落語「市助酒」の舞台を行く 六代目笑福亭松鶴の噺、「市助酒」(いちすけざけ)より
■原典;寛延4年(1751)、岡白駒(はくく)編『開口新語』が出され、中国笑話や軽口本を簡素な漢文で、100話ほど集めたものであった。これは元になる、『百登(ひゃくなり)瓢箪』(元禄14年・1701)を漢文に略記したものです。この百登瓢箪に肉付けされて『再成餅(ふたたびもち)』(安永2年・1773)になった。その中の『火の用心』がこの話の原典になっています。それを紹介すると、
■番小屋(ばんごや)と自身番(じしんばん);
左図:馬喰町自身番(江戸名所図会)
自身番の多くは屋根に火の見を設けてある。枠火の見で、建て梯子をかけ、半鐘を吊してあった。総高は二丈六尺五寸、枠の高さは三尺五寸、幅三尺五寸四方、一丈五尺の建て梯子(はしご)を枠内に建てたものである。自身番屋内に纒(まとい)・鳶口(とびぐち)・竜吐水(りゅうどすぃ)・玄蕃桶(げんばんおけ) などの火消道具が備えてある。半鐘の合図で火消人足らが町役人とともにまず自身番屋にかけつけ、ここで勢揃いしてから火事場におしだした。
上図:火事のため、自身番に集合した火消し達。中央に竜吐水が描かれている。若き日の広重自筆画。消防博物館蔵。
木戸番=江戸・京都・大坂などの市中で町内警備のため、町境に設けられた木戸の番人。木戸は夜の四ッ時(午後十時)ごろに閉鎖し、それ以後は左右の潜戸から通行させた。医者と産婆には何もいわずに通したという。そのおりには木戸番はかならず拍子木を打って、つぎの木戸に知らせた(送り拍子木という)。夜間は拍子木を打って町内の夜警に回り、捕物があれば木戸を閉ざして犯人の逃亡を防いだ。江戸の町々の木戸は、慶長十四年(1609)にはすでにあったことが記されているから、かなり早くより存在していたといえる。番人は二人で、番太郎または番太とよばれていた。町内から支払われる給金は少額であったため、副業として駄菓子・蝋燭(ろうそく)・糊・ほうき・鼻紙・瓦火鉢・草履(ぞうり)・草鞋(わらじ)、夏は金魚、冬は焼芋などを売っていた。そのため木戸番屋は商番屋(あきないばんや)ともよばれた。番人は番屋に住みこみであった。町内の保安と警火が主目的であるため、本来ならば屈強な男子が勤めるべきであるが、町費の都合もあって老人を安い賃銀で雇うのが一般化していた。番小屋での副業はよい収入であったらしく、番太郎の職はのちに株化した。天保十三年(1842)には、町奉行から商番屋の大きさが規定されているにもかかわらず、それが守られていなかったり、一般の住宅と紛らわしいものがあるので、やめるようにと与力へ指示している。幕末の大坂でもほぼ同じ状態であって、木戸番に壮健で無い者を雇ったりしているが、夜間には木戸を閉めて番人を置かない木戸もあったという。
■船場、島之内、道頓堀(せんば・しまのうち・どうとんぼり);東西の横堀川、北は土佐堀川、南を長堀川に囲まれた地域を船場と呼ぶ。同じく長堀川と道頓堀川で囲まれた地域が島之内。道頓堀は道頓堀川を渡って南側の芝居町周辺。
■荒気ない(あらけない);あらくれない。「ない」は否定の無しの意ではなく、甚し(なし)の義であって、せわしない・はしたない・えげつない・切ない・勿体ない・かたじけない・はがいない。などと同類語である。大坂ことば事典
■禍は下から(わざわいは しもから);災いはとかく召使いなど身分の低い者の無思慮な言動によって起こる。身分の低い者の扱いに注意が必要だと言うこと。ことわざ大事典より
■祥月命日(しょうつきめいにち);死後一周忌以降の故人の死んだ月日と同じ月日。正忌。正命日。
■報謝(ほうしゃ);恩に報い徳を謝すること。物を贈って報いること。仏事を修した僧や巡礼に布施物をおくること。また、神仏への報恩のため、慈善をなし、金品を施すこと。
■番采(ばんざい);出来合わせのそうざいのこと。関西、特に京都でいう。守貞漫稿に、「平日の菜を、京阪にては番さいという。江戸にて惣菜という」。大坂ことば事典
■阿茶羅(あちゃら)漬け;(アチャラは、ペルシア語のacharに由来するポルトガル語)
季節の野菜など蓮根・大根・筍(タケノコ)・蕪(カブ)などを細かく刻んで、唐辛子を加えた酢・酒・醤油・砂糖などに漬けた食品。ポルトガル人が伝えたという。アジャラづけ。冬の漬け物。
■燗冷(かんざ);燗冷まし。燗をしたままで飲まずに冷たくなってしまった酒。
■「頭(かしら)がまわらな、尾がまわらん」;頭動かねば尾が動かぬ。上位の者が先に立って活動しないと下の者が働かない。
■庭(にわ);大坂言葉で、土間(はにま)の略転で三和土(たたき)のこと。店の土間や台所へ続く土間を庭と言う。
庭園のことは、「前栽」(せんざい)という。大坂ことば事典
■大事ない(だいじない);かまわない。差し支えない。別状無い。「大事おまへん」と訛り、さらに「だいない」また「だんない」という。大坂ことば事典
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