落語「子猫」の舞台を行く
   

 

 桂米朝の噺、「子猫」(こねこ)より


 

 「はいぃ~、ちょっくら、およろしぃ」、「へぇ?」、「はいぃ~、ちょっくらおよろしぃ」、「えらいのんが立ったで・・・、何や?」、「わし今、そこの人置屋(ひとおきや)から来よりましたんじゃがのォ」、「人置屋、あぁ、口入屋か。何や?」、「今、小まげな子~が来よってのォ。『やれ来い、それ来い』ちゅうて連れもて来ましたんじゃがのォ。その小まげな子~にはぐれてしまいよってのォ、わし行くとこ分からんよぉなりよったんじゃ。わしの行くとこどこかいのォ?」、「無茶言うてもろたらどんならん『わしの行くとこどこかいのォ?』言われて『ここです』言える人あるやろか。え? 書いたもん持ってる? それを先言わんかいな、ちょっとこっちかし。女衆(おなごっ)さん、こらうちやがな」、「やんれぇ、おぬしとこでござんすか」、「女衆(おなごし)頼んだぁったんか?何やて? こんなオモロイ顔した女衆に飯炊いてもろたら、笑ろて食えん? ホンに言われるまで気が付かなんだが、面白い顔しとんなぁ・・・」。

 表でワァワァ言うておりますと聞こえたもんとみえまして、奥から御寮人 (ごりょん)さんが・・・、「表が騒がしぃがどぉしました? へぇ? 女衆が? 女衆のことならお店でかもてもらわいでも結構。あんたか? こっち入んなはれ」、「はいぃ~、これは当家のお家さんでございますかえ。わたくし”おなべ”と申しますで、何分よろしくおたのき申しますでのォ」、「面白い言葉やこと、笑たらいかんけど・・・。今、表で言うてはったん嘘やないのん。ほかに頼んでる口あることあるねんけれども、うちゃこぉして人がよぉさんいてるんでな、先に言っておきますが、うちはまことにお給金が安いの。年に二円よりならんねけど、あんたかめへんのか?」、「はいぃ~御寮人さん、わたくし何もお給金欲しさのご奉公でございませんでのォ」、「まぁ、それさえ承知ならいててみなはれ」。
 これがきっかけとなりまして、この女衆がお店でご奉公することになったわけでございます。はじめのうちは『オモロイ顔したけったいな女やなぁ』 少し毛嫌いをしていたんでございますが、なかなか人間といものは上辺だけで判断するもんではございません。このおなべという女衆、それはそれは気持ちの良い働きもんでして、人が見てるとか見てないとか、そんなことには全く関わりなし、用事を言われてするのやございません。自分のほ~から用事をこしらえて、それをドンドン片付けていって、その片付けたあと『片付けました』という顔もせんという、ホン気持ちのよい働きもんでございます。おなべがまいりましてからは、お上のものはもとより丁稚小者の端に至りますまで、襟垢の付いたものを着たことがない。

 「わしもあんたも、これから所帯持たんならん。そぉなった場合にやで、横町(よこまち)のボテ屋の女衆とうちのおなべとどっちを嫁はんにするか。どっちにする?」、「おかしぃこと言ぃ出しよったで、ボテ屋の女衆とうちのおなべ。そら可哀想な、ボテ屋の女衆ちゅうたら町内一の別嬪やないか。そら確かに、おなべの気ぃはえぇ、気ぃは可愛ぃけれどもや、男やったらどぉしても別嬪取るて。仕方がないがな、比べてやるのが可哀想やがな」、「ほぉ~、ほな、ボテ屋の女衆を嫁はんにすると言うんやな」、「わしゃ、うちのおなべと結婚するなぁ」、「ちょっと聞ぃた。聞ぃた? ボテ屋の女衆やのぉてうちのおなべ嫁はんにするねんてぇ。お前えらい茶人やなぁ、侘び寂びの世界やねぇ」。

 「おなべの一件知らんやろ。今から十日ほど前やったかなぁ、奉公人の悲しさや、奥の手水場へ行くことはでけんがな、下駄つっかけて裏の雪隠(せんち)場までカタカタ行ったと思わんかいな。戸ぉ開けて中へ入って窓越しに表見るっちゅうと、気が付かん間ぁに雨が上がったぁんねん、雲を見たり月を見たりして、キバッてたと思いぃな・・・、ず~ッと目ぇ落として、三番蔵の戸前を見るとな、ツッツッ、走る影があるねん。こんな夜深に何じゃい? 賊でも入りよったんかいなぁと思てグッと見込むと、ヒョイ、月の明かりへ出た。見るとこれがおなべや。昼間見るあの女の様子とゴロッと違う、その身の軽いこと、いま来たとこをギロっと見て、月を見上げて、さも嬉しそぉな声で『ヒヒ、ヒヒ、ヒヒッ~ッ!』、こっちがビックリするわ。お前ら話聞ぃただけでも恐いやろ」、「恐いわい」、「おらぁ、それを目の前で見たんやで」。
 「実はなぁ、わしもあるねん」、「ご番頭さんも?」、「大きな声出しなや。わしのはおとついの晩のことや。やっぱり手水の帰り、おなべの部屋の前通ったんや。まだ部屋の灯りがついたぁるねん。あんな我精(がせぇ)な女のことやさかいな、綴くりもんでもしてよんねやろと思たけども、昼間の疲れで眠りこけてるかも分からんやろ。障子がこれぐらい開いたぁったんや。そっから中覗いて見たら、おなべまだ起きてる。鏡を前へ置いて、両方にロ~ソク立てて、その前でうずくまってよんねん。鏡に映ったおなべの顔のそのものすごかったこと・・・、髪はさんばら、両方の耳がピッと立って、目がギロギロッと異様に光って、口がこれからこれへ裂けて血のりがベタぁ~。両方のロ~ソクの火影(ほかげ)でユラ、ユラ、ユラユラと揺れるおのれの顔をジ~ッと鏡の中に見込んで、さもうらめしそぉな声で『ハッ~ッ』」、「わぁ~っ、恐わぁ~ッ!」。
 「何を喧し言うてなさるねん、色街の真ん中やないで。船場の真ん中でワァワァ・ワァワァ。早いこと寝なはらんかッ!」、「旦さん、えらいすんません。お先休ましてもらいます」、「お先休ましてもらいます・・・。お先、おさき、お先、オサキ・・・」、「番頭どん、ちょっとわたしの部屋へ」、「かしこまってございます」。

 「お座布当てとうくれ。来てもらいましたのは他のこっちゃない、実はおなべの一件や」、「若いもんと一緒になりまして、ワァワァまことに相すまんこってす」、「大きな声出しなはんな。 実はわたしも知ってますねん」。「旦さんも」、「妙な女ごやなぁ、昼間のうちはまことにまめまめしく働いてくれるねやが、日が暮れて夜が更けるというと、二重三重の締まりを越えてどこへともなく消えて行く、その身の軽いこと。どおやら朝までには帰って来ている様子じゃが、得体の知れん女御じゃ・・・。今のところ、どこさんからも苦情は無いが、災いの芽は早よ~に摘んでおくに限りますで、一つ断りを言うて、家に帰して貰いたい」、「ど~でございます、あした御寮人さんの芝居行きでございます。おなべをそのお供に付けまして、その留守にあれの持ち物を調べまして、おかしなものが出てまいりましたら『おい、これは何じゃ?』ということで、それを潮に暇を出すというよぉな・・・」、「ん、そんなことでよかろ。よろしゅ頼んましたぞ」。

 あくる日になりますというと、何にも知らんおなべは御寮人さんのお供をして表へ出ます。その留守に、「持ちもんと申しましても、この大きな葛篭(つづら)のよぉなもの一つでございます。どおぞお調べを」、「なんぼ奉公人のものとは言え、他人の品物を勝手に調べるというのは、あんまり心地のええもんやないけど、しかたなかろ」、「なかなか衣装持ちやなぁ、この着物に見覚えはあるか?」、「これは確か、目見え(めみえ)のときに着てた着物でございます。間違いございません」、「この帯は?」、「その時締めておりました帯です」、「この着物は?」、「こらよそ行き、いわゆる一張羅ちゅうやつやろと思います。いっぺん主家(おもや)へお使いに行きましたときに着とりました」、「この帯は?」、「その時締めてた帯でございます。その下は夏物でございます」、「この着物は?」、「旦さんこの着物、おなべ自慢の着物でございます。郷(くに)の母親が手織りで織ったという強いことこの上なし、雨はじく、水はじく、火の粉はじく、 鉄砲玉はじく・・・、この帯は? この着物は?」と順々に取ってまいりまして、下から2枚というところへまいりましたときに、プ~ンと・・・」、「番頭どん、おかしいカザがするなぁ」、「ホンに、けったいな臭いがしますなぁ」、「ここまで調べてきたが、もぉ置こか」、「アホなことおっしゃいますな。ここでお止めになっては仏を作って眼を入れずでございます。旦さん、どうぞ・・・」、「そ~か、そんなら・・・と、あとの一枚をちょっと取ってみますとその中に、何の獣じゃ分かりませんが毛皮でございます。赤や白、黒、マンダラ。色んな毛皮が血みどろになってモヤモヤモヤ・・・」、「このような恐ろしい物を持っている女、片時としてうち置いとくことできん。すぐに暇出しとぉくれ」、「堪忍しとくなはれ、こんな恐ろしぃもん持ってまんねんがな、暇出すてなこと言うたら喉笛ガブッとかぶりつきよります。旦さん、このことだけはご勘弁を・・・」、「馬鹿なことを言いなさんな、お前さんの役目じゃないか。よろしゅ頼みましたで」。

 おなべの方は何にも知らんと帰ってまいります。 「おなべどん」、「番頭さん、何かのォ?」、「ちょっと、わしの部屋に水一杯持って来てんか」、「はいぃ~、番頭さんかしこまりました」、「おっきありがと。そこ置いてもろたら結構。ちょ、ちょっと話があるねん。すぐ済む。よ~やってくれる、旦さんも御寮人さんも喜んではるねん、二人前も三人前もしてくれる言うてな。そぉいう話聞かされるとわたしも嬉しいがな。
 今日の芝居どおやった? 芝居初めて? 郷でいっぺん見たことある? やっぱり大阪の芝居違うやろ? 良かった? 面白かった? 良かった? 何やってた? えッ、四谷怪談。こんなことばっかり言うててもいかん、言うてしまう。おなべどん、ちょっとあんたに話があるねん。話をしたあとで、それは嫌やとかかなわんと言われるとまことに困るのでな、何も聞かんうちに『うん』ちゅうて。先に『うん』ちゅう返事が聞かして欲しぃねん」。
 「番頭さん、わしお前の話知ってるでのォ」、「知ってるか?」、「番頭さん、お前妙な人じゃのォ。初めて会いよったときにはよォ、変な顔した面白いお人じゃなと思いよったけど、まぁ人間というものは上辺だけでは分からんもんじゃのォ、付き合ぉて見るとお前さんなかなかえぇ人じゃ。わし、聞いた。来年は暖簾分けしてもろて、別家さしてもらうことになってるそ~な。そ~いうことになりゃ、そぉいうことになると思うでのォ。わしもこれというて定まった男があるわけじゃなし、なぁ、番頭さん。わし至らんもんじゃけど番頭さんさえよけりゃ・・・」、「違う、違う、違う。そんな陽気な話とちゃうねん。妹さんが戻ってくるので、その間郷に帰ってくれないか?」。
 「番頭さん、そ~じゃあるまい。お前、わしの留守中、何か見やせなんだか?」、「見た、見た、誰にも言えへん、堪忍して。わしだけのことにしとくさかい堪忍して」、「あれを見られては仕方がない。番頭さん、わしの言うことをひと通り聞いておくれ・・・、こ~いうわけじゃ」。

 「番頭さん、わしの父(とと)さんはの~、百姓片手の山猟師。生き物の命を取るのはむごいことじゃと、再三意見はしたれど聞いてはくれず。親の因果が身に報い、七つの時に飼い猫が、足を噛まれて帰ったを、舐めてやったが始まりで、猫の生き血の味を覚え・・・、それから先というもの、人様の可愛がる仔猫と見れば、捕って喰らうがわしの病。あれは鬼じゃ、鬼娘じゃと噂され、村にはおられず。大阪へ出て来て奉公すれば治るかと、出て来は来たが・・・、番頭さん、だめじゃ。日のあるうちは何とか辛抱するのじゃが、夜中になれば心が乱れ、締まりを越えて町へ出て、猫を捕らえて喉笛喰らいつくまで夢うつつ。生暖かぁい猫の血が、喉元過ぎれば我が身に返り、また益体(やくたい)もないことをしてのけたと悔やんでも、あとの祭りじゃ。番頭さん。そぉいうわけじゃで、わしここを追い出されても、どっこも行くところありゃせんのじゃ。番頭さん、置いと~くれ。今日限り止めます。手足縛って寝ますで、番頭さん、ど~ぞ、ど~ぞ置いとおくれ」。
 「何じゃいな。お前、猫捕りかいな。何や、猫捕るんか。荷物の中にあったんは猫かいな。猫捕るだけの話かいな。わしゃガブッとかぶりつかれるかと思てたんやがな、猫捕るだけかいな。因果なもんやなぁ、昼間あんなに大人しいあんたが、夜になって猫をなぁ~。そんな恐ろしいことをやるなんて・・・、
猫被ってたんかいな」。

 



ことば

子猫;題名と落語の内容がこれほどかけ離れた噺も珍しいでしょう。子猫は会話の中では登場せず、血だらけの三味線革(?)になって出てくるだけです。悲惨な可哀想な子猫たちで、おなべに同情するのか、子猫に同情したら良いのか迷うところです。
 猫を題材にした噺は沢山有ります。「猫の皿」、古物を探して川越まで来たが、高麗の梅鉢で猫が食事・・・。「猫と金魚」、隣の猫が旦那の金魚を狙っている。「猫の恩返し(猫塚の由来)」、飼い猫が小判をくわえてきた。「猫久」、猫のように大人しい男が刀を持ちだし。「猫定」、猫をかわいがる博打打ちが間男に殺されその敵を討つ黒猫。「猫の忠信(猫忠)」、猫が我が親恋しさに、訪ね訪ねて来てみれば。「釜猫」、大釜に若旦那を入れて遊びに来たのだが。「猫怪談」、上野不忍池で与太郎の義父の仏様が大変なことに。「猫の災難」、猫のお余りの鯛をもらった。それを見て酒盛りの準備をするが。等々、結構有ります。艶笑落語では「赤貝猫」、赤貝にちょっかいを出した猫が。等、これらは猫がメインになって出て来ますが、脇役で出てくるものも沢山有ります。

人置屋(ひとおきや);雇い人や遊女の周旋屋。私設安定所。奉公人の就職が決まるまで一時の宿(人宿屋)を提供したり、身請人や仮親などの世話をもした。口入れ屋。桂庵(ケイアン)。

御寮人 (ごりょん)さん;近世、中流の人の娘または年若い妻への尊敬語。ごりょん。(ゴリョウニンの訛) 他人の妻または娘の尊敬語。

女衆(おなごし);女中。下女・はしため。雇われた順あるいは年齢順に、松竹梅からとってお松どん、お竹どん、お梅どんと呼んだ。長じるとお松っつぁん、お竹はん、お梅はんとなる。決して呼び捨てにはしなかった。

女衆のことならお店でかもてもらわいでも結構;口入れ屋から女性の雇い人を入れるときは、御寮人さんが責任を持って面接をし、店で働かせるか奥(家事)で使うか決め、給金も決める。男連中が口出しすることは一切許されない。

船場(せんば);東西の横堀川、北は土佐堀川、南を長堀川に囲まれた地域を船場と呼ぶ。大阪の商業の中心地。

お家さん;その家の内に住む主婦のことを指していう。主として、当人と向かい合って話す時などに用いる。

丁稚(でっち);職人または商人の家に年季奉公をする年少者。雑役に従事した。江戸では小僧と言った。

   

 左から江戸三井越後屋の小僧。中、右、番頭(旦那)さんのお供で、荷物を持って同行。熈代照覧より。

ボテ屋;紙を貼って漆または渋を塗った竹の小葛籠。張り子。張りぼての略。

茶人やなぁ、侘び寂びの世界やねぇ;地獄の選択とか究極の選択とか言って、どちらにも大きな欠点があって選びずらいとこです。別嬪さんを選ぶか働き者を選ぶか。

手水場(ちょうずば);厠(カワヤ)の傍の手を洗う所。手洗場。便所。はばかり。かわや。

雪隠場(せんちば);せっちんば。便所。かわや。せんち。雪竇禅師(セツチヨウゼンジ)が浙江の雪竇山霊隠寺で厠の掃除をつかさどった故事からという。

我精(がせぇ);骨身を惜しまず働くこと。気が利いてはきはきしていること。元気のよいさま。また、勝気なさま。

血のり;まだ乾かない粘りけのある血。血糊(ちのり)。のりのようにねばねばする血。

暇を出す(ひまをだす);奉公人などを解雇する。また、妻を離縁する。

葛篭(つづら);藤づるあるいは竹,ヒノキの薄板などを編んで作った籠,またこれに紙をはり渋,漆などを塗った箱。形は長方体が多く,ふたをかぶせて衣類などを入れた。衣籠,葛羅などとも書く。〈つづら〉というのは、はじめもっぱらツヅラフジのつるを用いて作ったからで、縦を丸づる,横を割づるで編み,四方のすみと縁はなめし皮で包んで作ったという。のち、ツヅラフジで作ったものはすたれた。近世に入って万年葛籠などとよばれたものは、竹、ヒノキ製に紙をはり渋や漆を塗ったもので、元禄(1688‐1704)の初め、神田鍋町のつづら屋甚兵衛がはじめて作りだしたという。
 江戸東京博物館蔵。

お目見え(おめみえ);めみえ。奉公人が、その家にまず試みに使われること。御目見得奉公。

一張羅(いっちょうら);持っている着物の中で、一番上等のもの。唯1枚の晴着。我々子供の時分、普段着と違って大事なときに着る唯一の着物。

主家(おもや);(分家・支店に対して) 本家(ホンケ)・本店の意。

カザ;におい。かおり。動詞はカザガク。

仏を作って眼を入れず;仏作っても開眼せねば木切れも同然。 (仏作って魂入れず)仏像を作っても、作った者が魂を入れなければ、単なる木や石と同じであることから。 転じて、物事は仕上げや一番肝心なものが抜け落ちていることのたとえ。 最も重要であり、それが欠けたときは作った努力もむだになるということ。
 似た言葉に、『画竜点睛を欠く』:「画竜」は竜の絵を描くこと、「睛」は瞳のことで「点睛」は瞳を点ずるということ。 中国の梁の時代、張僧ヨウという絵師が竜の絵を描き、最後に瞳を入れたところ竜が天に昇ったという故事から、「画竜点睛」は大事な仕上げの意味。 その仕上げを欠いてしまう意味から。 「点睛を欠く」ともいう。  

マンダラ;まだら。種々の色または濃淡の入りまじっていること。また、そのもの。ぶち。むら。
 上方ではマダラの間に”ん”の字を入れて発音する。かなり例が多いが一部示すと、ゴンボ(牛蒡)、ゴンゴ(5合)、キンノ(昨日)、ニンガツ(二月)、テンマリ(手鞠)、マンダラ(斑)、等々。

喉笛(のどぶえ);喉の気管の通ずる所。ふえ。 番頭さんはおなべさんに話をしたら逆上されて、のど笛を噛み切られるのではないかと心底心配していた。猫捕るだけの話かいな、と一安心。

四谷怪談(よつやかいだん);江戸時代後期の歌舞伎狂言。世話物。5幕11場。四世鶴屋南北作。文政8年(1825) 江戸中村座初演。怪談物の代表作。寛文年間 (1661~73) 四谷左門町に住んでいた田宮又左衛門の娘お岩が嫉妬によってたたりをなしたという巷説などを素材としたもの。『仮名手本忠臣蔵』の世界を借り、また南北自身の前作『謎帯一寸徳兵衛 (なぞのおびちょっととくべえ) 』などの趣向を取入れている。お岩が夫の伊右衛門に毒薬を飲まされて次第に容貌がくずれてゆく「髪すき」の場面や、伊右衛門に殺された小仏小平とお岩の死体が戸板にはりつけられて堀からあがる「砂村隠亡堀」の場などが凄惨さで名高い。
 右図:北斎画「百物語」お岩さん。
 百物語は、夏の蒸し暑い夜長に、数人が集まって行われる遊びで、百本の灯りをともし、怪談を一つ話すごとに一つ一つ火を消してゆき、真っ暗になったときに怪異が現れると言われた。

 「四谷怪談」戸板返しの場。豊原国周画。江戸東京博物館蔵。 第3幕「砂村穏亡堀」の山場。お岩の夫民谷伊右衛門がお岩と小仏小平を戸板の裏表に釘付けされ川に捨てられたが、砂村に釣りに行った時、その戸板が浮かび上がる。この戸板絵の裏側には小仏小平が描かれている。

暖簾分け(のれんわけ);長年忠実に勤めた奉公人に、店を出させて同じ屋号を名のることを許す。その際、資本を援助したり、商品を貸与したり、顧客を分けたりする。

益体もない(やくたいもない);役に立たない。しまりがない。また、そのような者。

猫被ってた(ねこかぶってた);本性を包み隠して、おとなしそうに見せかけること。また、そういう人。羊の皮を被った狐。

 


                                                            2019年5月記

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