがいた。「帰って来たのなら、そんな所に立たないで。西日が差さないだろ」、大将の家での一件を話して聞かせた。「お前にこういう受け答えができるのか」、「同じ事私だって言えるよ。建て増ししろ」、詰まって、返事のしようが無かった。「お前は女じゃ無い」、「女か女じゃないか、身に覚えがあるだろう」、「世間はそう見ていない。大掃除の時、二人共ほっかむりして、半纏着ていたら、屑屋が来て『弟さんの方が力ありますね』と言ったんだ」。
男は「湯に行く」と言い捨てて自宅を飛び出した。

 偶然友達の辰に道で合った。女房の愚痴が出て、「お宅の大将は、大将って俺のことだよ。俺の家に行って何でも良いから褒めてくれ。最後に『おたくの大将は働き者ですね』と言ってみてくれ。どんな返事をしたか後で教えてくれ。湯銭は払っておくから」。「何か買ったんだな。見せたい物があるんだろうな」。

 男の家に来て、おかみさんに大将がいるかと尋ねたが、大将では通じなかった。「湯に行ったのだが途中合わなかった?」。
 褒めようと、部屋中見回したが褒める物がなにも無い。「普通は六畳を四畳半にしか使えない。家具や長火鉢が有るからな。ここは六畳を六畳のまんま使っているから偉い。蜘蛛の巣がスゴイ、アブラムシの生きのイイの、と褒める物が無いから苦しんでいた。「そんな事言っていないでよ。私は来月産まれるのよ」、「この不景気に赤ん坊をこしらえるなんて、おたくの大将は働き者ですね」、「うちの人の働きではないわよ。町内の若い衆が、寄ってたかってこしらえてくれたようなものよ」。

 



ことば

原典とみられるものは元禄3年(1690)の笑話本『枝珊瑚珠』に収載された「人の情」。大まかなストーリーは原話以来ほぼ不変とされ、これは落語の数多い演目の中できわめて珍しい噺です。

 もっとオチが凄いので落語「氏子中」と言うのがあります。演者によっては題名が「氏子中」で、内容は「町内の若い衆」と言う事も有ります。
 江戸ナマリで、町内の若い衆と書いて、「ちょうないのわかいし」と発音します。

木口(きぐち);材木。建物に使う木材。

茶の間の増築;噺家によっては「茶室」とも言っています。

雲助(くもすけ);住所不定で浮き雲のように定めないからとも、また、立場にいて往来の人に駕籠をすすめることが、蜘蛛が巣を張って虫を捕えるのに似ているからともいう。 江戸中期以後に、宿駅・渡し場・街道で駕籠かき・荷運びなどに従った住所不定の人足。「雲助駕籠」。
雲助根性:人の弱みにつけ入ってゆすりを働く下劣な根性。落語「蜘蛛駕籠」が有ります。
右図;箱根山から下りた「東海道五十三次之内三島」部分 広重画

トド(とど。胡獱);アシカ科の哺乳類。アシカに似るが大形で、雄は体長約3m、雌は2.7mに達する。体は淡茶褐色。北太平洋に生息、日本では北海道・青森の海岸に見られる。
 海岸から30km
以内の海域に生息し、昼間は岩礁海岸で休む。 食性は動物食で、魚類(カサゴ、シシャモ、スケトウダラ、ヒラメ、ホッケ、マダラ、メバルなど)、軟体動物(イカ、ミズダコ)などを食べる。 繁殖形態は胎生。5~7月になるとオスが上陸して縄張りを形成し、数頭から数十頭のメスとハーレムを形成する。主に6月に1回に1頭の幼獣を産む。授乳期間は1~2年。オスは生後3~4年、メスは生後4~5年で性成熟する。右写真:トド 広辞苑
 過去においては日本ではトドとアシカ(ニホンアシカ)は必ずしも区別されておらず、アシカをトドと呼ぶ事も度々みられた。

西日が差さない(にしびがささない);日本家屋では普通西日を避けた間取りにする。暑い西日が入ると部屋が暑くなり、夏には部屋に入れなくなる。エアコンも無いのに西日が入らないなんて、クレームは付けることは無い。

六畳(6じょう);六畳一間で家財も無い生活と言っていますから、長屋住まいなのでしょう。9尺2間半の間取りで、間口9尺の入口戸を開けると奥行き3尺の土間があり、そこに流しやへっつい(かまど)が有り、一段上がって9尺X2間で6畳間があります。長屋ですから左右は壁で、お隣さんが住んでいます。奥は外に抜けられ濡れ縁になっていて洗濯物を干すことが出来ます。部屋の中に押し入れは無く、角に枕屏風を立て廻し夜具を入れておきます。せめて葛籠(つずら)などがあり、そこに着る物や小物を入れておくのですが・・・。余裕があれば茶箪笥や長火鉢があり六畳が四畳半にしか使えません。

(ゆ);銭湯。関西ではお風呂屋と言いますが、江戸では湯または湯屋と言います。

 「湯屋」 江戸東京たてもの園にて



                                                            2015年4月記

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