落語「税関風景」の舞台を行く
   

 

 五代目春風亭柳昇の自作噺、「税関風景」(ぜいかんふうけい)より


 

 私は春風亭柳昇と言いまして、大きな事を言うようですが、今や春風亭柳昇と言えば我が国では・・・、私一人で御座いまして・・・。(柳昇の決まり文句)

 海外旅行ブームですが、税関の係員はプロですからお客さんを見分けます。お土産でも税金を払えば良いのですが、課税されないようにすり抜ける人が居ます。ウイスキーは3本まで、煙草は200本までは非課税だというのですが、いけない物を持っている人は隅のゲートに行ったり、空いている所からわざわざ混んだゲートに移動したりします。

 「ヨーロッパ帰りですが、買った物があるんです」、「見せてください」、「見せますか?夜の女です」、「何ですか?」、「フランスで1回、イタリアで2回、見せますか」、「そんな物は良いんです。品物は?」、「ウイスキーが10本、ブランデーが10本です」、「見せてください」、「飲んじゃいました」、「飲み過ぎですね」、「3年居たんです」、「それは良いですけれど、トランクの中にダイヤモンドの領収書がありますよ」、「フランスではコーヒーを飲むとダイヤモンドの領収書をくれるんです。探しても無駄ですよ」、「確かに有りません」、「えぇ!無い!大変だ。人から頼まれたんだ。税関で取り上げたという証明書を出してくれませんか」、「それは出来ません」。

 「次の方どうぞ」、「欧米を回ってきました。良かったですよ。貴方は行ったことありますか?」、「有りません」、「それはいけません。お金が無いなら強制的に貯めなくてはいけません。我が四菱銀行では海外旅行預金制度がありまして、パンフレットはここに有ります。忙しければ、自宅に伺いますから、名刺下さい」。
 「次の貴方は何か買いましたか」、「日本製品の方が良い物ばかりです。民芸品でも日本製品が良い」、「何も買わなかったんですね?」、「お金が無くなって買えなかった。お金貸して下さい」。

 「次の方どうぞ。その四角い箱は何ですか?」、「これはお爺さんのお骨です」、「お爺さんは?」、「少年の頃ブラジルに渡って、西洋料理をマスターしてふぐ料理屋を開店し、当たりに当たり(どっちに)ましたが、高齢のため亡くなり日本に戻ってきました」、「ご苦労様でした。ご冥福をお祈りします」、「行って良いんですね。ドッコイショ」、「チョット待って下さい。軽い物を・・・、その上よろけたね」、「なにせ、お爺さんは八十七歳で足腰弱っていましたから」、「中に入っていたのはポルノじゃないですか」、「裸一貫でしたから・・・。良く分かりましたね」、「コツ(骨)が有るんです」。
 「奥さんですね」、「ニューヨークで買ったスカーフ良いでしょ。100ドルだというの。『初代大統領はワシントン』だというので、私も知っています、銀座に1軒と新宿にありますと言ったら負けてくれました。このブラウス200ドルだというので高いといったら『カルダンのだから負けられない』と言うので、30何年前日本は戦争して負けてあげたではありませんか。今度は貴方が負ける番でしょ」、「奥さん、なかなか上手いこと言いますね」、「で、半値にしてくれたんです。『あの戦争の時、奥様が日本軍に居たらアメリカが負けたでしょ』ですって」、「楽しい旅行でしたね」。

 「次の方どうぞ」、「買って来ましたよ。ロンドンで買った醤油、フランスで買った、このサッポロビール(サッポロビアホールで録音、サッポロビール提供。スポンサーにヨイショ)、クサヤの干物、なんて言っても嬉しかったのが静岡のわさび漬け」、「貴方はどこに、旅行に行きましたか?」、「ヨーロッパ。女房が見たら喜びますよ」。

 「団体の方どうぞ」、「団長、何も買って来なかったのでは疑られませんか?」、「大丈夫だよ」、「でも、何か出たら・・・。手品で何も無いのにハトが出て来ますよ」。

 「団長、あすこにいる家内にダイヤモンド買ったんです」、「50万円したんだってね」、「いえ、5万円だったんです」、「税関の人は目が肥えているんで5万円か50万円か直ぐ分かるよ」、「困ったな~」、「しょうが無い。私が50万円で買ったダイヤモンドがあるから交換しよう。通関したら直ぐ返して下さいよ」、「税関さん、女房の誕生日祝に指輪買ったんです」、「良いケースに入って、50万円ですか。せいぜい5万円ですよ」、「斎藤さん、これ5万円だそうです。そんな事無いよ。税関さん血統証が付いているんです」、「まるでシェパートだね。悪い業者に騙されましたね」、「本当はこっちなんです」、「これが5万円?5万円では買えませんよ。50万円はしますよ」、「なんで、5万円のが50万円で、50万円のが5万円なんですか?」、「ダイヤはちょくちょく狂いますから」。

 



ことば

税関(ぜいかん);国際的な物流の管理に関与する必須的な機関であり、世界の多くの国々に同様の機関が設けられ、その名称としても「税関 (Customs)」ということばが使用される。また税関関連の国際機関としては、世界179か国・地域からなる世界税関機構がある。 アメリカ合衆国税関・国境警備局やフランス税関・間接税総局のように出入国管理や国境の警備も兼ねる機関もあるが、日本では出入国管理などは法務省入国管理局が行うなど、国によりその業務範囲は異なる。
 検査・取締り機材など、移出入物品の検査を効率的かつ正確に実施するため、様々な特殊機材などが使用されている。 X線検査装置 荷物・貨物を開被せずに内容物の検査が可能であることから、税関の検査業務において広範囲に活用されている。国際空港や国際郵便交換局内の税関出張所に設置して使用されるほか、特殊なものとして港湾のコンテナヤード出入口に設置し、大型トレーラーをそのまま収容して検査する大型X線検査装置や、2トントラックシャーシに架装し、必要な場所に移動して検査を実施できる車載型X線検査装置もある。
 麻薬探知犬 嗅覚により、荷物の中に隠された麻薬などの不正薬物を探知するよう専門の訓練を施された犬。全国の税関に配置されている。近年は薬物のほか、爆発物や銃器をも探知できる新たな訓練を施された探知犬も配置されている。

柳昇は、落語創作当時、海外に出たことが無いので、この噺の創作のために、経験者に聞いたり、税関に出向き、関係者から話を聞いた。

 この噺では、通関の時、税金の掛かるのを恐れ、観光旅行の帰りにいろいろと、無い知恵を働かせた噺です。
噺の中にひとつだけ本当のことが有って、骨壺の申請でOKを出しところ雰囲気がおかしかったので調べたら、中から拳銃が出て来た。おかしな雰囲気とは、足で骨壺を移動させたために不信感をあおった。まるで、落語「禁酒番屋」の中の、カステラを持ち上げるのに「ドッコイショ」と持ち上げたために、重さの違いを見つけられて、中身は、『水カステラ』と言い逃れをした噺に、良く似ています。

入国審査;入国(入境)する前に審査を行い、許可を認められた者が入国できる。国籍を有する者が外国から帰国する際にも入国審査を通過する必要がある。入国審査では入国目的や滞在期間などの試問が行われる(ここで目的や滞在先が曖昧であるなどによって不法入国しようとしていると発覚することもある)。また、税関審査や検疫を受ける。 島国である日本に、外国人が入国する場合は入国審査官によって上陸審査を受け、上陸拒否事由に当たらないことを確認した上で上陸許可を得なければならない(通常は旅券に上陸許可シールが貼付される)。2007年(平成19年)11月20日より、J-BISが導入された。
 J-BIS(Japan Biometrics Identification System)とは、外国人の出入国管理を目的として日本の空港や港に導入されている生体認証を用いた人物同定システム。入国審査を行うブースに置かれた機器で、入国を希望し上陸の申請を行う人物の、両手の人さし指の指紋採取と顔写真の撮影を行うと同時に、入国管理局作成のリストと照合を行い、犯罪者や過去に退去強制(強制送還)等の処分を受けた外国人の再入国を防ぐ効果を期待され導入された。成田国際空港、羽田空港国際線ターミナル、関西国際空港、中部国際空港を含む、全国の27空港と126港で運用が開始された。

 密輸を行う目的としては、
・ 法令(関税法、輸出貿易管理令等)や条約により輸出入が禁じられている物品を密かに輸出入するため。
・ 課税される関税から逃れるため。
・ 手続きを怠るため。
 多くの場合、暴力団やマフィアなどの犯罪組織が関わっており、それらの組織の資金源となっている。

 非課税品:外国旅客の携帯品(酒類3本まで、煙草は200本までなど)、身体障害者用の物品、1万円以下の少額物品などを免税する制度です。(関税の減免戻税)

 輸入禁制品・規制品とは、
・ 麻薬、大麻、阿片、覚せい剤等。
・ 拳銃などの武器・兵器。
・ 偽札、偽造クレジットカード等。
・ ポルノ雑誌、ビデオ、児童ポルノ等。
・ ニセブランド商品等知的財産権を侵害する商品。
・ マジコン(テレビゲームのゲームソフトをコピー)等不正競争防止法に違反する商品。
・ 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)に定められた動植物。
・ 経済制裁により輸入が禁止されている北朝鮮産の物品。

ワシントン
1.ジョージ・ワシントン(英語: George Washington、グレゴリオ暦:1732年2月22日 - 1799年12月14日(ユリウス暦:1731年2月11日生まれ))は、アメリカ合衆国の軍人、政治家、黒人奴隷農場主であり、同国の初代大統領(右図)。妻であるマーサ・ワシントンは貞淑で公式の儀式をきちんと行って先例を開いたため、初代ファーストレディと見られている。

2.グランドキャバレーワシントン、銀座と新宿にあった。ナイトクラブ「クラウン」や赤坂の「ニューラテンクォータ」等があったが、オイルショックの時に消えて行った。赤坂のTBSの近くには「ミカド」もあって最盛期には500人近くの女性がいた。赤坂ミカドも1988年閉店。ほかにもキャバレーチェーンの、ロンドン、ハワイ、ハリウッド、等があった。

■カルダン;ピエール・カルダン。日本でもピエール・カルダンの日本国内マスターライセンサーとして、ファッション・ライフスタイルアイテムを販売していた。世界中に販売網を持ち、デザイン、カルチャー、ファッション、時計、ジュエリー、雑貨を手掛けています。

くさや;新鮮なムロアジ類(クサヤモロなど)、トビウオ類、シイラなどの魚を使用した干物であり、伊豆諸島での生産が非常に盛んである。 味は塩辛いながらもまろやかさがあり、味わいから感じるほど塩分は高くはない。くさや液の塩分濃度は4%の例もあり、濃くても13%程度である。独特の匂いによって好き嫌いが分かれるが、日本人が好きな発酵した魚の香りやうま味から、ご飯のおかず以外に、「島焼酎」と呼ばれる伊豆諸島産の焼酎や、コシの強い(乳酸の多い)日本酒によく合うとされる。 食べると旨いのですが、トイレ臭が・・・。

血統書(けっとうしょ);飼育動物の血統を証明する書類。彼はダイヤモンドの鑑定書と言いたかったのでしょう。鑑定書=(美術品などが)本物であると鑑定したことを保証する書面。

ダイヤ;宝石のダイヤモンドのことではなく、列車運行表。また、交通機関の運行予定。



                                                            2017年6月記

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