落語「転失気」の舞台を行く 三代目三遊亭金馬の噺、「転失気」(てんしき)
■転失気(てんしき);中国の古典医学書「傷寒論」(しょうかんろん)の中に出てくる医学用語なのです。傷寒論は中国・後漢の名医・張仲景が著した古医書です。その中に放屁のことだと書かれている。
てんしきには書き方に三種類あって、『転失気』、『転矢気』、『転屎気』。
噺では『気を転(まろび)失う』という読み方で説明していますが、失も矢も、似た漢字。これは、元の中国で書き間違ったか、あるいは日本での写本の段階で間違ったのか、分かっていない。
でも、矢が糞という意味があるので、微妙になってきます。
■傷寒論(しょうかんろん);後漢末期から三国時代に張仲景が編纂した伝統中国医学の古典。内容は伝染性の病気に対する治療法が中心となっている。原典が焼失し、その後何回か復刻されましたが、その都度焼失。最後の復刻本が日本に渡ってきて、 江戸時代では漢方医学のもっともポピュラーなテキストになった。
傷寒論の陽明病の脈証と治療法を述べた箇所に、次のようにあります。
■オチの「プープー」;今ではわかりづらくなっていますが、金馬もマクラで説明しています。
古い江戸ことばで、酔っ払いの苦情、小言を意味します。それを、放屁の音と引っ掛けただけの単純なものです。
■寺言葉(てらことば);寺で使われる隠語。お酒のことは般若湯、蛸(タコ)を天蓋、あわびを捨て鐘、マグロは赤豆腐、卵のことを御所車、中にキミがござるからだという。ドジョウが踊っ子、みんな隠語で『てんしき』はもっと分からない。
■2合を1合に煎じて;二合の湯に煎じ薬を入れて、1合になるまで煮詰め、それを服用する。
■親父橋(親仁橋。おやじばし);日本橋の東堀留川に架かっていた橋。元吉原の創設者庄司甚右衛門に因んで付けられたと言います。別説には日本橋を渡って東に曲がり魚河岸を抜けて、元吉原に向かう途中に有りますが、遊びに出る息子は、ここでフト親父のことが思い起こされるという。今は東堀留川は埋め立てられてありませんし、親父橋もありません。
明治の「親父橋」 山本松谷画 明治東京名所図会より
■江戸の屁;落語「四宿の屁」をご覧下さい。
■酒器(しゅき);酒を飲むための器。ここでは三つ重ねと言っていますので、大中小の盃を三段に重ねたもの。出陣・帰陣・祝言などの際の献杯の礼などで三三九度の盃を酌み交わす。
前の落語の舞台へ 落語のホームページへ戻る 次の落語の舞台へ |