落語「孫、帰る」の舞台を行く
   

 

 柳家喬太郎の噺、「孫、帰る」(まご、かえる)より


 

 夏休みになると、ビールは旨いし、海水浴も楽しい。子供達は祖父母の家に行って、日頃味わえない楽しみを謳歌してきます。

 「お爺ちゃん、来たよ。お婆ちゃん・・・、誰も居ないのかな」、「ここだ」、「お爺ちゃん、どこに居るの?」、「ここだ、箪笥の上だ。タマがここで涼んでおったので、追い出してここに居るんだ」、「お婆ちゃんは?」、「買い物に行ってる」、「タマはどこに居るの」、「そこら辺にいるだろう」、「あッ、屋根の上にいるよ」、「と言うことは、あすこが一番涼しいんだな」。

 「屋根に上がったから、健一、お前も上がっておいで」、「初めて上がったけれど、気持ちイイね」。
 「友達出来たか?」、「出来た。僕みたいな子がいっぱい居るんだ」、「ママは元気か? 美代子は?」、「ママは、ママさんバレーに入ったよ」、「二人の生活慣れたか? わしは緑のおばさんの、爺さん判をやっている。事故を起こしてからじゃ~、遅いからな。覆水盆に返らずと言うからな」。
 「屋根の上は気持ちイイね」、「お前のママも良く屋根に上っていたんだ」、「ママが・・・?」、「結構お転婆だったんだ」、「ママには言えないことだって有るだろう。爺ちゃんに話してみな」、「話したってしょうが無いけど。やっぱり・・・、本当は・・・、死にたくなかったな。死にたくなかった」、「ん、そうだな」、「もっともっと、生きていたかった。死にたくなかったッ」、「そうだな。美代子は悪くは無い。シートベルトもしていたし、安全確認もしていた。しかし、巻き込まれてしまうと、どうしようもなかった。それこそ、覆水盆に返らず、だ。仕方が無いな」。
 「爺ちゃん、肩叩いてあげる」、「うん? そうか浮くんだ、健一は」、「叩くよ。あれ? ばかだな~、透き通っているんだ。叩けないよ」、「気持ちよかったぞ~。どうした健一」、「そろそろ帰る」、「待ってろ、そろそろ婆さんが帰ってくる。健一ッ」。

 「貴方どうしたの? 屋根の上で・・・」、「いつまで買い物してたんだ、健一が来てたんだぞォ」、「気の早い子だね。まだお迎え火も焚かないのに・・・。美代子も来ました?」、「いやいや、健一一人だった」、「一緒に来れば良かったのに」、「婆さん、お盆には、一人しか帰ってこれないんだよ」、「そうなの」、「昔から言うだろう、複数盆には帰らず」。

 



ことば

■2014年 落語研究会の高座より、新作落語。前半のマクラのところでは、好きなゴジラや怪獣のことを話して場内を沸かし、本編では怪談じみた、現代の社会問題にもなっている、交通事故死の問題を、爺婆と孫の取り合わせで一席の噺としています。噺の後半ではハンカチで目頭を拭くお客さんが増え、涙と笑いで噺をまとめています。

柳家 喬太郎(やなぎや きょうたろう);1963年〈昭和38年〉11月30日 - )は、東京都世田谷区出身の落語家。社団法人落語協会所属。本名は小原(こはら) 正也(まさや)。日本大学商学部経営学科卒業。出囃子は「まかしょ」。紋は「丸に三つ柏」。通称「キョンキョン」(自称)。

 実力と幅広さを兼ね備えた個性的な噺家である。 古典落語は、エンターテイメント性に富む語り口ながら、古典の味わいをそこなうことなく、円熟した落語を聴かせる。滑稽噺はもとより、師のさん喬ゆずりの人情噺、さらには「死神」「蛇含草」(蕎麦清)などといったダークな噺でも、迫真の語り口で聴衆を圧倒する。「擬宝珠」や「綿医者」「にゅう」といった、演者の絶えた珍しい古典演目の蘇演も手がけており、また、後半の内容が陰惨なため前半で切り上げられることの多い「宮戸川」を通しで演ずる数少ない噺家でもある。 「ハワイの雪」「純情日記横浜篇」といった新作落語にあっては、現代的な題材と巧みな構成が際立ち、そこでは文学的な繊細な描写が展開される。その一方で「歌う井戸の茶碗」、「諜報員メアリー」や「寿司屋水滸伝」などナンセンスなギャグが満載の作品、エキセントリックなまでに先鋭的な作品もあり、創作力・演出力ともに非凡である。 また、自作の歌をCD化したり、江戸川乱歩の作品を演じるなど、落語を様々なかたちで見せるオールラウンドプレイヤーであることも喬太郎の持ち味のひとつとなっている。
 「マクラ」(落語で本題に入る前の部分)のおもしろい落語家としても有名であり、柳家小三治や立川志の輔などと同様、マクラ自体がひとつの芸の域に達していると評される。ことに「時そば」は、そのマクラの内容から「コロッケそば」の異名をとるほど有名である。 落語については、しょせん芸能の一分野にすぎないという見解に立ち、自分の価値観の中でその時聴いて面白ければそれでよいとしている。一般論としては落語論・落語評論といったものを語ることに否定的で、論じるよりも稽古することが大切だというスタンスをとり、また、聴衆には「落語に関する知識は必要ない」とし、さらには「知識がなくて楽しめないのであれば、それはもともと面白くない落語である」と語っており、難しく考えず気楽に落語を愉しむことを提唱している。

 ウイキペディアより

覆水盆に返らず;(周の呂尚(太公望)が読書に耽ったので、妻が離縁を求めて去った。後に尚が斉に封ぜられると再婚を求めてきたが、尚は盆を傾けて水をこぼし、その水をもとのように返せばその請を容れようと言ったという故事)。
 いったん離別した夫婦の仲は元通りにならないことにいう。
 転じて、一度してしまったことは、取り返しがつかないことにいう。

屋根の上は気持ちイイ;夏、屋根の上を風が通り抜けるので気持ちが良い上に、見晴らしが良く見る景色も新鮮で景色を妨げる物が無いので、気分は最高。実際、上ってみると開放感があって、別世界のような感覚があります。

 

 スヌーピーですら、屋根の上はお気に入り。

お転婆(おてんば);(「転婆」は当て字) 騒々しくてつつしみのない女。でしゃばり女。おてんば。

シートベルト(seat belt);自動車・航空機などの座席に付いているベルト。身体を座席に固定し衝突事故などの際、損傷を防止する。安全ベルト。この噺では、自動車に付いているベルトで、高速道路を走行しているときは着用を義務づけられている。

お迎え火も焚かないのに;盂蘭盆(ウラボン)の初日の夕方に、祖先の精霊(シヨウリヨウ)を迎えるために焚く火。門前で麻幹(オガラ)を焚くのが普通。健一は、まだ、お盆の期間になっていないのに祖父母の家に尋ねてきたので、お婆さんは「気の早い子だね。まだお迎え火も焚かないのに・・・」と言っています。
 また迎え火の変形として盆提灯がある。これも同じく先祖の霊を迎え入れるための目印であり、また先祖の霊が滞在しているしるしであるとされる。この風習は鎌倉時代から行われている。さらに竿燈や五山送り火のように発展したり、送り火に変化したものもある。

交通事故死;政府が発表しているデータから拾います。

○ 年齢層別30日以内死者数の推移                
18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年 25年 26年 27年 28年
年齢層別
4歳以下 58 51 47 38 36 36 34 33 24 28 30
5~9歳 71 47 53 51 51 48 38 48 42 34 29
10~14歳 36 45 45 27 37 27 26 21 31 24 23
15~19歳 441 379 328 288 264 255 225 218 199 185 190
20~24歳 460 408 328 334 307 278 240 228 202 192 206
25~29歳 334 294 233 201 221 205 179 177 158 144 137
30~34歳 320 262 227 184 222 177 176 153 145 141 138
35~39歳 296 284 246 241 209 219 207 179 148 175 171
40~44歳 260 233 229 211 222 242 233 217 204 202 197
45~49歳 270 272 246 227 218 230 215 229 220 212 216
50~54歳 360 290 285 257 248 266 236 217 208 221 199
55~59歳 570 487 409 350 340 319 274 262 269 256 244
60~64歳 553 405 429 443 443 445 417 408 353 332 273
65~69歳 627 587 528 523 493 419 417 453 448 432 448
70~74歳 736 721 642 596 642 582 546 575 498 522 460
75~79歳 794 806 679 732 733 703 675 670 598 625 565
80~84歳 683 670 686 629 666 633 617 606 601 640 614
85歳以上 467 454 439 508 476 451 506 471 490 520 558
全年齢層 7,336 6,695 6,079 5,840 5,828 5,535 5,261 5,165 4,838 4,885 4,698
(再掲)                      
65歳未満 4,029 3,457 3,105 2,852 2,818 2,747 2,500 2,390 2,203 2,146 2,053
65歳以上 3,307 3,238 2,974 2,988 3,010 2,788 2,761 2,775 2,635 2,739 2,645

 年々死傷者数は減少しています。過去には多いときで、1万人を越えていましたが、その当時の半数になりました。安全への投資が増えれば、さらに減少するでしょう。

 義務教育年齢期は低いが、それを越えて24歳までが一つのピーク。働き盛りに増え始め、定年後の縛られない年齢になると増え始め、高齢になるとさらに増える。運動能力の影響もあるのでしょう。

 

○ 状態別30日以内死者数の推移(各年12月末)              
                         
  18年 19年 20年 21年 22年 23年 24年 25年 26年 27年 28年
状態別
自動車乗車中 2,594 2,232 1,916 1,808 1,826 1,661 1,604 1,605 1,528 1,503 1,519
  自動二輪車乗車中 657 627 638 577 570 580 529 503 489 479 516
  原付乗車中 637 594 526 460 459 421 417 357 321 298 294
二輪車乗車中 1,294 1,221 1,164 1,037 1,029 1,001 946 860 810 777 810
自転車乗用中 1,049 996 981 953 938 868 790 813 738 770 712
歩行中 2,385 2,233 2,000 2,026 2,016 1,994 1,911 1,871 1,753 1,822 1,644
その他 14 13 18 16 19 11 10 16 9 13 13
合計 7,336 6,695 6,079 5,840 5,828 5,535 5,261 5,165 4,838 4,885 4,698
自動車乗車中構成率 35.4 33.3 31.5 31.0 31.3 30.0 30.5 31.1 31.6 30.8 32.3
二輪車構成率 17.6 18.2 19.1 17.8 17.7 18.1 18.0 16.7 16.7 15.9 17.2
自転車乗用中構成率 14.3 14.9 16.1 16.3 16.1 15.7 15.0 15.7 15.3 15.8 15.2
歩行中構成率 32.5 33.4 32.9 34.7 34.6 36.0 36.3 36.2 36.2 37.3 35.0

 自動車乗車中と歩行中の事故の割合が同じぐらいであったのが、時代が下がると増えてきます。車に乗っているときよりも、歩行中の方が危険がいっぱい。

 出典:統計で見る日本「政府統計の総合窓口」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00130002&tstat=000001027459&cycle=7&year=20160&tclass1val=0 より

 

・ 新型コロナウイルス感染症による、死亡者数等

 感染者:388,016人   前日と比べて:+3,345人
 死者:5,701人       前日と比べて:+91人
 入院療養中(うち重傷者) 前日と比べて:51,844人(974)
 1月30日午前0時現在

 上記交通事故死者数と比べても、今回のコロナ禍が酷い常態かが分かります。それも進行形で有るのが恐い。



                                                            202年2月記

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