落語「庭蟹」の舞台を行く
   

 

 古今亭志ん生の噺、「庭蟹」(にわかに)より


 

 落語というものは、まっ、洒落が寄り合ったようなものが、 この、落語でございまして・・・。 だから、噺を聞いてるお方が、落語を聞いてるってぇと、 だんだん、柔らかんなってまいりましてなっ。 世の中を、こぉ、面白く、渡っていけるのが、落語でありますなっ。
 え~、ですから、洒落の分からないってぇ人は一番困りますなぁっ。『惜しいかな、洒落の分からぬ男にて』 なんて、昔は、お商人(あきんど)なんざ、そんなの、あったんですナ。

  「(番頭の)佐平さんやッ」、「へぇへぇ」、「あの~、世間で、お前のこと評判だな。洒落が上手いってな~、ひとつ、俺に洒落てみてくんねぇか」、「えぇ、どうもな~」、「洒落てみてくんなよおっ。上手いって評判だからよぉ」、「それでは、題を出していただきたいんですがなぁ」、「はぁ~? 洒落は、台が、いんのかい? 踏み台かい?」、「いや。あなたは、こういうことで、洒落ろと言えば、それで、洒落るんでございます」、「あぁ、そうか。なんでも、いいんだな。衝立(ついたて)で、やってみてくんないか」。
  「えぇッ、衝立でやるんですか? ”ついたて、十五んち”、なんて、どうでしょう」、「・・・?  ついたて、十五んち。そら、お前、朔日(ついたち)、十五んち(日)と、間違えてるんじゃないか~、『ついたて、十五んち』、ってのが、一日、十五んちってな~・・・ないよ」、「えぇ、そこが、洒落でございます」、「どこが、洒落だい」、「似ておりますから、洒落でございます」、「じゃ、俺と倅(せがれ)で、洒落かぁ」、「まぁ、どうも、あなた、困りますね~」。
 「じゃぁ、他の題で、やってみな。庭に蟹(かに)が出てきたな。孫が買ってきた蟹が逃げたと言っていたが、あの蟹で、洒落てみてくれ」、「庭に、蟹がですか? はは~、庭に蟹が出てきた。”にわかに(庭蟹)洒落られません”、てなぁ、どうでしょう」、「そんな、お前、恩にかけるもんじゃぁねぇよ。洒落てくんなよ~ッ」、「ですから、にわかに、洒落られません」。
  「ん~、いやに、なんだねぇ。あそこに、女の人が傘をさしかけて行くが、あれを、題でやってごらん」、「え~、傘をさしかけて、さしかけて、ですな、傘を。”さしかかっては(=差し当たっては)、洒落られません”」、「何故、恩にかけんだよぉ。じゃ、よしなよぉっ。なんだい、ホントにッ。人が、お前、洒落がうめえってから、頼んだんだ。『にわかに洒落られねぇなんの、さしかかっては洒落られねぇの』。何を言いやんだッ」。

 (そこに旦那のお兄さんが来て) 「どうしたんだ?」、「えぇ、あ~。兄貴かい?」、「うん」、「番頭が、洒落がうめぇってから、洒落てみろったらね、洒落ねぇんだよぉ」、「佐平は、洒落は上手いもんだぜぇ、う~ん。どんなこと言ったんだィ」、「題を出せってぇから、衝立でやってみてくれったら、『ついたて、十五んち』ってやがる」、「あ~、上手いな~、『ついたて、十五んち』 か、うめぇじゃねぇか」、「上手いのかねぇ?」、「上手いよ、『ついたて、十五んち』。それから?」、 「庭に蟹が出てきたから、洒落てみろったら、『にわかに、洒落られません』って」、「上手いもんだな、『にわかに、洒落られません』なんて」、「そうかい? 女の人が、傘さして行くのをやれってったら、『さしかかっては、洒落られません』って」、「上手いっ。実に上手い」、「上手いかい?」、 「上手いよ。えっ、『にわかに洒落られません、さしかかっては洒落られません』。上手いじゃないか」。

 (番頭さんを呼び戻して) 「番頭さん、悪く思わねぇでおくれよ。済まなかったねぇ。『にわかに洒落が、さしかかっては洒落られません』。上手いんだな。も一つ、なんか~、洒落てみてくんないかな」、「えぇ、そう、性急には、洒落られませんなぁ」、「あぁ、上手いもんだ」。

 



ことば

洒落(しゃれ);洒落と言うか駄洒落の羅列の噺で、落語家さんによって噺の台、いえ題が違います。
 「つい立(一日)、二日、三日」だが、旦那は全く反応なし、「三日、四日、五日」ではだめなのか。また、「1番ではなく2番ではダメなんですか」と言った議員さんがいましたが・・・。
 「請求書」を指さし、これで洒落てくれと言う。 「そう性急(請求)に言われましても、洒落られません」。
 五十円で買ってきた「いんげん豆」。番頭は軽く、「いんげん(人間)わずか五十円(五十年)」と洒落た。
 「表を通っている粋な年増ではどうですか」と聞かれ、「いきなり(粋なり)しゃべれません」。等々。
 ダジャレを寄せ集めただけの軽い噺で、小咄、マクラ噺、逃げ噺として扱われることが多く、洒脱で捨てがたい味わいを持ちながら、演者の記録も残りにくい性質のものです。
 オチは、洒落が分かった振りをする旦那ですが・・・。全く分かっていない。

■洒落の意味合いは、分かっていると思いますので解説しません。洒落って、旦那と息子が似ているからですね。

サワガニ;日本の固有種で北海道、沖縄以外のほぼ日本全域で生息しているサワガニ科のカニです。甲羅幅は2cmから3cm、脚も含めると5cmから7cmほどの大きさです。日本では唯一の淡水で一生を過ごすカニです。

 

 サワガニは飼育されるだけでなく、料理としても親しまれています。調理法は素揚げが一般的で、その他つくだ煮としても親しまれています。寄生虫がいる可能性があり、サワガニは生食はできないのでその点は注意が必要です。宮崎県などは食用にするための養殖も行われています。ペットとして販売されているので、縁日で買えることもあります。

衝立(ついたて);衝立は、日本の家屋で用いられる、パーティション用家具の一種。襖障子・板障子・組子などといった障壁に使える物に台脚を取り付けることで自立する調度品に仕立てたもので、屋内にて、間仕切り、目隠し、風除け、装飾性・芸術性などを目的に用いられる。

 

いんげん豆;インゲンマメはマメ亜科の一年草。別名、サイトウ、サンドマメ。 主に西日本でフジマメのことを「インゲンマメ」と呼ぶ地域があり、両種は混同されやすいが、別種である。
 1654年、明からの帰化僧・隠元隆琦が日本に持ち込んだとされることからこの名がついた。実際にはフジマメ(藤豆、フジマメ属)を持ち帰ったという説もある。このためかどうか不明だが、関西ではフジマメをインゲンマメと呼び、インゲンマメはフジマメ、サヤインゲンは三度豆と呼ぶ。



                                                            2021年11月記

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