落語「穴子でからぬけ」の舞台を行く
   

 

 四代目 春風亭柳好の噺、「穴子でからぬけ」(あなごでからぬけ)


 

 与太郎さん源ちゃんを捕まえてナゾナゾをお金を掛けてやろうと誘った。
「お前を相手にねぇ、謎をしても張り合いがないからねぇ」、
「あたいが謎出して当たったら、源ちゃんに十円やるよ」、「おっ、十円くれんのか」、「当たんなかったら、源ちゃんから十円もらうぞ」、「おー、いいとも。十円ぐらい結構だ。しっかりやれよ。さぁ」。

「じゃ、あたいも十円。足が四本あるんだよ」、「ふん」、「体中に毛が生えてやがる」、「ふーん」
「尻尾が生えてて、耳が生えててね、こうヒゲを生やかしやがって、『ニャーゴ』って鳴くものなーんだ?」
「いいのか、おい。十円だぞ。猫。猫」、「ぃ、ひゃぁ、当たった」、「当たりめえだ。お前」。
「なぁ、こんだぁ(今度は)二十円いこうか?」、
「俺は構わねぇけどな、お袋に怒られてもしらねえぞ。さっ、二十円」、「じゃ、あたいも二十円」。

「足が四本あるんだよ」、「おめぇ、足が四本あるの好きだねぇ」、「体中、毛が生えてんだ」、「また、毛が生えてんのか?」、「尻尾が生えてて、耳ぃ生やすかしやがって、今度ぁ、ヒゲ、生えてねえんだよ。角が生えてやがってね、ヨダレ垂らしてやがってね、 『モォ~~』って鳴くもの、なーんだ?」、
「大変な馬鹿だねぇ、こいつは。二十円だぞ。牛だろ。牛」、「ひゃ、不思議に当たるなぁ」、
「なーに、言ってやがんだ」、「こりゃ、驚いたな。今度は五十円いこうか?」、
「お前、負い目になってんだよ。限(きり)がねえぞ、こういうことは。さっ、五十円」、
「じゃ、あたいも五十円」。

「長いのも、短いのもあるんだよ」、「今度は変わってきやがったな。おい」、
「太いのもあって、細いのもあってね、捕まえようとすると、これがヌルヌルヌルヌルすべってやがってねぇ、なかなか捕まらねえもの、なーんだ?」、
「さぁ、いけねえ。あんまり、馬鹿にしてたら引っかかっちゃったよ。おめぇ、ずるいぞ。そういうことは、よくねえ。俺が、おめぇ、ウナギったら、おめぇ、ドジョウってんだろ。ドジョウって言や、ウナギで、この五十円持っていこうと思いやがって」、「じゃ、二つ言ってもいいや」、
「二つ言ってもいーい?よーし、ウナギにドジョウ」、「穴子だ」。
「穴子かよ。おーい。穴子まで気づかなかったねぇ。やりやがったな、この野郎。今度はいくらだ?」、
「百円いこう」、「今度は、こっちが負い目になっちゃったよ。こん畜生。さぁ、百円」。
「じゃ、あたいも百円」。

長いのも、短いのもあるんだよ」、「また、なげぇのも、短けぇのも、あるんかい?」、
「太いのもあって、細いのもあって、捕まえようとすると、ヌルヌルヌルヌルってね、こう長・・・」、
「何を言ってやがんでぇ。そうは、いかねぇや。俺が、ウナギったら、ドジョウ、ドジョウったら穴子で百円持っていこうってんだろぅ」、「三つ言ってもいいや」、「三つ言ってもいーい? よーし、ウナギに、穴子に、ドジョウっダ」。
「はは、芋茎(ずいき)の腐ったやつだぁ」。

 



ことば

賭け;源さんが30円勝って、得意になっていたら、後半で与太郎さんの仕掛けが効いて、50+100円で差し引き、与太郎さんの120円勝ち。相手を低く見たらイケマセン。源さんも言っています、「さぁ、いけねえ。あんまり、馬鹿にしてたら引っかかっちゃったよ」。

負い目(おいめ);返さなければならない借金・負債。負け金。源さんは、与太郎さんの負けを心配していたのが、とんでもない、与太郎さんに引っかかってしまったのです。

からぬけ;噺家の間では「完全に言い逃れる、出し抜く」という意味があると伝えられている。穴子はぬるぬるとしてつかみにくいところから、そのイメージを掛けたものらしい。色川武大氏によれば、賭博で用いる言葉だとのこと。

ずいき;(芋茎と書く)サトイモの茎。乾かしたものは「いもがら」といい、食用。広辞苑
 炭水化物、ミネラル、タンパク質、脂肪などを含む、安価な栄養食品とされ、家庭の惣菜に利用される。また、微量のサポニンが含まれるので血中のコレステロールを分解する効果もあるという説もある。
 特に「肥後ずいき」として、 江戸時代には淫具として有名でした。 艶笑落語や小咄には、たびたび登場します。 オチの通り、帯状の細長いもので薬局で売っていました。ただ、使い方や効果の程は分かりませんので、私に聞かないで下さい。

 

この噺は、典型的な前座話です;先ずはこの噺から師匠に教わります。また、円生や彦六ほどの大師匠でも演じていました。客種が悪く、気が乗らない高座、いわゆる「逃げ噺」として演じた噺の一つです。 円生のこの種の噺では、ほかに 「四宿の屁」、などが有名でした。

アナゴ;マアナゴの通称。ウナギに似た食用魚で、夏に美味。アナゴは鰻の仲間です。脂肪分は鰻の半分で、味があっさりとしています。さらに目に良いビタミンAや、肌の老化を防ぐビタミンEなどの栄養分を持っています。江戸前(東京湾)のアナゴは特に美味いと言われています。

ドジョウ(泥鰌・鰌);(江戸時代にはしばしば「どぜう」と書いた) ドジョウ科の硬骨魚の総称。またその一種。全長約15cm。体は長く円柱状。口は下面にあって、まわりに5対の口ひげがある。体の背部は暗緑色で、腹部は白く、尾びれは円い。淡水の泥の中にすみ、夜出て餌を探す。腸でも呼吸できる。食用。寺方の隠語でおどりこ。ドジョウ汁も美味いが、ドジョウ鍋の柳川は絶品。どちらも夏の栄養補給に好まれる。



                                                            2015年7月記

 前の落語の舞台へ    落語のホームページへ戻る    次の落語の舞台へ

 

 

inserted by FC2 system