落語「始末の極意」の舞台を行く
   

 

 桂米朝の噺、「始末の極意」(しまつのごくい)より


 

 釘を打つからと言って、丁稚に隣家から金槌を借りてくるように言い付けた。丁稚戻ってきて言うのには「釘を打つと言ったら『金と金がぶつかったら金がちびるから貸せん』と言う」、「ケチな奴だな。借りるな。家のを出して使え」。どっちがケチなのか。

 前の家が火事で丸焼けになった。オキが出ているので放っておいたら、灰になって勿体ない。旦那が丁稚に「前の家に行って、オキをすくって来い」、「いいんですか」、「放っておいたら灰になるだけだ」。「くれませんでした。『人の家が火事だというのに高い財産の木だからやれない』と言って怒っています」、「貰うな。我が家で火事を出しても、火の粉もやらない」。

 ケチな酒飲みがいます。お銚子に割箸が一本入れてあります。酒が飲みたいときには、その箸を持ち上げ、箸に付いて来た酒をなめていた。息子が真似をして、二へん舐めたら、「こら。大酒飲むな」。

 10人奉公人を使って商売をしていた大店の旦那。無駄だと言って半分の5人にした。それでも間に合うので2人にした。それでも間に合うので、夫婦二人で頑張ったらそれでも仕事が出来たので女房を離縁して、一人で一生懸命働いたらそれでも仕事が回った。「わしもいらんらしい」と言って何処かに行ってしまった。

 ケチな奴が死にまして、閻魔さんの前に引き出され、ケチも度が過ぎると黒暗地獄(こうあんじごく)に落とされます。真っ暗闇で普通の人だったら一歩も前に進めません。この男はスイスイと歩いて行きますので、どうしてだろうと見るとボ~ッと灯りが見えます。爪に火を灯していたんです。

 親子そろってケチです。親父が川にはまって溺れかけています。助けたいが泳げない。「お~ィ。誰か助けてくれ~。泳げる人~。親父が溺れているんだぁ」、「泳げるけれど、ナンボ出す」、「2000円出す」、「ケチなこと言うな。着物は濡れるし、もう少し出しな」、「3000円」、「もうチョッと出しな」、「4000円出す」、「5000円出しな」、二人でもめていると、アップアップしながら親父が、「それ以上出すなよ。出したら死んじゃうからな」。ここまで来ると禅の悟りのようなものですな。

 「入りな。教えたことやってるかい」、「私もケチとか始末については相当やっているつもりなんですが・・・。例えば1枚の紙」、「そうだ、書き損じた紙も何回も使う。鼻をかんだら、乾かして便所で使う」、「それが便所で使って、鼻はかめませんな。もう少しでやるところだった」。
 「下駄なんかは、皆は安物の松材の下駄を履くな。重くて雑に扱うが、ワシは柾目の桐下駄で畳表が付いてるな」、「そんな贅沢な」、「桐の下駄は軽いから疲れないな。歯が無くなったら畳表は鍋つかみにして、木は細く削ってウキにして釣り道具屋に売りに行く、鼻緒は羽織の紐にする」。
 「私は扇子を半分だけ広げ5年したらそれを閉じて反対側を広げて5年、全部で10年は使います」、「それは贅沢。孫子の代まで使える。扇子は全部広げ、顔の所に持って来たら、顔を振るな」。
 「飯も塩を掛けて食べると、塩が無くなる」、「それは贅沢」、「梅干しでも、朝は皮を食べて、昼は肉を食べて、夜は味が抜けるほど種をしゃぶって、種を割って中の天神さんを食べる」、「大名のような贅沢したらいけない。アレは食べる物では無く、前に置いて酸っぱいだろうと思ってツバが出たところでガサガサと食べる」。
 「前に住んでいた所は、鰻屋が前にあって昼時分その匂いでガサガサと食べた」、「朝に梅干し、昼に鰻、食い合わせにならんかな」、「月末に鰻屋が請求書持って来た。明細を見ると鰻の嗅ぎ代となっていた。財布を出して銭をジャラジャラと出したら手を出したので、匂い代だから音だけだ」。
 「それでは身体が持たんから出汁(だし)のしっかり利いた吸い物を取るぞ。ホンマもんだ」、「そんな~」、「カツ節屋に行って、使い物にするからと言って見せてもらうが、カカアに見せるので丁稚を連れて帰って来る。カカアが居ないので一晩預からしてと言うと家が分かっているので置いて行く。この鰹節をグラグラ煮え立った湯の中に入れる。出汁が出た所でそっと取りだして火鉢の灰の中に入れて湿気を取り乾かして、ゴシゴシ磨くと判らなくなる。翌日、丁稚が来るが、カカアが別のカツ節屋で買ってしまった。ご主人によろしくと言って帰す。店では次の客に売るから損は無い」、「買った方はエライ損だね。具の方は?」、「朝早く、ムシロを敷いて待っている。おうこをギシギシ言わせながら、つまみ菜を売りに来る。人が多いので全部買うと言うと・・・、『3円に負けときます』。ここに開けてごらん。中までイイものだが負けてご覧。『5銭に・・・』。5銭引くのでは無く5銭にしなさい。八百屋怒りよるで、忙しいんだと言って篭に戻すが、ムシロの上に引っかかった菜を摘まむと2日分はあるな」、「そんな事したら、ドツかれまっせ」。
 「1銭玉2枚持って住吉さんにお詣りして腹一杯食べてお土産持って帰ってきた」、「そんな事が出来ますのか」、「信心家だから良く行くよ。お賽銭箱の隅に1銭を置いてお願い事したら、その1銭を持って次に行くな、最後にお詣りしたら、その1銭をご一同様へと言って賽銭箱に入れる」、「残りの1銭は駄菓子屋で大きなあめ玉を二つ買う。遊んでいる子供の中から賢(かしこ)そうで家の良さそうな子を選ぶのだ。家に帰るのを付けて行く、母親が門口に居て『これオッチャンに貰った』と言う時、横を通る。このタイミングがむずかしい。『このオッチャンにもろた』と言ってもらえば締めたもの。母親も礼を言うな、『一服して下さい』という、歩き疲れて休みたいなと思ってたところです。では、お門を拝借。自分の煙草入れを出すが入っていないのは百も承知。『家の買い置きで良かったら』と出してくれるから、お茶の替えで席を外したスキに下の方からガサッと取って煙草入れに入れる。面白い話しをしていると時間を忘れる。亭主が帰ってきて子供のベンチャラを言うと親も嬉しい。『時分時だ、ぶぶでも召し上がって貰おう』。スイマセンと言って上がり込み、目一杯食べてお新香を半紙に包むんだ。大概は自分の所で漬けるから誉めると、沢庵を2.3本包んでくれる」、「そんなに上手く行きますか」、「行くように持って行くんだ」、「でも、極意とかいうものがあるんでしょ」、「本当のことを言うと、始末の極意はあるんや。改めて夜においで」。

 「こんばんは。真っ暗ですな」、「我が家は灯は一切ない」、「慣れてくると見えるようになりますなぁ。あんた裸ですな」、「着物は人が居るから着るんで、いつもは裸です」、「寒くないですか」、「寒中でもここに座れば汗が出よるよ。触ってみ」、「うすら寒いのにな~。ホントにジトッとしている。床に暖房が入っているとか」、「そんな事するかい。頭の上だ」、「なんです?」、「庭石の大なのを吊してある。アレが切れたら死ぬかと思うと脇の下から汗が出る」、「命掛けでんな。早く極意を教えて・・・」、「裏庭に出なさい」。
 「イイ庭ですね」、「ハシゴを松の木に掛けなされ。掛けたら上がって両手で枝につかまりぃ」、「アッ、ハシゴ外しなさんな。軽業の稽古みたいだ」、「左手を離せ。離したら小指を離せ」、「離した」、「薬指を離せ。離したら高々指を離せ」、「だんだん難しくなってきた」、「人差し指を離せ」、「あんた、そんな無茶言ったらかなわんな。離せませんよ」、「離すなよ。(人差し指と親指の輪は)離さんのが極意じゃ」。

 



ことば

原典;「落としばなし」寛永3年刊。梅亭金鵞・五返舎半九作・橋蝶楼貞房画より、吝(しわ)いん坊になる伝。右図。

 「銭使いが荒いから、直す方法を教えるから、榎の枝につかまれ。片手を離せ」、「離した」、「反対の手を離せるか」、「この手を放したら、落ちて死にます。早く教えてください」、「今度から銭金を持ったら、その心もちでいらっしゃい」。

丁稚(でっち);(デシ(弟子)の転。一説に、双六の重一(デツチ)からともいう) 職人または商人の家に年季奉公をする年少者。雑役に従事した。江戸では小僧と言った。

始末の極意(しまつのごくい);浪費せず、つつましいこと。倹約。その極意だという。その極意とは、物事の核心。特に、学問や芸事の奥義。おくのて。で、ケチの極意では「そんな事したら、ドツかれまっせ」。

オキ(燠・熾);赤くおこった炭火。おきび。薪(木造家屋)が燃えて炭のようになったもの。

奉公人(ほうこうにん);主家に仕える従者。他家に召し使われる人。やといにん。従業員。

大店(おおだな);大規模な商家。大商店。

黒暗地獄(こうあんじごく);阿鼻に属する地獄のひとつ。黒山間の暗い所で、灯明を盗んだり父母・師長の物を盗んだりする者などを呵責(カシヤク)する。

爪に火を灯して;蝋燭(ロウソク)のかわりに爪に火をともすほど、過度に倹約する。

柾目の桐下駄(まさめのきりげた);幹の中心を通って縦断した面。透心縦断面。また、その材木。縦にまっすぐに通った木目(モクメ)のあるもの。まさ。柾目で、出来た桐の下駄=軽くて目が通っているので上品な作りになっている。また噺では、この表面に畳表が張ってあるので、雪駄のように粋な感じになり冷たさが直に足に来ない。
右図:畳表は付いていないが、柾目の通った桐下駄。

中の天神さん(なかのてんじんさん);梅干しの種の中にある実。
 昔は梅の種がすべて危険だと思われていたため、子どもにも危険が伝わるように「梅干の種の中には天神様が寝ている」と表現したのがはじまりだと言われています。

 まだ熟していない青梅の種の中にはアミグダリンという成分が含まれており、胃腸で分解されると少量ですが猛毒の青酸を出してしまうからです。しかし塩漬けすることによりアミグダリンは消失するので、梅干の種は食べても人体に影響はありません。天神様といえば菅原道真が梅を愛していたことに由来します。梅の種の中に天神様が宿るという伝えをすんなり受け入れられたようです。その結果、天神様がいらっしゃる梅の種を粗末に扱ってはいけないと考えられるようになりました。

食い合わせ(くいあわせ);2種以上のものを同時に食べると中毒を起すと言われる組み合わせ。
 ★うなぎ【鰻】 + うめぼし【梅干】、=鰻の脂と梅干しの強い酸味が刺激し合い、消化不良を起こすという説が有力。実際には、酸味が脂の消化を助けるため、味覚も含めて相性の良い食材である。
 ★だいこん【大根】 + にんじん、=人参に含まれるアスコルビナーゼには、大根のビタミンCを壊す作用がある。正月の”なます”は、大根・人参・干し柿で作るが酢の作用でビタミンCは壊れない。
 ★トマト【蕃茄】 + きゅうり【胡瓜】、=きゅうりに含まれるアスコルビナーゼにはトマトのビタミンCを壊す作用がある。また、共に体を冷やす作用がある。
 ★なまたまご【生卵】 + ところてん【心太】、=共に消化に時間がかかるため、胃腸に負担がかかる。
 ★かに【蟹】 + かき【柿】、
 ★わかめ【若布】 + ねぎ【葱】、
 ★てんぷら【天麩羅】 + すいか【西瓜】、=油の多い天麩羅と、水分の多い西瓜を一緒に食べると、胃液が薄まり、消化不良を起こすことがある。
 ★うなぎ【鰻】 + すいか【西瓜】、=上記と同じ。
 ★なすのつけもの【茄子の漬物】 + そば【蕎麦】、
 ★さけ【酒】 + からし【辛子、芥子】、=酒も辛子などの辛いものは血行を促すため、かゆみが出てしまう可能性があります。蕁麻疹(じんましん)や湿疹が出やすい人は、要注意。
 ★まつたけ【松茸】 + あさり【浅蜊】
 ★かきごおり【カキ氷】 + てんぷら【天麩羅】、

おうこ;両側に物を掛けて荷(ニナ)う棒。上方で使われる語で、関東では”天秤棒”と言う。
右図:「おうこ」。大阪ことば事典より 

つまみ菜(つまみな);もともとは大根、しろ菜、かぶ、小松菜、漬け菜などの若苗を生長させるため摘み取ったもの。現在では漬菜の一種である「雪白体菜(せっぱくたいさい)」という専用種の若苗を指します。
東京が主産地で冬以外は一年中収穫でき市場にでまわります。癖がないので誰でも食べられるのもいい。右図。

時分時(じぶんどき);食事の時間帯。

ぶぶ;元来は、湯または茶のことですが、ぶぶ漬けの略で、茶漬け、オブ漬けの事。

住吉さん(すみよしさん);住吉神社。大阪市住吉区住吉にある元官幣大社。住吉神(スミノエノカミ)の三神と神功皇后とを祀る。二十二社の一。摂津国一の宮。今は住吉大社と称。同名の神社は、下関市一の宮住吉(長門国一の宮)や福岡市博多区住吉(筑前国一の宮)など各地にある。
 全国にある住吉神社の総本社である。本殿4棟は国宝に指定されている。

上図:大阪住吉大社。

(人差し指と親指の輪は)離さんのが極意じゃ
俗に人差し指と親指の輪は金を意味する。それを放したら・・・。


右図:これを放したら・・・。 

 

 


                                                            2016年4月記

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