落語「つる」の舞台を行く
   

 

 春風亭小朝の噺、「つる」(つる)


 

 八っつあんが隠居のところに遊びに来た。隠居は「八っつあんの顔を見ないと心持ちが悪い」、「あっしもそうなんです。顔を見ないと通じがつかない」。上等な粗茶と粗羊羹を出してもらって、話が弾んだ。床屋の海老床で休む座敷に、鶴の掛け軸が下がっていた。仲間が言うところによると「鶴は身持ちが堅く、雄は生涯雌を大事にする。雌も生涯その雄と添い遂げる。だから鶴の売春婦はいない」。
 「皆でそんな話をするのかい。だったら、鶴の面白い話をしてあげよう。鶴は昔『首長鳥』と言ったんだ。それが鶴となったんだよ。大昔のこと、白髪の老人が遙か沖の方を眺めていると、唐土の方から雄の首長鳥が1羽『つ~』っと飛んできて、巌頭の松に『ポイ』と留まった。その後から雌の首長鳥が『る~』っと飛んできて、『つる』になったんだよ」、「えぇ?ツーと来てルーと来たから鶴になったんですか。『ヘー』と来て『ビー』と来たら今頃ヘビになっていたな」。もう一度その話を聞いて、飛び出した。

 何処かでこの話をしたいな。で、源ちゃんの所にやって来た。「鶴を知っているか」、「知っているけど、呼び捨てにしてはいけない。角のたばこ屋のお鶴ちゃんだろう」、「鳥の鶴だ」、「子供でも知っているよ」、「昔は首長鳥と言ったんだが、どうして鶴というようになったか、知りたいだろう」、「知りたくない」。聞けとうるさく迫った、「俺は忙しいんだ。早くしろよ」。

 「大昔のこと、白髪の老人が遙か沖の方を眺めていると、唐土の方から雄の首長鳥が1羽『つ~る~』っと飛んできて、巌頭の松に『ポイ』と留まった。その後から雌の首長鳥が・・・。(沈黙、首をかしげて)昔のこと、白髪の老人が遙か沖の方を眺めていると、唐土の方から雄の首長鳥が1羽『つ~る~』っと飛んできて、巌頭の松に『ポイ』と留まった。その後から雌の・・・。さようなら」。
 何処でどう違ったか、隠居のところに聞きに来た。「お前さん、それ何処かでしゃべったのかい。あれは冗・・・なんだから。もう一度だけ教えるよ」。一通り教えてもらうと「つーとるーを離すんですね」。

 「源ちゃん、さっきの話ねぇ~~」、「まだその話しているのか。仕事をしろよ」、「大昔のこと、白髪の老人が遙か沖の方を眺めていると、唐土の方から雄の首長鳥が1羽『つ~』っと飛んできて、巌頭の松に『る』と留まったんだよ。その後から雌の首長鳥が、ん?・・・。大昔のこと、白髪の老人が遙か沖の方を眺めていると、唐土の方から雄の首長鳥が1羽『つ~』っと飛んできて、巌頭の松に『る』と留まったんだよ。その後から雌の・・・。(泣き声になって、もう一度言ったが、雌が)・・・」、「こいつ泣き出したよ。それで雌はなんて飛んできたんだよ」、「黙って飛んできた」。

 



ことば

日本のツル日本では北海道の釧路湿原とその周辺に留鳥として生息するタンチョウのほか、山口県周南市や鹿児島県出水市などに冬鳥として渡来するナベヅル、マナヅルがよく知られ、いずれも天然記念物に指定されている。この他、クロヅル、アネハヅル、ソデグロヅル、カナダヅルなどがごく稀に飛来する。

 日本では昔話にもよく登場し、「鶴は千年、亀は万年」などカメと共に長寿の象徴とされている。他の動物より寿命が長いのは確かだが、実際の寿命は動物園での飼育の場合であっても50年-80年程度で、野生では30年位と推定されている。「鶴姫」など名前としても使われる。 折鶴、千羽鶴なども、日本の象徴となっている。 ツルは地上性、特に湿地での活動に高度に順応した鳥であって、一部の種類を除き木に止まることはできない。 よく水墨画でツルがマツ等の樹に止まる構図がある(いわゆる「松上の鶴」。伊藤若冲の『旭日松鶴図』や広渡湖秀の『桃鹿・巌波双鶴図』を始め数作が知られる)が、これは一般にコウノトリとツルとを混同してのことだとされている。(右図:掛け軸の鶴が松の木に留まっています)
 江戸時代には鶴の肉は白鳥とともに高級食材として珍重されていた。武家の本膳料理や朝鮮通信使の饗応のために鶴の料理が振る舞われたことが献立資料などの記録に残されている。鶴の肉は、江戸時代の頃の「三鳥二魚」と呼ばれる五大珍味の1つであり、歴史的にも名高い高級食材。三鳥二魚とは、鳥=鶴(ツル)、雲雀(ヒバリ)、鷭(バン)、魚=鯛(タイ)、鮟鱇(アンコウ)のことである。日本航空(鶴丸)やルフトハンザドイツ航空などの航空会社のシンボルにも使用されている。
ウイキペディアより

 「松図屏風」 土佐光信と落款は入っているが、彼にしては作品が落ちるので別作家だろう。東京国立博物館
落語「雁風呂」に将監(しょうげん)と呼ばれた光信の絵があります。

 「四季花鳥図屏風」 伝雪舟等楊 重要文化財 東京国立博物館蔵

 石田幽汀 《群鶴図屏風》1757-77(宝暦7-安永6) 紙本金地着色 六曲一双屏風 各156.0×362.6cm
静岡県立美術館蔵

 飛行してきた雄雌の鶴。着地するときは何というのでしょう。

 ペアーの鶴。

 手入れされた庭園の松。巌頭の松。

隠居(いんきょ);世事を捨てて閑居すること。家長が職を辞しまたは家督を譲って隠退すること。また、その人、その住居。戸主が自己の自由意志によってその家督相続人に家督を承継させて戸主権を放棄することである。当主の現存の親の称。また、老人の称。
 落語国では商家の旦那が、息子に代を譲って離れた所に住んだ。物知りでヒマだから長屋の連中が遊びに来て世間話などしていた。落語「やかん」や「茶の湯」等でお馴染み。

粗茶と粗羊羹(そちゃとそようかん);粗とは粗末なものと謙遜して言う言葉だが、八っつあんはその様なお茶があると思っていて、「隠居のところの粗茶は美味い」。

唐土(もろこし);「諸越(中国の越の国)」の訓読から、昔、日本で中国を呼んだ称。

■古今東西人まねで上手く行った試しは無い。自分の物になっていない話をいくら力んでやってもダメです。
 昔、まだ二つ目さんがこの話を高座に掛けて、八っつあんと同じように高座で立ち往生したのを見たことがあります。短い話だとバカにして掛かると、とんでもないことになりますが、失敗して高座を降りる噺家さんに大笑いの歓声と拍手が起こりました。今度は上手くて拍手をもらいましょう。

イソップ物語よりツルの話。
農夫とツルたち
 ツルたちは、種蒔きの終えたばかりの小麦畑を餌場にしていた。農夫はいつも、投石機を空撃ちして、ツルたちを追い払っていた。と、いうのも、ツルたちは空撃ちしただけで、怖がって逃げたからだ。
 しかしツルたちは、それが空を切っているだけだということに気付くと、投石機を見てもお構いなしにそこに居座った。そこで農夫は、今度は投石機に本当に石を装填し、そして、たくさんのツルたちを撃ち殺した。
 ツルたちは皆、一様にこんなことを言って嘆いた。
「リリパットの国に逃げる時が来たようだ、彼は、我々が怯えるだけでは満足せずに、本気で撃ってくるのだからな」  
 優しく言われているうちに言う事を聞け!さもないとげんこつが飛んでくるぞ!

ガチョウとツル
 ガチョウとツルたちが同じ草原で餌をついばんでいた。すると、人間が、鳥たちを網で捕まえ
ようとやってきた。ツルたちは人間が近づいてくると、素早く飛んで逃げたが、ガチョウは飛ぶ
のがのろく、体も重かったので捕らえられてしまった。
危険が迫った時、貧乏人は身軽に逃げられるが、金持ちは逃げ遅れて身を滅ぼす。
(西洋では、ツルって低く見られていたんですね)



                                                            2015年4月記

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