落語「息子の紙入れ」の舞台を行く
   

 

 自作
 五代目古今亭今輔の噺、「息子の紙入れ」(むすこのかみいれ)より


 

 故郷というものは素晴らしいものです。
 徹夜して指定席の切符を買って、徹夜して故郷に帰って、翌日には東京に帰って行きます。

 「朝湯をいただきましたが、良い気持ちですね」、「なんだい、標準語なんか使って、田舎に帰ってきたときはこっちの言葉を使いな」、「空も綺麗で、気持ちが良い」、「空が綺麗なのは当たり前だ。自分の目で見た物で無いと信じない。『己が眼で確かめよ』それが、おとっつあんのズロースだ」、「なんだい、ズロースていうのは」、「若いのに知らないのか?いつも口にする言葉だ」、「スローガンですか」、「チョットの違いだ」、「自分の目で見ないものは信じませんか?外国や地球の丸いのも信じませんか?」、「丸か三角かは、見たことあるのか。見せてみろよ」、「地球には30何億と言う人が住んでいるんです。日本の裏側にも人が住んでいるんです」、「裏側にいたら、みんな落っこちまうだろ」。
 「利男、そんなこと言ってないで、友達のことや東京の事を話しな」、「お爺さん、風呂が沸いてるので入ったら、手を入れたら良かったよ」、「お前の手だ。俺の身体じゃ無い」、「ずいぶん頑固になりましたね」、「村の若い衆に騙されて、腹壊した後、信じなくなった」。
 「農協から通知が来たんだよ。外国からジャガイモの種が来たから見に行ったが、行きは晴れていたが、帰りになると雨風が強くなった。嵐の中でバスが事故を起こしているかと心配で、3度も停留場に行ったが、帰って来てテレビの前に座って、臨時ニュースでやるんじゃないかと心配していると、帰って来た。どれだけ心配したか。『バカこけ、見ていないから信じないよ』。女房の心持ちが亭主に通じないかと思ったら、先行きが心配になったよ」。

 「利男、見てご覧・・・」、隣の部屋で父親が、息子の財布を開けてのぞき込んでいます。帰りの切符代1000円しか入っていませんので、抜き取られたら帰ることも出来ません。その財布は元に戻して、ポケットにお金を入れたようです。「利男の金を盗んだんじゃ無く、お金をくれたんですか。そうか良かった」、「お母さん、強情を直そうと、色々言いますから、話を合わせてくださいね」。

 「お父さん、今晩の夜行で帰ろうと思います」、「半年もすれば、また来るんだから止めないよ」、「お父さんを使って申し訳ありませんが、背広やワイシャツを取ってください」、「食事してから、着替えれば良いのに・・・」、「友達の所に挨拶してきますから」、「着るものが小さくなったんじゃないか」、「ポケットに手を入れたらお金が出て来たんです。駅降りたらスリに突き当たられ、お金を入れられたんですね」、「そんな事無いよ」、「このお金、駐在所に届けてください。スリに会ったら『返してくれ』なんて言われたくありません」、「浅草や新宿のような所ではあるだろうが、ここでは無いよ。スリ以外の人が入れたんだな」、「お父さんがくれる訳は無いし、お母さんですか」、「お前が困ると思って、5000円入れておいたよ」、「このクソ婆ッ、でたらめ言いやがって、こんな嘘つきだとは思わなかった。ホントは俺が入れたんだ」、「その気遣いは無いですよ。僕は見てませんから・・・」、「土産をあんなに買ってきたら金は無くなるよ、隣の婆さんなんか最敬礼してた。お前を呼びつけてお金渡し、ペコペコ頭下げさせたくなかった。帰りの電車の中で気が付いてくれれば良かった。ホントだぞ。ワシが入れたんだ。おとっつあんは小さいときからウソはついたことは無い。強情っ張り、一刻モンと言われるが、ウソはついたことが無い」、「僕はこの目で見ていませんが、信用しましょう」、「そうしてくれ」、「お父さんも、これからは見たこともないものでも信用しますね」、「今日で懲りたから・・・、信用する」、「お父さん、夫婦の愛情は目に見えるものじゃ無いですよ。こないだバスで出掛けたときは、お母さんはずいぶん心配していたんですよ。愛情は目には見えませんが信じますね」、「あ~、目には見えないがな~。愛は盲目と言うからな」。

 



ことば

朝湯(あさゆ);朝、入浴すること。また、朝から沸かしてある風呂。朝風呂。

スローガン;標語、合言葉などと訳され、特定の主張を広く人びとに浸透させるために、その意図を簡潔に表現した言葉。今日、スローガンは商業広告から交通安全、防犯、そして政治的領域にいたるまで使われている。一般にスローガンは、覚えやすく、口にしやすいということが重要であり、簡潔性、印象性、適時性などが重視される。 間違っても”ズロース”とは違います。

地球は丸い(ちきゅうは まるい);地球は丸い。このことは古代ギリシャの人たちも知っていた。船で沖から陸に近づくとき、遠くではまず小さな山の頂から見え始めて、裾野は陸に近づいてこないと見えない。あるいは北極星の高度が北に行くほど大きくなることもある。こうしたことから地球は平ではないとわかる。

 

 上図、地球が平らだと思われていたときの概念図

 アリストテレス(紀元前384年~322年、子供の頃のアレクサンドロス大王(紀元前356年~323年)の家庭教師もやったことがある)はさらに、月食は地球の影の中に月が入ることによって生ずる現象であること、その影の縁の形がいつも丸いということから、地球は球であると確信した。
 さらに時代を下り、マゼラン(1480年ころ~1521年)は1519年9月20日にポルトガルから出発し、西回りで世界一周を果たし、1522年9月6日にポルトガルに戻った。もっとも、マゼラン自身は1521年4月にフィリピンでの現地の争いに巻き込まれて死んでいる。出発時の237名中、生還できたのはわずか18名という苦しい航海であった。航海日誌の日付と、戻ってきたときのポルトガルの日付が1日ずれていたという。まさに地球が丸いことの証拠である。なお、これについては日付変更線が有ったことに起因しています。
  現在では、宇宙から地球を見ることもできる。こうした写真を見れば地球の形が球であることが実感できます。
 https://s-yamaga.jp/nanimono/chikyu/chikyunokatachi-01.htm より

  アポロ17号から見た地球:NSSDC Photo Gallery 

地球の人口(ちきゅうの じんこう);米国勢調査局、国連データからの2019/05/14の推計人口によると、
75億4315万人。世界の人口は、1分に137人、1日で20万人、1年で7千万人、増えています。
 噺の中では、30何億人が住んでいると言っていますが、その当時(1970年ごろ)から比べると約二倍になっています。国連の予測では2050年には約91億人の人口になっていると言います。

農協(のうきょう);農業協同組合(のうぎょうきょうどうくみあい、通称:農協〈のうきょう〉)は、農業者(農民又は農業を営む法人)によって組織された協同組合。農業協同組合法に基づく法人であり、事業内容などがこの法律によって制限・規定されている。なお、全国農業協同組合中央会が組織する農協グループ(総合農協)を、愛称としてJA(ジェイエー、Japan Agricultural Cooperativesの略)と呼び、略称として「JA〇〇」の呼称を用いている。
  目的は農業協同組合法によって定められており、農業生産力の増進と農業者の経済的・社会的地位の向上を図るための協同組織とされている。組合員の自主的な選択により、事業範囲を決めており、多くの組合員が必要とするサービスを総合的に提供する。加入者の大半が米作農家で、そのためJAは米を中心に活動を行っている。

ジャガイモの種;ナス科の野菜で原産地は南米アンデス地方。ジャガイモの品種は男爵イモとメークインが全体の半分を占めていて、新品種も育成されていますが知名度の高いこの2品種を超えるものは出ていません。
 2~3ヵ月ほどの比較的短い栽培期間で、種イモの5~10倍もの量が収穫できるお得な野菜なのです。植えてしまえば意外と簡単に育てられる。
 ジャガイモの種とは、ジャガイモそのものを、またはカットして植えます。決して、大根やネギ、ニンジンのように種が有って、それを蒔くものではありません。

駐在所(ちゅうざいしょ);駐在する所。特に、巡査が受持の区域内に駐在(居住)して警察事務を取り扱う所。
 交番は主に都市部に置かれて
おり、複数の警察官が、「交」代で「番」をする、交替勤務による24時間体制で警戒活動を行っています。それが交番になります。
 駐在所は、1人または2人の警察官が、駐在所に居住しながら、地域の安全を守る活動を行います。家族も一緒に生活することも出来ます。ここが交番と駐在所との大きな違いになります。

浅草(あさくさ);東京都台東区の町名。または、旧東京市浅草区の範囲を指す地域名でした。 浅草寺の門前町として繁華街および観光地となっている。また浅草駅は東京メトロ銀座線、都営浅草線と東武伊勢崎線が乗り継げ、浅草駅 (首都圏新都市鉄道)とも近接しており、東京都区部と北関東を結ぶターミナル駅となっている。
 江戸時代以降より繁華街の一つとして栄えてきた。関東大震災では浅草台地の固い地盤で揺れによる被害よりも主に火災で焼かれ、東京府の都市計画により道路拡張をはじめ新たに市街地化された。高度経済成長期以降は山手線沿線の池袋、新宿、渋谷などの発展により、東京都が制定する副都心(7か所)として、上野駅近辺と共に上野・浅草副都心を形成。現在も下町情緒を感じさせる観光の街として賑わっている。

 浅草寺参道入り口の雷門の人出。スリにはご注意。

新宿(しんじゅく);東京都新宿区。日本でも屈指のターミナル駅がある。JR・私鉄・地下鉄の多くの路線が周辺地域のベッドタウンとを結んでおり、多くのビジネス客が利用する。さらに、当駅周辺は日本最大の繁華街・歓楽街・高層ビル街となっており、昼夜を問わず人の流れが絶えない。JRの駅を中心に東・西・南口、周辺の各地下鉄駅、商業施設などが通路や地下街などで広範囲に連絡している。
 新宿駅には、JR山手線、JR中央線、JR総武中央線、JR埼京線、JR湘南新宿ライン、京王線、小田急線、西部新宿線、地下鉄・丸ノ内線、副都心線、都営新宿線、都営大江戸線、が接続しています。乗降客も日本一で、約371万人(2016年)となり、この数字は横浜市の人口に匹敵する。
 詳細は、JR東日本 乗車人員 769,307 人(乗降人員換算で約153万人)、 京王電鉄 乗降人員 770,072人、 小田急電鉄 乗降人員 499,919人、 東京メトロ 乗降人員 233,555人、 都営地下鉄 乗降人員 新宿線 289,786人、 大江戸線 139,794人。
*注1、JRは乗車客のカウントのみで、乗降客数で言うと2倍になります。JR内だけで乗り換える客数はカウントされない。
*注2、私鉄で降りた客は他線に乗れば数字はダブルカウントされます。逆に改札を通過しない通過客はカウントされません。そのところはアバウトと言うより仕方がありません。傾向はつかめても実際、正確な数字は出せないのです。

 上写真、左上が新宿歌舞伎町あたり。右下に新宿駅西口小田急百貨店が見えます。

愛は盲目(あいはもうもく);シェイクスピアの格言の一つ。 『人は恋をすると周囲が見なくなる』ことを言い表している。
 『恋は盲目で、 恋人たちは 恋人が犯す小さな失敗が見えなくなる』。

 古今亭今輔は、粋なオチを持って来たものです。



                                                            2019年9月記

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