落語「弥次郎」の舞台を行く
   

 

 古今亭志ん生の噺、「弥次郎」(やじろう)


 

 嘘つきの弥次郎が旦那の所に遊びに来た。その旅の様子を聞くと、
 北海道の端まで行ったが、寒すぎて大変だった。小便なんか出たそばから凍って棒になってしまう。折らないと詰まってしまうから、便所にはカナズチが置いてあって、それで折りながら用を足す。私も使ったが、打ち所が悪くて目を回した。
 カモなんかも手づかみで捕れる。カモが水面に降りると、パーッと水面が凍って飛べなくなったところを、カマを持って行って足を刈って捕まえる。翌年そこから芽が出てカモメになる。
 火事が出ると水を掛けない。水を掛けると火事が氷の中に閉じ込められて消えない。春になって氷が溶けてから火を消す。その火事をもらって来て、牛の背中に結わえてきたが、暖かくなったので溶け出して、牛の背中を焼いてしまった。牛が「モーやだ」。牛方に追っかけられて山の中にドンドンと逃げた。
 山を越えると2~30人の男達が裸でたき火にあたっていた。ろくな奴では無いだろう。隅をソーッと通ったが、捕まって身包み剥がされそうになって、手を出してきた。私は柔道二十三段だから、胸ぐらつかんで、「裸だから胸ぐらつかめないだろう」。胸ぐらを押して、来る奴、来る奴投げ飛ばして逃げてきた。

 ホッとする間もなく、背中が3間ほども有る角が生えたイノシシが飛んできた。「イノシシに牙はあるが角は無いだろう」、牙が延びて角のようになっていた。避けようと手近な松の木に登って、マツ安心。イノシシが戻ってきて松の根方を掘って倒し、食おうとしてるんです。飛び降りて、シシの背中に飛び乗ったが、首が無い、よく見たら後ろにあった。あべこべに乗ってしまった。尻尾に捕まったが、振り落とそうと尻を振るので、持っていた短刀で尻尾を切って、それで、タスキにして余ったので鉢巻きにした。「シシの尻尾は短いよ」、つかまっている間に伸びた。シシがつまずくと、股ぐらに手が入って金をつかんだ。その金をグッと握ると、急所だからシシがブルブルと震えて悶絶した。頭の上に持ち上げ、「3間もあるシシが持ち上がるかい」、倒れると縮んだ。脇の岩に叩き付けると、背骨が折れ、腹の皮が裂けて、シシの子が16匹出てきた。「よく数が分かったね」、シシの16ですから。子供が、親の敵と飛びついてきた。それを踏みつぶした。「金をつかんだんだから、オスだろう。何で子供が生まれるんだ」、そこは畜生の浅ましさ。シシを仕留めて一安心と思っていた。

 そこに大きな熊が出てきた。お前は何処から出てきた、と言うと、早稲田だという。大隈からだと。
熊の後には、大きなウワバミが大きな口を開けて、待っていた。口に飛び込みウワバミの腹の中をどんどん歩いていたら、先の方に明かりが見えた。尻の穴で、そこから外に飛び出した。ウワバミは悔しそうな顔をして「猿股をはいていれば良かった」。

 


 志ん生のこの噺は全編ギャグでちりばめられているので、要約が出来ず、大部分を取り上げてしまいました。正味は短い噺なんですが。
 全てあり得ない噺なので、時々旦那が話しに突っ込むのですが、意に介さず、話し続けます。


ことば


解説を入れると面白くなくなるのですが、あえて、

カモなんかも手づかみで捕れる;カモが水面の氷に閉じ込まれるのは知りませんが、北から渡ってきた白鳥は、水面で一夜を過ごすのですが、一気に氷が張って動けなくなり事実死ぬ鳥も居ます。急激な寒さのため、この様なことも起こるのです。

火事が氷詰めになる;他人の不幸を笑ってはイケマセンが、氷詰めの火事は綺麗でしょうね。昭和の時代、雪に閉ざされた街に馬車が走っていた頃の話。春になると、馬糞の匂気が立ち込めて街中息苦しくなったという。冷凍保存されていたのが寒気も取れると、累積された大量の馬糞が一斉に顔を出すからだと言います。

柔道二十三段;柔道の最高段位は十段よりも上へ昇段した前例はなく、今日では十段が事実上の最高段位になっている。そもそも段位は柔道の「強さ」のみで決まるものではないため、高段者になればなるほど、名誉段位という意味合いが強くなっている。

胸ぐら;着物の左右の襟の重なり合う辺りの部分。
 胸座(むなぐら)を取る、 (怒り、あるいは責めるなどして)相手の着衣の胸倉を握ること。右図;合気道の模範演技

3間(3げん);長さの単位。1間は1.82m。3間は5.46m。大きすぎるイノシシです。

 上記写真:イノシシの剥製 上野・国立科学博物館蔵 3間も有るような大イノシシではありませんが、標準サイズです。あ!・・・雌か雄か確認するのを忘れていました。

(いのしし);ウシ目(偶蹄類)イノシシ科の哺乳類の総称。また、その一種。体は太く、頸は短く、口さきが突出している。国内のものは頭胴長約1.2m、尾長20cm。ヨーロッパ中南部からアジア東部の山野に生息する。背面に黒褐色の剛毛があり、背筋の毛は長い。犬歯は口外に突出。山中に生息、夜間、田野に出て食を求め、冬はかやを集めて眠る。仔は背面に淡色の縦線があるので瓜坊(ウリボウ)・瓜子ともいう。豚の原種。
下左図;猪と瓜坊。広辞苑  下右図;訓蒙図彙(きんもうずい)より野猪。

早稲田の大隈(わせだのおおくま);早稲田大学の創設者・大隈重信は、天保9年2月16日(1838年3月11日) - 大正11年(1922年)1月10日)は、日本の武士(佐賀藩士)、政治家、教育者。位階勲等爵位は従一位大勲位侯爵。 政治家としては参議兼大蔵卿、外務大臣(第3・4・11・14・29代)、農商務大臣(第13代)、内閣総理大臣(第8・17代)、内務大臣(第30・32代)、貴族院議員などを歴任した。早稲田大学の創設者であり、初代総長。
志ん生はおおくまを、大隈と大熊とを掛けた洒落。

ウワバミ(蟒蛇);(ハミはヘミ・ヘビと同源)  大蛇。特に熱帯産のニシキヘビ・王蛇などを指す。よく落語では大きなヘビをウワバミと表現し、胴中は人が通れるほど大きなトンネルぐらいある。
 右図;訓蒙図彙(きんもうずい)よりウワバミ。巨大なヘビ。



                                                           2014年12月記

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