落語「粗忽の釘」の舞台を行く 十代目柳家小三治の噺、「粗忽の釘」(そこつのくぎ)
この噺は上方では「宿替え」の題で演じられています。特に桂枝雀の噺は絶品で、彼を聞いてしまったら、他の噺家では何と静かな噺だろうと思ってしまいます。東京では五代目柳家小さんが上手いと論評が出ていますが、その弟子で小三治が抜群です。小さんのクスグリを受け入れ、自分なりの解釈を取り入れ噺の中にちりばめています。今回はその小三治の音源から書き下ろしています。
■長屋(ながや);江戸時代において、商家などは表通りに独立した店を構えていたが、それ以外の町人、職人などはほとんどがその奥の長屋に借家住まいであった。また、大名屋敷の敷地内にも長屋が造られ、家臣らを住まわせた。特に江戸時代、表通りの表店に囲まれた中にあった裏店(うらだな=裏長屋)に見られる長屋は落語や川柳の格好の題材になった。
「大工さんが住む長屋の一部屋」江戸東京博物館・長屋の一部。 畳の部分と壁際の板の間合わせて6畳相当の空間と、左側に台所と出入り口があります。正面の壁にドンブリ(ドラえもんポケットが付いた前掛け作業着)と股引(ももひき=ズボン状の作業着)が吊り下がっています。その壁に、瓦っ釘を打ち込んでしまったのです。柱より薄い壁ですから、隣に出た釘先はどうなるのでしょう。
壁が薄かったので、隣の隣人を呼ぶのにわざわざ隣まで出掛ける事は無く、仕切り壁をトントンと叩けば「何の用?」と直ぐに返事が返ってくる。
■転宅(てんたく);引っ越し。落語「転宅」にもその話が出てきますが、それが主題では無いので、その場面はありません。結婚の話に夏冬の物を持参したという話しが有りますが、それは”うちわと火鉢”であったと言う噺ぐらいです。「小言幸兵衛」や「お化け長屋」は引っ越しの状況は語られていません。「引っ越しの夢」はその状況が似ているだけという噺です。この噺が一番引っ越しのドタバタを描いています。
江戸時代の借家は、家具一式はもちろん、畳や建具を付けずに貸すのが一般的だった。畳、家具、障子・襖などの建具は自分で揃えなければならなかった。それでも引越しが大変になることはなかった。道具屋や損料屋があって、引越す前に近所の道具屋に道具を売り、引越した先の道具屋から必要な道具を買えば、荷物は少なくて済む。また、損料屋に必要なものを必要な期間だけ借りるというスタイルが定着していたので、自分の持ち物は少なく、収納場所もあまり必要ではなかった。自分の物でも、季節によって使わない物は質屋に預ければ収納スペースも最低限で済みます。
■自転車(じてんしゃ);日本に西洋式自転車が初めて持ち込まれたのは慶応年間で、ほとんど記録がなく詳細は不明である。この形式は1980年代頃までは1870年(明治3年)に持ち込まれたとの説が定説とされてきた。初期の日本国産自転車の製造には、車大工や鉄砲鍛冶の技術が活かされた。
1870年、東京・南八丁堀5丁目の竹内寅次郎という彫刻職人が「自転車」と名付けた三輪の車について、4月29日付の願書で東京府に製造・販売の許可を求めた。東京府の担当官による実地運転を経て、5月に許可が下り、7月には日本初の自転車取締規則が制定された。
自転車を使う職業の代表は郵便配達だが、英国では1880年に自転車による郵便配達が始められ、現在でも約3万7000人の配達員が自転車を利用している。自転車便など、都市部における輸送手段として利用されることもある。新聞配達や出前などといった職業上の利用もある。
この様に日本の自転車の歴史は明治初めから輸入が始まったが、新聞配達や出前に実用上使われるようになるのは、明治から大正にかけてであった。この落語の時代背景はこの時代であったが、昭和に入ってからかも知れません。
■タマゴ屋;鶏卵(けいらん)は、ニワトリの卵である。生で、または加熱した料理とされる。単に「卵」と呼ぶことが多い。殻を割った中身は黄身と白身に分かれている。本来は、生物学的な意味で「卵」、食材として「玉子」というように区別されるが、2014年現在では、生のものを「卵」、調理されたものを「玉子」という使い分けがされるようになってきているという。
■瓦っ釘(かわらっくぎ);瓦を止めるのに使った八寸の瓦っ釘は、長さ8寸で約24cm。大人の掌を広げると約20cmですから、それに4cm足した長い釘です。主人公の「俺はプロだ」という割りに、奥様が用意した釘を使わず、こんな長い釘を持ち出すなんて。
■阿弥陀さん(あみださん);阿弥陀仏。大乗仏教の如来の一つで、略して「弥陀仏」ともいう。
梵名の「アミターバ」は「無限の光をもつもの」、「アミターユス」は「無限の寿命をもつもの」の意味で、これを漢訳して・無量光仏、無量寿仏ともいう。無明の現世をあまねく照らす光の仏にして、空間と時間の制約を受けない仏であることをしめす。西方にある極楽浄土という仏国土(浄土)を持つ(東方は薬師如来)。
造形化された時は、装身具を着けない質素な服装の如来形で、阿弥陀三尊として祀られるときは、脇侍に観音菩薩・勢至菩薩を配する。宗旨で言うと、密教式の阿弥陀如来のうち、紅玻璃色阿弥陀如来と呼ばれるものは髷を高く結い上げて宝冠を戴き体色が赤いのが特徴で、主に真言宗で伝承される。 また宝冠阿弥陀如来というものもあり、こちらは天台宗の常行三昧の本尊として祀られる。
阿弥陀如来に関連した単語や言い回しが登場し、今に残る言葉があります。
2015年10月記 前の落語の舞台へ 落語のホームページへ戻る 次の落語の舞台へ |