落語「渋酒」の舞台を行く
   

 

 二代目桂小金治の噺、「渋酒」(しぶざけ)より


 

 山の中で旅人が道を迷いながら宿を探していると一軒の家を見つけて、一夜の宿を頼み、泊めて貰えることになった。
 そこの主人は、「これは丁度良いところだ。私はチョッと用足しに行ってくるから、しばらく留守番をしていておくれ。だが、奥の部屋を見てはいかんよ」、と言って出掛けて行った。
 見るなと言われると、見たくなるのが人の常で、旅人は奥の部屋を覗いてみると、この家の女房らしい女が死んでいた。枕元には机を据え、線香や枕団子があげてある。旅人はビックリして首をすくめて見ていると、死人の布団の中から、細い青い手が伸びて団子をつまんだ。これには旅人も度肝を抜かれとうとうその場に気を失ってしまった。
 その場に主人が帰ってきて介抱してくれ、やっと正気に戻った。「あれはわしの女房で、今朝死んだ。手が出たのは、三つになる子供が、母親の死んだのが分からず、一緒に寝ると言って添い寝をしたもの」と、説明した。
 旅人は夜が明けるやいなや、這々の体で逃げ出した。

 そして、峠の茶屋で一息ついて酒を注文した。便所を借りようと奥へ行くと、物置風のところに若い男が縛られていた。これにはまたビックリして、「あの男はどうしたんですか」、と訪ねると、「あいさ、おらがとこの酒を『渋い』ってぬかすので、縛りあげてやっただ」。
 それから旅人は、亭主の持って来た酒を、一口含んでみて、自分から手を後ろに回し、「亭主、おれも縛ってくれ」。

 



ことば

二代目 桂小金治(かつら こきんじ);(1926年10月6日 - 2014年11月3日)は、東京府豊多摩郡杉並町(現:東京都杉並区)出身の落語家、俳優、タレント、司会者。本名は田辺 幹男(たなべ みきお)。右写真。
 1947年、2代目桂小文治に入門して落語家となる。 次代の名人候補として将来を嘱望されたが、川島雄三の要請で映画俳優に転身。昭和中期から映画やテレビドラマ、バラエティ番組に数多く出演し、ことにワイドショーの名司会者として名を馳せた。
 1966年 - ワイドショー『アフタヌーンショー』(現:テレビ朝日)で司会を担当(1973年8月3日放送まで。小金治司会時代のタイトルは『桂小金治アフタヌーンショー』だった)。この番組で「怒りの小金治」の異名をとる。
  1975年 - バラエティ番組『それは秘密です!!』(日本テレビ、毎週火曜日19時30分〜20時00分)で司会を担当。同番組の人気コーナーであった「ご対面コーナー」で、感動のあまりもらい泣きする姿は視聴者の共感を誘い、前述とは打って変わって「泣きの小金治」と呼ばれた。
 2014年11月3日、肺炎のために神奈川県川崎市麻生区の病院にて死去した。88歳没。戒名は「慈笑院幹譽演道居士」。

枕団子(まくらだんご);亡くなられた方の遺体を安置する際、故人を棺に納めるまでの間、遺体の枕元に用意する飾りつけです。仏具と共に供物などをお供えします。その一つに枕団子があります。
 枕団子は亡くなられた方へ供えるお団子で、うるち米の米粉でつくります。枕飾りとしてお供えされ、枕飯と同じく高く積みあげるのもポイントです。 枕団子には、冥途への旅の途中でお腹が空いたらいつでも食べられるように、あるいは旅の途中で空腹に苦しむ人々に会ったら団子を分けることで功徳を積めるように、という思いが込められています。また、枕団子を見て食べたいと思って蘇って欲しい、という願いもあったようです。

峠の茶屋(とうげの ちゃや);日本において中世から近代にかけて一般的であった、休憩所の一形態。休憩場所を提供するとともに、注文に応じて茶や和菓子を提供する飲食店、甘味処としても発達した。茶店(ちゃみせ)とも言う。 現代の日本社会において茶屋はノスタルジーの対象であり、日本国外にあっては日本情緒の象徴の一つである。そのため、観光を主とした演出上の目的から、これを再現した店舗および観光施設は数多く存在する。
 交通手段が徒歩に限られていた時代には、宿場および峠やその前後で見られ、これらを「水茶屋(みずぢゃや)」「掛茶屋(かけぢゃや)」「御茶屋(おちゃや)」と言い、街道筋の所定の休憩所であった。立場にあれば「立場茶屋(たてばぢゃや)」と呼ばれていた。また、茶の葉を売る店は「葉茶屋(はぢゃや)」と言う。店先では、縁台に緋毛氈や赤い布を掛け、赤い野点傘を差してある事も多い。
 都内にも茶屋の名が付く地名があります。お花茶屋 (東京都葛飾区)。 茶屋坂 (東京都目黒区)。 三軒茶屋 (東京都世田谷区)。

 

 上、「岐阻街道 奈良井宿 名産店之圖」栄泉画。 下、現代の観光名所としての峠の茶屋。

渋酒(しぶざけ);ワインの中にはこれを特徴としたものが有ります。日本酒では五味がバランスして整っているものを良しとします。渋味が強いなんて飲み手がクレーム付けるのも仕方がないこと、クレームを言った人間を縛り上げるなんて最低で、せっかくのアドバイスを捨てるようなもので、売り上げは伸びないでしょう。



                                                            2021年12月記

 前の落語の舞台へ    落語のホームページへ戻る    次の落語の舞台へ

 

 

inserted by FC2 system