落語「釣りの酒」の舞台を行く
   

 

 桂歌丸の噺、有崎勉作「釣りの酒」(つりのさけ)より


 

 私(歌丸)の趣味と言いますと川釣り専門で楽しんでいます。

 「おい。そこに居るのは永君ではないか?青い顔してどうしたんだ」、「見たい物を見無いのだ」、「見ればイイだろう。芝居か、映画か、寄席か?」、「見たいの上に『の』の字を付けるんだ」、「のみ(吞み)たい」、「吞みたければ飲めば」、「それには懐が・・・、夜中の大通りなんだ」、「何、それ?」、「寂しい」、「そうか。奢ってやりたいのは山々なんだけれど、懐は山の中の一軒家なんだ」、「なに?」、「なおさら寂しい」。
 「君に良いことを教えよう。タダで酒が目一杯呑めるところがあるんだ。行くかい。君が知ってる一丁目の斎藤さん、あの旦那なんだ」、「初耳だ」、「普通に行ったってダメだ、(釣り竿を振り回す仕草をする)これが好きなんだ」、「トンボ捕り?」、「釣りが好きなんだ。酒が出て、充分話を聞いて、吞んだら帰って来る。どうだ、タダになる」、「ダメ。いろいろ道楽をしたが、釣りだけは駄目なんだ」、「大丈夫、相手の話に相づちを打っていればイイ。私はやって来たばっかりだ」、「良いことを聞いた」。

 「こんにちは、ご主人いらっしゃいますか」、「宅の主人に釣りの話を・・・。取り次いできましょう」、「どうぞこちらへ。同じ町内で・・・、釣り好きとは知りませんでした。『狂』の字が付くほどで、夜通し釣りの話をお茶を飲みながら・・・」、「えッ!?お茶ッ」。
 「ところで永さん、いつもは何処に行かれます?」、「川崎の自動車会社に・・・」、「勤め先ではなく、どの川に行かれます」、「『相づちだけでイイ』と言われたので、考えてこなかった。そう、大井川です」、「遠方ですな」、「釣り師はいますか?」、「大井川ですから川越の人足がいます。そこに深雪(みゆき)という娘が杖を突いてやって来ます、すると川止めじゃ、川止めじゃ」、「それは歌舞伎の『朝顔日記』だよ。話だけでは手持ち無沙汰でしょうから、一杯やりましょうか?」、「お茶ですか?お酒ぇ!思ったより出るのが早かった」、「支度をしますから・・・。私は強くなく、お猪口で2~3杯吞むと顔が真っ赤になる達なんです」、「私もお猪口一杯吞むと顔が赤くなり、二杯吞むと心臓がこんなになりまして、三杯吞むと少ーし落ち着いてきまして、後は何杯でも・・・。え?ご主人がお酌をしてくれる。旨い釣りですな~」。
 「永さん、失礼ですが、キス(鱚)の経験はおありですか?」、「私は若いですから、その位は・・・」、「何処でやります」、「うッ、決めた場所ではしません。しいて言うなら暗闇で・・・。はずみで・・・」、「永さん、今度私としませんか?」、「旦那と~~。それは・・・。旦那としたって刺激は無い」。「何の話をしているんですか?」。
 釣りの酒の話です。

 



ことば

柳家金語楼=有崎勉(ありさきつとむ);(明治34年(1901)3月13日~昭和47年(1972)10月22日) 東京・芝の生まれ。 本名・山下 敬太郎。 ペンネーム・有崎 勉。 三語楼門下として少年時代から高座にのぼり、大正9年柳家金三で真打ち、13年柳家金語楼を名のる。同年朝鮮羅南の第73連隊に入隊、その時の体験をもとにした自作「兵隊落語」で人気を博し、一躍スターとなる。昭和5年日本芸術協会を結成。13年より吉本興業に所属し、落語をはなれ、喜劇俳優として、舞台、映画に数多く出演。戦後はテレビ開局とともに「ジェスチャー」「おトラさん」「こんにゃく問答」などでユニークなタレントとして活躍した。
 また、有崎勉のペンネームで新作落語を毎月発表。五代目古今亭今輔、五代目春風亭柳昇らがこれを演じた。また、自身も無所属ながら機会があるたびに高座に上がっていた。主な作品は、古典の改作物「きゃいのう」、新作では「酒は乱れ飛ぶ」「笑いの先生」「アドバルーン」人情噺風の「ラーメン屋」など1000以上の新作落語を作った。SPレコードも多数吹き込んでいる。発明家としても知られる才人。

桂 歌丸(かつら うたまる);昭和11年(1936)8月14日~2018年7月2日 )。本名は椎名 巌(しいな いわお)。 神奈川県横浜市中区真金町(現:南区真金町)の遊廓出身・在住。定紋は『丸に横木瓜』。横浜市立横浜商業高等学校定時制中退。 出囃子は『大漁節』。公益社団法人落語芸術協会会長(五代目)。当初は新作落語中心だったが、近年は、廃れた演目の発掘や三遊亭圓朝作品など古典落語に重点を置いて活動している。地元・横浜においては横浜にぎわい座館長(二代目)。旭日小綬章授章。 演芸番組『笑点』(日本テレビ)の放送開始から大喜利メンバーとして活躍し、平成18年(2006)5月21日から平成28年(2016)5月22日まで同番組の五代目司会者を務め、同日付で終身名誉司会者となった。
 多趣味で知られ、足腰が弱る前は釣りに熱中していた。夏は大物狙いで渓流へ、冬はワカサギを求め相模湖へ通うのを恒例としていた。他には歌舞伎・映画鑑賞(特に東映時代劇)、古物店巡り、化石やジッポー・腕時計の収集、写真撮影、読書(特に横溝正史や高木彬光の作品)を好む。
 この噺「釣りの酒」は、昭和61年(1986)9月2日テレビ東京の『爆笑おとな寄席』より収録した音源です。

 落語芸術協会会長の桂歌丸(かつら・うたまる)さんが2018年7月2日午前11時43分、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患のため、横浜市内の病院で死去した。81歳。

 1951年、15歳で五代目古今亭今輔に入門し前座名今児(いまじ)を名乗った。2年半ほど落語界から遠ざかったが、61年兄弟子の桂米丸門下に移り米坊として出直し。64年歌丸と改名し、68年に真打ち昇進した。
 66年に始まった日曜夕方放送の「笑点」では、一時降板したが、当初からのレギュラーメンバー。三遊亭小円遊さん(80年死去)や三遊亭楽太郎(現六代目円楽)さんとの掛け合いが、茶の間の人気を呼んだ。2006年には五代目円楽さん(09年死去)に代わって5代目の司会者を16年まで務め、高視聴率番組の安定した人気をけん引した。
 生家は横浜の妓楼(ぎろう)。地元愛は有名で、74年からは地元にある三吉演芸場で独演会を開いてきた。芸や噺(はなし)の継承にも力を入れ、「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」「牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」「怪談乳房榎(ちぶさえのき)」といった三遊亭円朝の長編の続き物を数多く手がけた。
 04年に落語芸術協会会長、10年からは横浜にぎわい座館長も務め、後継の育成や落語界発展に尽くした。 芸術選奨文部科学大臣賞、文化庁芸術祭賞など受賞多数。07年旭日小綬章。16年文部科学大臣表彰。 著書に「座布団一枚! 桂歌丸のわが落語人生」など。
 近年は誤えん性肺炎などで体調を崩し、入退院を繰り返していたが、今年4月の国立演芸場では隔日でトリをつとめ、長講の「小間物屋政談」を熱演していた。
 訃報記事は共同通信ーー毎日新聞より

 最後の最後まで新しい噺を自分のものする研究心は後輩達の鏡でした。今回は軽く趣味の釣りを題材にした噺を取り上げました。ご冥福を祈ります。

朝顔日記(あさがおにっき);本名題「増補 生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」。作者・山田案山子。翠松園主人校補。嘉永3年(1850年)1月刊行。時代世話物・全五段。天保3年(1832)、竹本木々太夫座初演。

 芸州(いまの広島)岸戸の家臣・秋月弓之助には、深雪(みゆき)という美しい娘がいた。
ある年、宇治の蛍狩りで深雪は宮城阿曾次郎という青年を見初める。しかし秋月一家は、国許に騒動が起こって緊急に帰国することになり、深雪は明石の浦で阿曾次郎と悲しく別れなければならなかった。それ以来深雪はますます想いを深めるが、駒沢次郎左衛門との縁談がもちあがってしまう。実は駒沢こそ阿曾次郎とは知らず、貞操を守るため投身自殺を図る深雪。そのとき助けてくれた妖婆荒妙に監禁され、遊女に売られそうになる。
 そこを、この家に入り婿していた浮洲の仁三郎(実は駒沢の弟三郎春次)に助けられるが、流浪するうちに盲目となってしまう。深雪は阿曾次郎に書いてもらった「露のひぬ間」の音曲を歌ってようよう命をつなぎながら、彼の行方を追う。
 ある日深雪は島田の宿で客に所望され、琴を弾きながら身の上を語る。その客こそ駒沢であった。しかし盲目のため、尋ねるその人と知らず別れてしまう。深雪が帰ろうとした時、客の残した形見の品から客が駒沢とわかったが、すでに大井川を渡ってしまった。深雪は増水で川止めになった岸辺で号泣する。大井川へ投身しようとする深雪を下僕関助が押しとどめ、宿の亭主(実は旧臣)の薬で眼も治り、深雪はふたたび駒沢の後を追いつづけるのだった…。

渓流釣り本流から支流に入り、渓流を登って、山奥に入って釣るのですが、釣り行と言うより山行です。そこまで行く釣り人の服装や装備を見れば納得です。そこは自分だけの、または、仲間達だけの世界。釣れなくても気分は爽快。エサ釣り、テンカラ釣り、フライ・フィッシング、ルアー・フィッシングなどがあります。初心者にはエサ釣りが無難。初心者を連れて行ってくれるような物好きはいません。自分でアタック。

   

 アマゴ                ヤマメ                 イワナ

■鱚釣り(きすずり);海釣りの中でも最もポピュラーな釣りの一つ。キス釣り専用の船も出ていますし、砂浜からの投げ釣り、防波堤からのチョイ投げなど、海底に砂地のある場所ならば、初夏からの時期ほぼ間違いなく釣れる魚です。仕掛けもシンプルでアタリも取りやすい魚なので、初心者にとっても、釣りやすい魚です。海辺ではファミリーやカップルでキス釣りをしている風景もよく見られます。
 チョイ投釣りの人気ターゲット。初夏から秋が釣りやすいが、場所を選べば一年中狙える。チョイ投げで釣れるサイズは15~20cmがアベレージ。刺し身や天ぷらなどで美味。外道のメゴチも外観に似ず美味い。
 歌丸さんも言っていますが、エサがゴカイやアオイソメ等で、女性は嫌がって、連れの男性がエサ付けに専念することになります。その時の甘い声を聞いていると、何回海に落ちたことか。で、以後、二人連れを見ると石をぶつけたくなります。

大井川(おおいがわ);静岡県中部、駿河・遠江の境を流れる川。赤石山脈に発源し、駿河湾に注ぐ。長さ160km。江戸時代には、架橋・渡船が禁じられ、旅人は必ず人足を雇って肩車または輦台(レンダイ)で渡った。増水になると川止めになって前後の宿駅で水量が減るまで、通過することが出来なかった。
 右図:東海道五十三次(行書版)
、金谷・大井川 広重画。



                                                            2018年7月記

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