■泥棒(どろぼう);江戸落語評論家の榎本滋民氏は次のように言っています。
「泥棒(泥坊)」は江戸中心の呼称で、上方では主に「盗人(ぬすっと)」という。この噺の『もぐら泥』は『おごろもち盗人』、おごろもちは上方でもぐらのこと。『釜泥』は『釜盗人』、『碁泥』は『碁打ち盗人』です。上方でいう「どろぼう」は怠け者・放蕩者・道楽者を指すことが多い。泥棒も盗人も優劣は無いのであろうが、犯行をとがめるときに叫ぶのは、「ぬすっと」より「どろぼう」の方が声の通りがイイ。窃盗のシノビコミに対して強盗をオドリコミという。隙を狙って奪うのがカッパライ・ヒッタクリ、通行人を襲撃するのはトンビと呼ばれる。店内の商品を盗むのはマンビキでオタナシともいう。待合室で置かれたカバンなどを盗むのをオキビキで、ベンチに置かれた物は隣に座り、自分の物のような顔をして持ち去る事も有る。底を抜いたカバンを獲物上にかぶし、持ち去る手口もある。」
「落語ことば辞典」岩波書店 より。
■もぐら泥;この噺では未遂であったが、どの様な罪状になるのでしょうか。
江戸時代だったら、未遂であっても深夜に店先を掘って、刃物を持って侵入したのですから、出来心では無く、故意の犯罪ですから打ち首になるところです。しかし、警察と言っていますので、明治以降の噺ですから、旧刑法が適用されます。被害者(?)にそれなりの保証をして、減刑の嘆願書が出て、本人が反省の情を示したら、判決の内容が変わってきます。貴方が裁判官だったら・・・。
ご来場のお客さんから質問がありました。
Q.戸の下に穴を掘って内側に手をつっこんで、具体的に何をどうやって戸を明けるんでしょうか。
A.「雨戸」はご存じですか。
マンションには無くなった戸ですが、一戸建てには今も残っています。ガラス戸の屋外部分に、雨・風、台風、また、泥棒を避けるための戸です。夜寝るときは、閉めるものですが、雨戸の下に、最後に閉めた戸の下にカギが付いています。カギと言っても南京錠ではありません。凹んだレールの部分に穴が空いていて、雨戸の下部に付いている落とし錠、棒のようなものをレールの穴に落とし込んで左右に動かないようにしたカギです。
簡単な構造ですが、安価で確実な方法です。
これと同じような物が、店の大戸の下に付いていました。これでは、緊急時や若旦那が夜遅く、帰って来たときには潜り戸と言って、小さな引き戸が付いていました。外からは開けることができませんので、内側からその下に付いているカギを上に押し上げて、潜り戸を開けるのです。
前日に泥棒は下見をして、その鍵穴の位置を確かめておくのです。
この泥棒さん、ここまでは良かったのですが、穴を掘って、カギに手が届く・・・、と思ったら、
穴を掘る位置がずれていて、カギに手が届きません。カギを探している内に、旦那に見付かって、細引きで腕を捕らえられてしまった。ま、ドジな泥棒君ですが、その後日談もあってマヌケの上塗りです。
その絵を添付しますから、ご覧下さい。右上図:「古典落語事典」永田義直編著 緑樹出版からの挿絵。
大戸については、落語「六尺棒」を参照してください。
■2寸(2すん);長さの単位で、1寸=3cm 2寸は6cmです。ほんの少しです。
■細引き(ほそびき);麻などを縒(よ)って作った細い縄。細引き縄。「荷物に細引きをかける」等と使う。梱包用には平テープの梱包用帯や、ビニール紐などが使われています。細い物は手首に食い込んで、イタイ、イタイ。
■敷居(しきい);部屋の境の戸・障子・襖の下にあって、それをあけたてするための溝のついた横木。明治・大正の頃は地面に直接敷居を置いていた。その為、道路側の地面を掘って穴を開け、そこからカギの掛かった戸のカギを外して開けようとした。店と外界の仕切にもなった。
■土間(どま);家の中で、床を張らず地面のまま、または、たたきになった所。長屋でも、入口は土間になっていて、そこで履き物を脱いで上にあがった。商店でも敷居の中はならした土の床、たたきになっていた。
たたき;上図(江戸東京たてもの園)三和土と書いて「たたき」と読ませる。赤土・砂利などに消石灰とにがりを混ぜて練り、塗って敲き固めた素材。3種類の材料を混ぜ合わせることから「三和土」と書く。土間の床に使われる。長崎の天川土、愛知県三河の三州土、京都深草の深草土などの叩き土に石灰や水を加えて練ったものを塗り叩き固め、一日二日おいた後に表面を水で洗い出して仕上げとする。
もともとはセメントがなかった時代に、地面を固めるために使われたとされる。日本では明治期において、既存の三和土を改良した人造石工法(考案者の名を取り「長七たたき」とも呼ばれる)が、湾港建築や用水路開削などの大規模工事にも用いられた。
現在では、コンクリート製やタイルを貼った土間なども三和土と呼ばれることがある。
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