今来ているお医者は曖昧なことを言ってその対処法も分からない。
娘が病気になって寝ているので親御さんの心配は頂点に達していた。もう10人近くの先生が入れ替わり娘さんを診ていたが一向に良くなる気配は見せなかった。
そこに上州館林に本家がある出入りの留めさんがやって来た。本家の主人が首が回らなくなって足が曲がった折に、医者じゃないのだが、山伏のような祈祷師のような「お助けさん」とか「田舎仏」とか言われている男が治した。薬でもなく、さするでもなく、何回か来ている内に治ってしまった。村の人達も治してもらっている。「アジャラカ木蓮通産省、ポンポン」(落語「死神」のパロディー)何てこともしません。「綺麗で、優しいお嬢さんなんだから、診てもらいましょうよ」と言われ心が動いた。
「治ったらこの人にいくらくれますか?」、「そりゃ~、百両で千両でも出すよ」、「ホントですか。でも、皆んな治ると横を向いてしまうのです。百両千両とは言いません。10両でいいんです。そして私に2両くれますか。口利きに2割です」、「分かった。それでイイよ」。
5日もすると連れてきた。親も驚くような風体としゃべり言葉(私も原稿に落とすのに弱っています)。「ハイハイハイ、治りますよ。私一人が部屋に入りますから、他の人は入ってはいけません。『親の前でも手に手を取って、色目使うは医者ばかり』なんて言いますが、大丈夫ですよ~。見ちゃダメですよ~」。と言われても心配ですから、襖に耳を当てて中の様子をうかがっています。
中では「世の中というものは広大無辺ですぞ。フィフイ」とか、「親の恩を感じたら大切にせにゃならんですぞ。親孝行は大切ですぞ。ホイホイ」とか「美しい心で愛すると言うことを忘れんように。人としての道を全うしなければいかんよ。ホイ」等と、10分ほど話していたが部屋から出てきて、「ハイハイ、治りますねェ。ヒザを叩きますよ。また来ます。ハハハ」と帰って行った。
5日ほど経つとやって来て、同じように話していた。5~6回来るとお嬢さんは布団の上に座って三味線を抱えていて、お助け先生が「蛙ヒョコヒョコ三ヒョコヒョコ、四ヒョコヒョコ五ヒョコ、六七八ヒョコ、ヒョコヒョコヒョコ、・・・ピョコピョコぴょこ」、お嬢さんが三味線で相づちをうっていた。「ヘビがニョロニョロ、二ニョロニョロ、三ニョロ、四ニョロ・・・・ニョロニョロニョロ~~」、お嬢さんも三味線で、ペケペケペケ。
「はい、治りました」。
お嬢さんはご飯もお替わりし、血色も良くなって治ったのでしょう。旦那はまだ信じられない様子だったが、お助け先生と留めさんは10両と2両をもらって帰って行った。
先生には留めさんの家に住むことにし、2割の手数料で留めさんはこれから暮らすのだという。
やはり、旦那は納得できなかった。ペケペケとかホイホイとか言っていただけで治るものかと、疑い始めると疑惑が大きく膨らんでいった。我慢できずに先生の所に出掛けた。手土産と10両を包んで持参した。「近所まで来たものですから」、「お納め下さいと言われても、大金ですから・・・」、「実は娘のことで」、「処方箋が知りたい?治ったんですから良いじゃないですか」、「それでは、私が患ってしまいます」、「何も隠す程の事は無いのですが・・・。ここだけの話・・・、私は生意気な事を言っていましたが、実はお嬢さんの前で片膝立てて話していたんですェ。前がはだけて、褌を緩くしていますから、時々出るんですね『プランプラン』とね。堅い話で見る物は全く逆の物・・・、お嬢さん『クスッ』とわらいます。笑えばしめたものです。心が開いて治るんですね。ハイ、治ったんです」、「アリガトウございました」と帰ってきたが、金玉だけで10両、盗人に追い銭でまた10両も取られたと悔しくてしょうが無かった。
季節が廻って梅雨時、お嬢さんがまた体調が悪くなった。奥様は心配して留めさんの所に行ってこようと思ったが、旦那は「大丈夫。先生だなんてペケペケ、わし一人で治すから、部屋には入らないようにフィフイ」。
中に入ったら、お嬢さんの「キャー」という悲鳴とともに目を回した。
先生の所に駆け込んで「早く来て下さい」、「そんなに急ぐ事は世の中には無いんです。お嬢さんですか。大丈夫、誰だって食欲も無くなる事はあるもんです。心配要りません」、「あの、私が治療したんです。例の『プランプラン』と言うやつです」、「良いですよ、自分で出来れば。えぇ?『キャー』と言って目を回した?どうやったんですか。え?いっぺんに全部見せた。それはいかんです。薬が効きすぎたんです」。